「輝きの中に立っていた」【時速36km「それから」ライブレポ】
暑さ寒さも彼岸までとよく言うが、夏らしい夏が私のもとには来ないまま、夏が過ぎ去っていった。
“withコロナ”に抗っていたいが、ニューノーマルな日常は、“暑さ”を私からを遠ざけ、”熱さ”も奪っていったに違いない。
その“熱さ”を思い出させてくれた。
2021年9月19日、時速36km「それから」ツアーの大阪公演に参戦した。
ライブハウスでのバンドの演奏を聴くことは、ほぼ初めて。
高校でやっていた軽音楽でライブハウスを借りて、自分がステージに立ったことと、友達の演奏を聴いたことだけ。
それももう何年も前の思い出。ただ、ライブハウスへの階段を下りると、あのころの感覚が甦ってくる。
ライブハウスの独特な雰囲気に包まれながら抱くあの感情はなんとも形容し難い。
緊張感のような、ワクワク感のような…あの感じ。
なにかすごいことが起きそうな気がする…あの感じ。
対バンのゲストは、bacho。
開演時間になり、チューニングを始めた...
それだけでもう鳥肌が立つ。
狭くて暗い箱の中に音楽が鳴り響くことはこんなに気持ちがいいことを思い出した。
恥ずかしながら、存じ上げなかったバンドだったのだが、一瞬で彼らの世界へと会場全体が連れて行かれた。
自分の想いを歌に乗せて、演奏に乗せて届けるってどれだけ気持ちのいいことなんだろうか。
そんな思いが頭に浮かんでくるほど、気持ちが良さそうに演奏をしていた。
歌詞に想いが乗っているので、初めて聞く曲なのに、心の中まで届いた。
途中で「歌詞の通り歌わねぇ」みたいなフレーズがあったが、本当に何が歌詞かわからなかった。
想いをメロディに乗せているとはこういうことなんだ。
ライブで聴くことができて本当に良かった。と思えるバンドだった。
そして、時速36km。
もう正直、セットリストはしっかりと覚えていない。
なんだろうか、あの尊い空間は。
bachoも時速も再三、「このライブは、自分たちとあなたたち(観客)で作られるものだ」といっていた。
その通り、いろいろな想いを持った人たちが、心斎橋の地下の小さなライブハウスに集まった。
時速の演奏が聴きたかった人、bachoの演奏が聴きたかった人、現実から逃げたかった人、楽しいことがあった人、なんとなく誘われたから来た人、暇つぶしに来た人。
もうこの人達と過ごす瞬間は二度とない。そこで作り出された雰囲気の中に私がいた。
これが、ライブで音楽を浴びるということなんだと再確認した。
ステイホームでヘッドホンを通して聴く音楽それもまた最高だ。
ただ、ライブで生み出された生の音楽にはかなわない。同じ公演は二度とない。だから尊い。
ライブでもやった『素晴らしい日々』という曲の歌詞にこんなフレーズがある。
「嫌になって飛び込んだ列車」
嫌なのは嫌になることがない事
前よりは幾分か楽なのに
くだらない嘘を身に纏ってる
嫌になることがない、「最高気温と最低気温誤差0で収まった日常」で失った”熱さ”を取り戻すために、今日のチケットを買ったんじゃないのかと思った。
仲川さんは、MCの時に何度もこう言った。
「今日感じた感動は、必ずさらわれてしまう。日々生きていく中で、他の楽しいことだとか、それ以上に辛いことだとか。正でも負でもいずれこの感動は、さらわれていく。ただ、さらわれてしまっても心のどこかには残ってるもの。それを全力で届けたい。」
「愛してる」
こんなご時世は人の心を冷え込ませ、荒ませ、暗くさせてしまう。
絶対に、音楽を止めちゃいけない。
このいっときの感動は、さらわれてしまっても心のどこかにある“熱さ”の原動力になると信じている。
ロックバンドはステージの輝きの中に立っていないといけないんだ。
その輝きの中のロックバンドがくれる“熱さ”を必要としている人がいるんだ。
ライブハウスでは音楽が鳴っていなきゃいけないんだ。
夜は夜明けの前が一番暗いって言うだろう
このフレーズは、アンコールの最後の曲『夢を見ている』の一節だ。
一番”熱さ”を感じる大好きな曲だ。
もう、夜明けがすぐそこまで来ている。
さまざまな感情に、幾度となく感情がさらわれてしまっても、もう少し、もう少しだけ辛抱して、心の種火だけは消さずに、次また、“熱さ”を貰いに来よう。
そして、次のライブでは、メンバーの想いに大声で応えたい。そして、愛してるを伝えたい。
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