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燦々

明け方、散歩に出た。いつまでも続くと思っていたさみしい夜は、呆気なく朝のまっさらな光に食べられて消えていく。消えかかる月に「またね」と言って、歩き出す。

雨が降った夜の、次の朝。何もかもが輝いている。わたし以外のすべてが洗われてしまったみたい。踏みしめる地面も、団地の窓も、誰かが捨てた菓子パンの袋も、きらきらしている。空が明るくなればなるほど、わたしの影が濃くなる。ここには居場所なんて無いんだと気が付く。はやく、かえらなくちゃ、と思う。かえったところで、居場所なんてないのに。

光は、何もかもを照らしてくれる。
光は、おっちょこちょいだから、うっかり影を落とす。

落とされた影は、粛々と光に寄り添っている。

はやく、かえらなくちゃ。
影は落ちる。わたしにぴったりついてくる。

はやく、かえらなくちゃ。
影は濃くなる。帰って、還って、孵って、光みたいに、きらきらした何かに。

はやく、かえらなくちゃ。
影はわたしのそばに居る。逸る気持ちは、わたしを追い越す。

光は、わたしたちを嗤っている。

わたしと影は泣いている。涙の粒がきらきら光る。

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