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#3 ジブリパーク開園直前!愛知県長久手市における観光と市民生活の共存

はじめに


「J NOTE」第3回は、今年11月1日にジブリパークが開園予定の愛知県長久手市を取り上げます。

長久手市は名古屋市の東隣に位置する人口6万人の街です。2012年に当時の愛知郡長久手町が単独市制し、今年10周年を迎えたばかりの全国的に見ても新しい市であるといえます。

長久手は1584年に起きた豊臣軍と徳川軍による「小牧・長久手の戦い」や、2005年に開催された「愛・地球博」の開催地として広く知られており、市内東部には広大でなだらかな里山が広がるなど歴史と自然を感じることができる街です。また、そういった自然豊かな環境から市内やその付近には多数の大学が立地しており、学園都市としての機能も合わせ持っています。

さらに長久手市は、東海地方でも指折りの人気住宅地としても知られています。長久手は1980年代以降、名古屋市や豊田市の通勤圏内という恵まれた立地を生かして、近隣の日進市(1994年単独市制)や東郷町、みよし市(2010年単独市制)とともに急速に宅地化が進んだ地域です。

近年は「イオンモール長久手」(2016年開業)や「IKEA長久手」(2017年開業)などの大型商業施設が市内に相次いで開業し、週末は多くの人で賑わっています。

そしてこの冬、市内の愛・地球博記念公園(モリコロパーク)内に満を持して「ジブリパーク」が開園します。今回は3つのエリアが先行開園し、パークへの入園も完全予約制となってはいますが、ジブリパークによる東海地方の活性化や経済効果など大きく期待されています。

そのため開園直前の今、長久手市は東海地方で一番注目されている街と言っても過言ではないでしょう。

しかし、ジブリパーク開業にあたって懸念されていることもあります。それは、平穏な市民の生活が守られるかどうかです。

若い家族が多く住む長久手市では、安心して子育てができる環境が整っているため、それが街としての「魅力」や「売り」の1つになっています。

そのため、観光政策によって街の住環境が損なわれてしまうと、長久手の住宅地としてのイメージが悪くなってしまう可能性があります。

そこで今回の『J NOTE』では、長久手の街が観光と市民生活とをどのように共存させていくのかについて見ていきます。

交通渋滞と市民生活

まずジブリパーク開園にあたって、市民生活を脅かす可能性がある問題について触れていきたいと思います。私は長久手市の市民生活を脅かす最大の懸念点となりえるのは、市内で発生する「交通渋滞」ではないかと考えます。

ジブリパークへのアクセスは、バスやリニモなどの公共交通機関も大変便利ではありますが、東海地方の土地柄を鑑みても自家用車で来園する人が多くなるのではないかと思われます。

まず、高速道路を使ってジブリパークへ向かうアクセス方法は、東名高速道路を経由し、名古屋瀬戸道路の長久手インターで降りるという形です。長久手インターからジブリパークまでは距離が比較的近く、この場合長久手の市街地を一切通らないルートになります。そのため、一見すると市民生活には影響が出ないように思えます。

しかし問題は、名古屋の中心部から一般道で向かう場合です。主要アクセスとなる県道60号線は、長久手市を横断する片側2車線の幹線道路です。そのため、長久手市よりも西側に位置する名古屋市内から長久手市東部のジブリパークへ向かう場合、長久手の市街地を完全に横切る形となります。

この県道60号線沿いには、「アピタ長久手」「イオンモール長久手」「IKEA長久手」などの大型商業施設が立地しており、週末になると渋滞が高頻度で発生するような道路です。

この県道60号線以外に長久手市街地を東西に貫く幹線道路は存在しないため、ジブリパークが開園することによって交通渋滞がさらに悪化する可能性があります。

また、先ほど述べた名古屋瀬戸道路の長久手インターは、インターを降りるとそのまま県道60号線の右側車線に合流する形をとっています。

さらに、長久手インターで高速を降りてジブリパークへ向かう場合、県道60号線と合流したのちに必ず左側の車線に変えなければいけない構造となっています。そのため、合流部は大変混雑しやすく、ひとたび渋滞を引き起こすと長久手の市街地まで渋滞の影響が広がる可能性があります。

このため、愛知県ではジブリパークの開園に先立って、県道60号線の改良工事を進めています。

しかし、交通渋滞についてはジブリパークが実際に開園しないと分からない部分が大きく、先程述べた「必ず車線を変えなくてはならない構造」については改良が不可能に近いため、開業後も交通渋滞の状態を注視する必要があるかと思います。

長久手市とこれからの観光

さて、ここからは長久手市における観光と市民生活の両立についてです。

長久手市には、長久手古戦場やトヨタ博物館など多くの観光スポットが点在しており、今後大規模な観光開発があってもおかしくないほどのポテンシャルを持つ地域であると思われます。しかしながら、長久手市では観光都市化を目指すような大々的な観光促進政策を打ち出してはいません。

長久手市では2015年に、2050年を見据えた「長久手未来まちづくりビジョン」を策定し、「人をつなぐ」「場をつなぐ」「時をつなぐ」「夢をはぐくむ」の4つの要素に基づいた街づくりに関する様々な施策を推し進めています。

この長期ビジョンでは、住民が安心して暮らせる街づくりを重視しており、観光政策による街づくりについてはどちらかというと消極的な姿勢であることがうかがえます。

また2019年に、愛知県・スタジオジブリ・中日新聞社の三者によって示されたジブリパーク整備に関する基本方針についても、「愛知万博の理念と成果の継承」や「歴史的成り立ちに配慮し将来にわたって愛され続ける公園づくり」など、あくまで市民公園としての整備方針が立てられています。

そのため、ジブリパークの整備計画は「観光施設を作ってお客さんを呼び込みたい」「長久手を観光都市に変えたい」というものでは決してないといえます。

そもそも長久手市が観光都市として成長したいと考えているのならば、2005年の愛・地球博に合わせて観光事業が展開されているはずです。(ただし愛・地球博のコンセプト的にもその展開は難しかったですが)

このように、長久手市や愛知県では平穏な市民の生活が守られない「観光」を望んでいないことがわかります。この両者のスタンスは、今後の日本における観光政策の在り方について一石を投じる可能性も十分秘めているかもしれません。

おわりに

ここまで、長久手市の観光と市民生活の共存について見てきました。長久手市ではジブリパーク開園にあたっての大々的な観光政策は打ち出さず、市民生活を守る方針をとっていたことがわかりました。

個人的にもジブリパーク開園によって、名古屋を含めた東海地方の活性化に対して大きな期待を寄せています。しかし、そのことで住みにくい街が生まれてしまうのは、正直なところ不本意でした。

そのなかで、今回長久手市について調べたことによって、市民生活を守る観光の在り方について知ることができたと思います。

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