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#9 愛知県西尾市は産業のほぼすべてを兼ね備えている街
はじめに
『J NOTE』第9回は、愛知県西尾市を取り上げます。
西尾市は名古屋の中心部から南東へおよそ40kmほど離れた所にある、人口約17万人の街です。
西尾市が属する西三河地域は、自動車産業や機械産業などが堅調なことから全体的に非常に財政が安定しています。国から普通交付税の交付金を受け取らず、地方税のみで運営できている自治体(不交付団体)は、西三河地域全9自治体のうち7自治体に上っています(2022年度)。
西尾市は交付金の不交付団体ではありませんが、財政力指数が「0.94」と不交付団体になる基準である「1」に近い指数を記録しています。財政力指数の全国自治体平均が0.51であることと、交付金の不交付団体が全国で72自治体しかないことから、西尾市は全国的にみても比較的財政が安定している街であるといえます。
このように、西三河地域は経済的に恵まれていることから、地域内の人口も微増か横ばい傾向となっています。西尾市は人口こそ減少傾向に転じているものの、現時点では深刻な過疎状態に陥ってはいません。
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(e-Stat「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数調査」を基に作成。)
※市町村合併で統合された自治体の人口については、すべて現在の自治体の人口に含んでいる。
※2012年以前の住民基本台帳に基づく人口には、外国人人口が含まれてはいない。
さて、西尾市は第一次産業から第三次産業まで、おおよそすべての産業が揃っている自治体であるといえます。市内には名産品や観光スポットなども数多く存在しており、西尾市は地域ブランド力の高い街であるといえます。
そこで今回の『J NOTE』では、西尾市のブランドを形作っている産業について詳しくみていきたいと思います。
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西尾市の第一次産業
西尾市は昔から農業や漁業が盛んな地域であるといえます。2020年の農業生産高は東海地方の自治体で7番目に高い数字を記録し(データ元)、三河湾に面した地域は県内有数の潮干狩りの名所としても知られています。
ここからは、西尾市ならではの農業および漁業について取り上げます。
西尾市の農業
西尾市の農業で有名なものと言えば、「抹茶」です。
西尾の抹茶は全国シェアのおよそ20%を占めています。西尾市では抹茶の元となる「てん茶」に特化した栽培を行っており、矢作川に接する市内北西部には茶畑が広がっています。
しかし、西尾の抹茶の知名度は宇治抹茶には及ばず、また西尾茶が緑茶としてはほとんど用いられていないことから、馴染みがないと感じる人も多いのではないかと思われます。
そこで、西尾市では抹茶を生かしたブランド戦略に力を入れています。西尾市では、2009年に「西尾の抹茶」を特許庁の地域団体商標に登録し、西尾茶の知名度向上と地域振興に積極的に取り組んでいます。西尾市観光協会では、抹茶に関する日帰り観光ツアーも企画しており、茶摘みの体験や工場見学をすることができます。
また、市内のカフェや国道23号沿いの道の駅「にしお岡ノ山」などでは、西尾の抹茶を使ったスイーツやソフトクリームが提供されており、西尾の抹茶のPRに一役買っているといえます。
西尾市の漁業
西尾市の漁業で特に有名なのは、一色地区の「うなぎ」です。
一色のうなぎは、1904年に現在の一色町生田で徳倉家によって養鰻場が開かれたのが始まりです。当時の一色地区は、沿岸漁業や製塩業などが主力産業でしたが、1960年代になると街ぐるみで鰻が養殖されるようになり、一色は日本でも有数の鰻の生産地として知られるようになりました。(ソース)
一色のうなぎは、国産養殖うなぎの約20%のシェアを占めています。東海三県では一色産のうなぎを使用している店も多く、地元発祥のブランドとして非常に高い人気を誇っています。
