台湾の風早くんから10年ぶりにメッセージが届いた話
低血圧ゆえに目覚めの悪い私なのだが、この日はスマホを見るなり目がかっぴらいた。台湾の風早くんから、メッセージが届いていたのだ。
「風早くん」とはアラサー世代、特に女子は一度は読んだことがあるだろう少女漫画『君に届け』の登場人物・風早翔太くんのことである。名前からして爽やかなのだが、漫画でもその名の通り爽やか好青年だ。世代の女子たちは「こんな男子いたらなぁ」と一度は思ったことがあるのではないだろうか(そんな私は『ストロボ・エッジ』の蓮くん派だった。実写版の福士蒼汰は大正解だった)。
「台湾の風早くん」とは、約11年前、私が大学時代にアメリカ留学していた時に出会った同級生である。彼は「爽やか」と具現化したような人間だった。
何がどうなって仲良くなったのかは覚えていないが、私じゃない日本人留学生と風早くんが仲良くなり、そこから私を含む日本人留学生たちと風早くん含む留学生たちとでなぜか大学内のバレーボール大会に出ることになり(結果は全敗なのに3位という小規模さ)、台湾人たちのホットポットパーティー(鍋パ)にも呼ばれるようになり、とても仲良くなった。授業の空き時間にはスタバで話したり、夜ご飯を一緒に食べたり、私たちの帰国直前には、風早くんが「タピオカ飲みに行こうよ!」と声をかけてくれた。
まずなんと言っても見た目が爽やかだった。彼の笑顔に胸をぶち抜かれなかった女子はいないだろう。なんなら男子も撃ち抜かれていた。ニカっと笑うと見える綺麗な歯並びと、ふにゃっと垂れる目が最高に可愛かった。
誰に対しても「君も一緒に行こうよ!」と明るく声をかけていて「爽やかすぎるし、良い奴すぎる……」と私は心の中で勝手に「風早くん」と命名して呼んでいた。
1つ、彼の爽やか要素を薄めてしまっていることがあった。
それは、彼がバチバチのヘビースモーカーだということだ。
授業が終わって一服。
コーヒーを飲んで一服。
バレーボールの試合が終わっても一服。
あまりにも風早くんに似合わないと思った私は「身体に悪いよ、やめなよ」と言った。今思えば、彼女でもなんでもない、ただの芋な日本人女にそんなこと言われても、言葉通り「余計なお世話」である。
しかし風早くんはそんな時でさえ、風早くんだった。「やめなよ」とお前誰やねん台詞を吐いた私に対して、いつも通りにっこり笑ってこう言ったのだ。
It's my life.
この瞬間、私はこの人に思う存分タバコを吸ってほしいと思った。身体に悪いとか、肺がんのリスクが増えるとか、そんなことは一気にどうでも良くなった。だって "It's my life." なんだから。仕方ないじゃないか。風早くんが「タバコを吸うことは俺の人生にとってなくてはならないことで、 NO SMOKING NO LIFE なんだから(かなりの意訳)」と言っているんだから。当時は大学生ということもあり、タバコを吸っている人を毛嫌いしていた私だが、風早くんは初めての例外になった。もはや、彼にはどんどんタバコを吸ってほしくなった。だって、"It's my life" やで? かっこよすぎるやろ。
ちなみに、お互い恋愛感情を抱くことはなかった。
風早くんはみんなの風早くんすぎたし、私は芋すぎた。
帰国後、何度かメッセージのやり取りをしたことはあったが、この10年なんの音沙汰もなかった。なのに、なぜメッセージが送られてきたのか。
今年の4月に台湾で大規模な地震が発生した。
日本のテレビでも連日報道されており、私はふと、10年前に仲良くしてくれていた台湾の友人たちが気になった。留学中に出会った台湾人たちは、当時台北だけでなく台中や高雄など少し離れた街の出身者もいたが、今どこに住んでいるかはわからない。当時は主流だったFacebookも、今はあまり使われていない。
返ってこなかったら仕方ないけど、気にはなるから一応送ってみよう。
そう思った私は、仲良くしてくれていた台湾人たちにメッセージを送った。みんな「無事だよー!」と返してくれたのだが、風早くんだけ返信がなかった。
頻繁に更新されていた彼のFacebookは、ある時を境にぱったり更新がなくなり、プロフィール写真も真っ黒になっていた。最悪のパターンも考えたが、10年も連絡を取り合っていない、異国の地にいる私にはどうすることもできないし、情報を知る由もない。
そして台湾人の友人たちに連絡を取ってから2ヵ月が経ち、私も風早くんにメッセージを送ったことをすっかり忘れていた。
それが先日。
「やっほー! 今Facebook全然見てなくてさ、メッセージ気付かなかったよ! 元気にしてる? 今どこ住んでるの?」
寝ぼけながらスマホを見た私は、そのメッセージを見た瞬間に目をかっぴらいた。
風早くん!!!!! 生きとるやないかい!!!!!
久しぶりの風早くんは、メッセージからも爽やかな風を吹かせていた。
そこから近況報告のやり取りを少しして「今はインスタやってるから、良かったらフォローして!」と送られてきた。もちろん、すかさずフォローした。そこにいたのは、アメリカ留学時代より髪型がタイワンナイズドされた風早くんだった。正直アメリカ時代の方がサラサラ黒髪ストレートで爽やかレベルMAXで、芋日本人の私の好みだったが、そんなこと風早くんからしたら知らんこっちゃないし、タイワンナイズドされた髪型であっても爽やか風早くんであることに変わりはなかった。
相変わらず爽やかな風早くんにホッとしていると「あ、そういや、先月京都行ったよ!」と送られてきた。
……いや、言うてよ!!! 私関西おるのに、京都やったら行けるやん! 守備範囲内やん! めちゃくちゃ案内するやん! 同じ時期に留学行ってた友達にも声かけて、みんなで会いに行くやん!!! 10年ぶりに爽やか供給してほしかったやん!!!
……と思ったが、冷静に考えて、日本に行くからと言って10年連絡を取っていなかった芋日本人に「案内してよ~」と言える図々しさを、風早くんは持ち合わせていない。インスタアカウントもゲットしたことだし、もし次に風早くんが来日した時には声をかけてもらえるように備えておこう。
10年ぶりに供給された、台湾版・風早くん。
爽やかな彼を求めて、私がインスタを開く回数も増えるだろう。