墓前のシルバニアちゃん

欠かさずつけてる秘密のダイアリー

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さらさら黒髪、逃避行

空が泣いている。静かに誰にも見つからないように、涙を流している。 カラオケボックス。歌うのを放棄されたあのガールズバンドの曲は、すこし気まずそう。 大好きな女の子が泣いている。涙を拭ってみたけど、悲しみまでは拭ってあげられなかった。この子が泣かなければならないことも、悲しみを拭ってあげられない自分にも、腹が立って、虚しくて、信じていない神様に、馬鹿野郎と言ってみた。 わたしの大好きな、女の子。だれよりも大事な、女の子。わたしは彼女が大好きだけど、彼女の悲しみを無かったこと

    • あおい

      祖母の家を出たとき、月がぼうっと光っていて(というより当たり前にそこにあるというような在り方)、風は冷たく、隣の家の柿は立派で、すっかり夜だった。それは存外よい夜で、車に乗ったら本の続きを読もうと思った。 海岸線に出たあたりで、鞄を探り、手が本に触れた瞬間「こうも暗いと本は読めないな」ということに気が付いた。そして、同時に「わたしは、本当に1人では何も出来ないんだな、わたしのからだは本当に頼りないな」と思った。一度認識してしまうと、もうずっと昔から、常に、考えていたというよう

      • 魚影

        スイスイ泳いでる魚も、ゆらゆらピカピカしている水面も、いまはすべてを裏側から見ることしか出来ない。ただただ、沈んでゆく。背中で、どんどん濃くなっていく海の青を感じている。ぐんぐん沈んで、どんどん苦しくなって、次第に海とカラダの境目がわからなくなって、なくなる。魚も水面も小さくなってゆく。 あの水面を、見失わないようにわたしはなるべく静かに沈んでいく。沈んでいくわたしに気がつく魚はいない。 あの水面の光は、夜のものなのか、朝のものなのかも分からなくなって、しばらく考えてみるけど

        • 8月30日 本日クリスマス

          綺麗とはいえないキッチンに、年季の入った脚立を椅子にして、刺身と酒瓶を目の前に広げる。 お酒を飲んで、酔っ払ったら、いつもより世界が早くまわって、目も回る。仕舞っておいた記憶が、ぐるぐるまわる。 彼のお家にあった、すこし高級な、瓶に入ったお醤油とか、桜貝を閉じ込めたみたいなちいさな岩塩のこととかを思い出した。わたしの知らない生活の豊かさが、いつもそこにはあって、いつもそこは暖かかった。 換気扇がぐるぐる回って、時計の針がぐるぐる回って、気が付いたら24時まわった。ダンスパ

          堕ちた先に、孤独は

          わたしは、暗闇の中を上に、下に、横に、ものすごい速さで堕ちていた。わたしは堕ちながら、夢であることに気が付いて、落胆した。落胆している間も、わたしはすごい速さで堕ちていた。 どうせ夢ならジェットコースターに乗ろう、と思った。暗闇はすぐに真っ白い光になって、すぐに真っ白い鉄骨になった。わたしは臓器が、上に、下に、横に移動しているのを感じた。うしろでは、誰かの破裂した笑い声が、叫びになって聞こえた。知っている声のような気がして、振り向こうとしたところで、わたしはジェットコースター

          うたた寝

          小田急線内、現実と夢を行き来する人が居る。ゆっくりと開いてゆく口には唾液の膜。それが完全に虹色になったとき、すべてを思い出したみたいに割れた。さっきまで、虹色に光っていたそれは、すぐにただの口になって、すぐに間抜けな寝顔になった。 快速急行は、はやすぎて、カラダの一部を落としてしまったような気分になる。電車に乗るたび、わたしは何かを落としていて、そのうち全てがなくなってしまうんじゃないかと思う。 心無いアナウンスが「新宿 新宿」って無機質に2回言う。 祖父が死んだ。喪服を纏

          窓辺にて

          わたしは自室にいるとき、ほとんどの時間を窓辺で過ごす。濃紺の夜も、赤黒い夜も、決まって朝の白んだ光に食べられてゆく。わたしは、それをただ見守る。 夜が朝に食べ尽くされたとき、窓辺の植物に水をやる。こぽこぽ土が水を飲む。霧吹きで葉っぱに水をかけてやる。新しい葉っぱは、光を求めて、すぐに窓ガラスにぶつかるから、毎日位置をかえてやる。ついでに撫でてやる。ああ、新しい葉っぱは、こんなにもやわらかい。 4時頃に目を覚ました太陽は、すぐに夜を食べ尽くす。綺麗にぺろりと平らげる。朝の優し

          追焚き2回

          シャワーがしゅうしゅうと音を立てて、わたしのだらしない腹にあたる。鏡に全裸のわたしが写っている。しばらくすると鏡が曇って、わたしは私を見失う。最近、自分は誰なのかが分からなくなる。 わたしの中には、無数の私が居る。わたしは、私を使い分ける。外の世界で傷付いても大丈夫。わたしでは無い私が傷付いただけだから。そういう生活をずっと続けていたら、自分がいま誰なのか分からなくなってしまった。 善良で、慈悲深い、愛嬌のある子。そういう女の子の形を常に保っている。感謝も、謙遜も、笑顔も、