また、一色地区では「鰻御三家」と称して3つの鰻屋がタッグを組んでPR活動を行っています。一色地区にある「うなぎの兼光」「うなぎ割烹 みかわ三水亭」「うなぎ処いっしき」では、2021年から共同でSNSを運営したり製茶会社とキャンペーンを企画したりするなど、一色うなぎの知名度向上のために活動をしています。
西尾市の第二次産業
西尾市は他の西三河地区の自治体同様に、自動車産業が盛んな街です。
西尾市内には大規模な工業団地はないものの、「デンソー西尾製作所」や「アイシン西尾工場」など、大手自動車部品メーカーの工場が立地しています。そのため、西尾市の2020年度における製造品出荷額は県内6位の1.7兆円を記録しており、市内の自動車産業が盛んであることがわかります。
2020年度における愛知県市町村別製造品出荷額
1位 豊田市(15.1兆円)
2位 名古屋市(3.2兆円)
3位 岡崎市(2.5兆円)
4位 安城市(2.5兆円)
5位 田原市(1.7兆円)
6位 西尾市(1.7兆円)
7位 刈谷市(1.5兆円)
8位 小牧市(1.4兆円)
9位 東海市(1.4兆円)
10位 豊橋市(1.3兆円)
※出荷額の小数点以下は切り捨て
また、西尾市では市内の企業とタッグを組み、「ほんものづくり隊 in西尾」と題して、ものづくりの街としての認知度向上活動に取り組んでいます。
西尾市の第三次産業
次に西尾市の観光について取り上げます。西尾市には多くの観光スポットがありますが、近年特に人気を集めているのが佐久島です。
佐久島は、三河湾沖に浮かぶ人口203人(2022年11月現在)の小さな島です。島内には多数の現代芸術の作品が飾られており、アートの島として知られています。
かつての佐久島は近くの日間賀島や篠島に比べて観光資源に乏しく、また一色港から10kmほど離れた沖合にあることから、島内の過疎化が深刻なものとなっていました。
そこで、2001年に当時の一色町と佐久島の住民が手を組んで、「三河・佐久島アートプラン21」事業が開始されます。すると、写真映えする景観が世間の話題を呼んだことで、佐久島の知名度は一気に向上しました。現在では、年間約10万人の観光客が訪れる人気の観光地となっています。
しかし、観光施設が整っている日間賀島や篠島、名古屋方面へのアクセスに優れている河和港や師崎港などへの航路はなく、また生活するには不便な環境であることから、島内の人口は減少の一途をたどっています。
西尾市には佐久島の他にも、乗り物やキャンプ施設を完備した大規模な公園である「愛知県こどもの国」や、朝市が大人気の「一色さかな広場」など、お出かけスポットが市内に多数存在します。
市内のお出かけスポットはそれぞれが別々の場所にあるため車が必須ですが、ちょうどいい距離間なのでドライブ観光に向いているのではないかと私は思います。
おわりに
ここまで、西尾市の産業についてみてきました。西尾市では、第一次産業から第三次産業まで一通りの産業が揃っており、名産品を生かした地域ブランドの普及活動や地域活性化の活動に力を入れていることが分かりました。
関連文献
西尾市では年に1回、『新編西尾市史研究』という学術雑誌を刊行しています。西尾市岩瀬文庫や西尾市資料館で販売しており、また通信販売も受け付けているようです。目次や各号の詳細はこちらから。
その他の関連文献
大澤正治「佐久島の地域政策からえる示唆と若干の提言」(愛知大学中部地方産業研究所、2012年)
遠山佳治「東海地域における魚介食文化の歴史的展開の一考察」『名古屋女子大学紀要 家政・自然編、人文・社会編』第67号(名古屋女子大学、2021年)
西田郁子「愛知県西尾抹茶産地の流通戦略」『地域産業のイノベーションと流通戦略 -中小企業の経営革新と地域活性化-』(千倉書房、2020年)
前田竜孝「愛知県西尾市一色町における養鰻生産者の関係性とその変化」『人文地理』第70巻1号(人文地理学会、2018年)
渡辺千賀恵「佐久島の現代的特殊性-観光からみた三河三島の比較-」『地域問題研究』第10号(地域問題研究所、1980年)