#6 スポーツによる地域貢献と観光 ―茨城県鹿嶋市を例に―《後編》
《前編はこちら↓》
鹿嶋市とスポーツツーリズム
鹿嶋市では鹿島アントラーズがJリーグに参戦した1993年以降、「サッカーの街」としての街づくりに取り組んでいます。
2002年のワールドカップに関する事業
1990年代の鹿島町(1995年より鹿嶋市)では、2002年の日韓ワールドカップ時にカシマスタジアムでゲームが行われることを目標に、茨城県と共にスタジアムの改修工事や誘致活動に取り組んでいました。
(県や市による整備や議論の様子は、当時茨城県議会議員を務めていた井出義弘氏のホームページから閲覧できます。2002年以降更新されていないので、当時の情報がそのまま残されています↓)
県と地域住民による熱心な誘致活動の結果、ワールドカップの試合が実際にカシマスタジアムで開催されることになりました。
また、鹿嶋市内では日韓ワールドカップ開催に合わせて、地元住民主催のお祭りや鹿嶋市と市民グループが主催してイベントを開催するなど、街ぐるみでワールドカップと鹿嶋の街を盛り上げる活動を行っていました。
翌2003年には、鹿嶋市が「サッカー・W杯開催記念桜の故郷づくり事業」を行い、隣接する「卜伝の郷運動公園」に1000本の桜を植樹しました。この桜並木は現在もお花見スポットとして、市民に親しまれています。
このように、鹿嶋市ではワールドカップに関する様々な事業に取り組み、サッカーによる街づくりを推し進めていきました。
鹿嶋市による観光振興に関する中長期計画
その後鹿嶋市では2006年3月に、2016年までの10ヵ年計画として「鹿嶋市観光振興ビジョン」を策定し、鹿島神宮や鹿島臨海工業地帯、鹿島アントラーズなどが持つブランド力を生かした観光施策に取り組んでいました。
しかし、2011年に発生した東日本大震災の影響などもあり、目標だった年間観光客300万人到達や観光に関する課題の解決までには至ることができませんでした。
そこで現在は、2019年に策定された「鹿嶋市観光振興基本計画」をもとに、再び10年間の中長期的な計画を立てて様々な観光振興に関する施策に取り組んでいます。
その中には「地域資源の観光ブランド化」が挙げられており、鹿島アントラーズや日本製鉄グループのスポーツ団体を利用した「スポーツツーリズム」は、「歴史・文化・自然」と「グルメ・お土産」と並んで観光振興の3つの柱に位置付けられています。
スポーツツーリズムを生かした観光施策の例として、鹿島アントラーズのスポーツ施設の見学やユースチームとの交流試合、市内でのスポーツ合宿の実施に向けた広報活動が挙げられています。
また、鹿嶋市は東京から約2時間という立地から日帰り客が観光客全体のおよそ9割を占めており、市内に宿泊する観光客が少ないことも課題としています。これは、カシマスタジアムを訪れるサッカー観戦客も同様で、試合が終わるとすぐに家路についてしまう人が多いそうです。
そのため、市では独自に「おもてなし基準」を制定し、食や土産物のブランド力の向上、翻訳アプリの導入や国際ガイドの育成などに取り組んでいます。そして、鹿嶋市内に宿泊してもらえる観光客を増やすための施策を行っています。
(「鹿嶋市観光振興基本計画」の全文はこちらから読めます↓)
http://cms.city.kashima.ibaraki.jp/uploaded/attachment/4673.pdf
このように、鹿嶋市ではスポーツを利用した様々な観光施策に取り組んでいます。また地域ブランドを確立することで、鹿嶋市の更なるPR活動と地域活性化を行っていることが分かりました。
おわりに
これまでスポーツによる地域貢献と観光について、鹿嶋市を例にして見てきました。
鹿嶋市では様々なスポーツツーリズムに取り組んでおり、また鹿島アントラーズも様々な地域貢献活動に取り組んでいることが分かりました。
しかし、鹿嶋市は東京へ通勤・通学するには難しい立地であるため、今後は人口減少のスピードが加速して過疎化が大きく進む可能性があります。
そのため、「鹿島臨海工業地帯」や「鹿島アントラーズ」などは、鹿嶋の街が持つ魅力や価値を上げるために、ますます重要な存在になっていくものであると私は考えています。
関連文献
大鋸順「Jリーグクラブチームの設置による地域活性化 -茨城県鹿島町の事例-」『文化経済学』第1巻2号(文化経済学会、1998年)
菊原伸郎、萩野寛雄「鹿島アントラーズの政策過程と地域貢献」『大阪商業大学論集』第130号(大阪商業大学商経学会、2003年)
永山淳一「茨城県鹿嶋市における鹿島アントラーズと地域社会との関係」『学芸地理』第65号(東京学芸大学地理学会、2010年)
吉岡誉将、杉本興運、菊池俊夫「Jリーグサッカーファンのアウェイ戦観戦行動と地域受容 : スポーツイベントによる地域活性化に向けた示唆」『観光科学研究』第13号(首都大学東京大学院都市環境科学研究科観光科学域、2020年)
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