          1番好きな曲を教えて

          夢の中で「サカナクション好きなんだ、僕も好き」って言われた。わたしとその子は、しばらく笑いあってた。顔はどんなだった?声は?名前はなんて言うの?どんな服を着てた?どんな匂いだった? 思い出せない。 あなたは、誰? 存在しないはずの男の子。夢の中で出会ってしまった。出会ってしまったから、目が覚めた時、失ったみたいで悲しかった。夢の中でしか、会えない子。また、眠ったら会えるかな。たくさん眠ったら会えるかな。もしまた会えたら、聞きたいな。サカナクションで1番好きな曲を教えて。

          死なないもん

          小さい頃から、絵を描くのが好きだった。絵を描けば、お母さんやお父さんに褒めてもらえるから。 お兄ちゃんが反抗期になったとき、お父さんはずっと怒鳴ってた。お姉ちゃんが学校に行けなくなった時、お母さんはものを投げた。 絵を描いても、お父さんとお母さんは褒めてくれなくなった。わたしのことを見てくれなくなった。絵を描くだけじゃ、駄目なんだと思った。それから、わたしは兄妹のなかで一番いい子でいることに務めた。親が一番、望んでいることをした。お母さんは、よく「しおりの好きなことをしたらい

          バナナフィッシュ

          夢のなかで、あの子が死んでしまった。わたしは過呼吸になりながら布団を剥いで、垂れたヨダレを拭いもせずに、スマホで彼女の安否を確認した。夢だとわかっていたけれど、確認しないと今にも泣き出してしまいそうだった。あの子はちゃんと、生きていた。 好きな人がもし死んでしまったとき、きっとわたしはそのひとが骨になってしまう瞬間に、立ち会えないんだろうなと思う。それくらいの距離感でしか、人を好きになれなくなってしまった。それが、とてもさみしいと感じる。 ずっとむかし、夜の海でバナナフィッ

          各駅停車、地獄ゆき

          「おやすみ」という声を思い出した。それは、当時付き合っていた人のお父さんの声だった。 当時の恋人は、わたしを家族に会わせたがった。恋人の家族も、わたしのことをいつも歓迎してくれた。一緒に食卓を囲んで、テレビを見たり、ボードゲームをした。週末にはショッピングモールにも行ったし、春には花見もしたし、冬にはクリスマスパーティーもした。 そしていつも、一日が終わる頃、彼のお父さんの「おやすみ」を聞いた。「おやすみ」という声に、家族のみんなが「おやすみ」と返した。わたしも「おやすみな

          全てあい色にかえる

          今日、一時間ほど海を見続けた。見続けたら、海がこんなにも広いことをはじめて知った。 こんなにも海が広いということを、あいつはきっと知らないだろうと思ってすこしうれしかった、かなしかった。 今この瞬間、わたしの目の前で消えていった波が、泡が、何処へ行ってしまったのかわからなくて、叫び出したかった。 みんな、すぐに何処かへ行ってしまう。 みんな、わたしを置いて、藍にかえってしまう。 わたしは、行かないで、と言えない。だから、みんな行ってしまう。わたしは、いつも置いてけぼりで、飲み

          エンドロール

          ぐっすり眠れなくなったのは、いつからだろう。夜がさみしくてたまらなくなったのは、いつからだろう。どうせ眠れないから、どうしようもないことをたくさん考えよう。このさみしい夜は、わたしだけのものだから。 喧嘩をして縁を切った友だちの名前とか、むかし付き合っていたひとが連れていってくれたレイトショーのこととか、そんなどうしようもないこと。 どうしようもないことは、昼間はひっそり隠れているくせに、夜になった途端、わたしの中を徘徊しはじめる。わたしの中を、くるくるまわったり、走ったり、

          海岸線を飛ばす、死に向かって。

          おばあちゃん家は、海岸線をずっと行ったところにある。梅の木があって、鼻の潰れた猫がいて、いつも美味しいご飯が出てくるところ。 おばあちゃんは、ここのところ具合が悪い。少し前まで、悪戯に笑いながら、水だと言い張って飲んでいた焼酎や、チャッカマンでつけて吸う煙草も、いつの間にかしなくなった。 おばあちゃん家に着いた。おばあちゃんがいつも寝転がっているベットは空っぽだった。おばあちゃんは、数日前から入院している。面会時間になったので、病院へ向かった。空は、規則正しい青色に、規則正し

          海岸線を飛ばす、死に向かって。

          燦々

          明け方、散歩に出た。いつまでも続くと思っていたさみしい夜は、呆気なく朝のまっさらな光に食べられて消えていく。消えかかる月に「またね」と言って、歩き出す。 雨が降った夜の、次の朝。何もかもが輝いている。わたし以外のすべてが洗われてしまったみたい。踏みしめる地面も、団地の窓も、誰かが捨てた菓子パンの袋も、きらきらしている。空が明るくなればなるほど、わたしの影が濃くなる。ここには居場所なんて無いんだと気が付く。はやく、かえらなくちゃ、と思う。かえったところで、居場所なんてないのに