#22 もうすぐ区が減る街 ―静岡県浜松市が取り組む未来の街づくり―
はじめに
『J NOTE』第22回は、静岡県浜松市を取り上げます。
浜松市は、静岡県西部に位置する人口約79万人の市です。現在日本で15番目に人口の多い都市であり、2007年には政令指定都市にも指定されています。
浜松市には、スズキやヤマハといった日本を代表するメーカーが本社を構えており、自動車・バイク産業や楽器産業が盛んな「ものづくりの街」として知られています。
また、浜名湖周辺では浜名湖パルパルや舘山寺温泉などの観光地が多数立地しており、観光交流客数は1,189万人(2021年)と全国から多くの人々が浜松を訪れています。
そんな浜松市では、来年(2024年)1月に行政区の区割りが再編されることになり、区の数が現在の7区から3区へと減少する予定です。日本の政令指定都市で行政区数が減少するのは、1989年の大阪市以来およそ35年ぶりとなり、自治体再編が全国的に行われた平成の大合併以降、初めての事例となります。
そこで今回の『J NOTE』では、行政区再編から見えてくる浜松市の抱える問題と、未来を見据えた街づくりについて見ていきます。
浜松市の区割について
浜松市は、2024年1月から下記の3区に再編されることが決定しています。
①中央区
「中央区」は、平成の大合併以前から浜松市だった地域(北部の都田地区を除く)と、旧舞阪町・雄踏町で構成されます。浜松市内の官公庁街や繁華街、スズキやヤマハの本社などは全て中央区に含まれる形となり、名実ともに浜松の中核を担うこととなります。
再編後の中央区の人口は60万人程度を見込んでおり、2023年11月時点で政令指定都市の中で最も人口が多い横浜市港北区(36.3万人)を遥かに上回る、国内最大規模の行政区として誕生する予定です。
②浜名区
「浜名区」は、旧北区の大部分と旧浜北区で構成されます。人口は16万人程度を見込んでおり、プレ葉ウォーク浜北やサンストリート浜北、東名高速の浜名湖SAや新東名高速の浜松SAなど、大型商業施設が数多く立地するエリアです。
また、浜松市は全体的に水や土に恵まれた土地であり、日照時間も国内の主要都市の中では有数の長さであることから、静岡県内でトップクラスの農業生産額を誇っています。
なかでも浜名区は、三ケ日みかんや浜松茶などの農業や、牛や豚、鶏などの畜産業がとくに盛んな地域です。そのため、浜松の産業を食から支えているといえます。
③天竜区
「天竜区」は、北遠と呼ばれる市北中部の山間地域で構成されています。日本の行政区の中で2番目に面積が大きいものの、人口は全国の政令指定都市の行政区の中で最も少ない約2.5万人に留まっています。
天竜区では他の浜松市内の区と比べると極端に過疎化が進んでおり、政令指定都市に移行した2007年4月からの16年間で人口はおよそ32%(1.2万人)減少しています。現在の天竜区内の人口は、表2のとおりです。
そんな中、天竜区は今回の再編では他の区と統合されることなく、現状の区域を維持することが決定しています。理由としては、区域が広大であるため他の区と合併を行っても公共サービスの向上が見込まれず、災害対策や過疎地対策に行うにあたって単独区の方が望ましいと判断されたためです。
このように、浜松市は「中央区」「浜名区」「天竜区」の3区に再編されますが、区ごとにその特性が大きく異なっていることが見てとれます。しかしながら、3区では次に示す「共通した課題」も抱えています。
浜松市の抱える「労働者不足」問題
人口79万人を誇る浜松市ですが、今後の「労働者不足」が大きな課題となっています。
浜松市には、市内に複数の大学や大規模な工場が多数立地していることから、かねてから日本人・外国人を問わず、これまで多くの若者が他地域から流入してきました。
しかし、近年は他の地方都市と同様に、若者が首都圏に就職および進学をする傾向が強まっており、34歳までの若年層の人口は直近10年でおよそ3.8万人減少しています。そして、今後も上向きになることなく、さらに若者の人口が減っていく見込みとなっています。
そこで、浜松市では2015年に「浜松市"やらまいか"総合戦略」を打ち出し、人口減少対策に取り組んでいます。そのなかで、若年層に向けた対策の基本目標のひとつとして、「若者がチャレンジできるまち」を掲げています。
具体的には、個人に対しての新規事業や就農への支援事業、企業への海外展開の支援など、ものづくりの街・浜松の地場産業の活性化に力を入れています。前述の通り、浜松市は第1次産業から第3次まですべての産業が盛んな街であり、技術や人材も他都市と比較しても豊富です。そのため、チャレンジしたい若者を積極的に受け入れて育てる環境を整備することで、今後も日本を代表する産業の街として、発展し続ける余地はまだまだあるといえます。
また、2021年3月には街づくりのデジタル化を目的とした、「浜松市デジタル・スマートシティ構想」が策定されました。2024年までの第一期では、主に4つの重点分野が示されており、デジタル技術を用いて観光や産業、音楽文化などの「浜松独自の文化」を、国内外に広く発展させていこうとする政策が進められています。
このように、浜松市では先進的で様々なまちづくり政策に取り組んでおり、浜松で働く人の増加や若者流出の阻止、そして地域産業の活性化に積極的に向き合っているといえます。
おわりに
ここまで、静岡県浜松市の街づくりについて見てきました。
浜松市では、区割り再編やまちづくり構想など先進的な取り組みを続けており、人口減少や地域産業の活性化に力を入れていることがわかりました。
今回見てきた内容については、浜松市が動画でより詳しく説明していますので、視聴していただくことをおすすめします。
関連文献
高木恒一「浜松市の社会構造 ―創造都市戦略の構造的背景―」『グローバル都市研究』第12号(立教大学グローバル都市研究所、2019年)
中條曉仁「過疎山村における高齢者を支える『つながり』の維持と創出 ―浜松市佐久間町を事例として―」『静岡大学教育学部研究報告 人文・社会・自然科学篇』第65号(静岡大学教育学部、2015年)
新島裕基「地域商業と多様な主体による緩やかなネットワークの形成 ―浜松市ゆりの木通り商店街を事例として―」『専修ビジネス・レビュー』第12号第1巻(専修大学商学研究所、2017年)
箸本健二「地方都市における都心移住者の特性と中心市街地への評価 ―静岡県浜松市の事例―」『早稲田大学大学院教育学研究科紀要』第27号(早稲田大学大学院教育学研究科、2016年)
藤森憲臣、田ノ口景子、田中健二「現代エコツーリズムのあり方 ―東海地方(浜松市・遠州地域)での実践を例に―」『浜松学院大学研究論集』第16号(浜松学院大学、2020年)
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