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出会ったときからすれ違っていた

あのときの結末でよかった、と心から思っているものの、
やっぱり一度は求めていたから。

どうにもこうにもできない、
決して便利ではない気持ちに熱を帯びていた。

わかっていた。
誰よりもわかっていた、
欲しい未来には届かないこと。

それでも人は信じてしまう、
いまを一生懸命に生きてしまう、
誰に教わらずとも。


街中に溢れている
魅力的なシルエット、
整えられた毛先、
華やかで甘い匂い、
そこには理想のすべてが詰まっているのに。
目眩がするほど美しい象徴のはずなのに。

ふと電車で見かける、
静かに落ち着いている左手の指輪を見ると、
いつの日か焦がれていた感情が音を立てる。


居心地に麻痺していたのか、
嘘に気づかないフリをしていたのか、
勝てないはずの優越感に溺れていたのか。


これ見よがしに、全部手に入れたい。

与えられて、足りるという記憶を作りたい。

大事にされたい、
今度もちゃんと、大事にするから。

出会ったときからずっと、
すれ違っていた未来を、
いまは一人で辿れるようになってしまった。

春ですね。

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