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私たちの用事

来年用の手帳を買う。ライトピスタチオグリーン。厚みのないA5サイズのものが近年の気に入りだ。

誕生日の朝、竹中優子『冬が終わるとき』を少し読み、りんごを食べると駅へ向かった。駅から少し歩き、癌封じで有名な寺へ行く。46年前の今日、母が全身で自分を産んだのなら、その寺に行くのは今日だと冬子は思った。着いてみると閉堂中と貼り紙がある。なぜか少しほっとした。

私たちの用事は決して
よく生きることではない

『冬が終わるとき』


帰ったらいつ再開するのか問い合わせてみよう。そう決めると誕生日を理由に、ちょっと贅沢をすることにした。

かたいパンにベーコンが入ったものとクリームチーズとクランベリーが入ったもの。LONG TRACK FOODSでチーズケーキを買い、まるいステッカーをもらう。スプレーバラと冬色の実。

帰るとドアに袋がかかっている。ヘーゼルナッツとビターザクロ。ピープルツリーのオーガニックチョコふたつは夏子からだった。

先日、母の通う病院にはじめて行くことができた。大きくてきれいな病院。担当医の診察を待つあいだ、母としゃべる。調子がいい日に日めくりカレンダーを買いにいけたこと。新しくできたスーパーに行ったら、カートをひく父が邪魔だとよく聞こえる声で言われたこと。

夏子が前にいっていたことを思いだす。百閒をベビーカーに乗せ、混雑する電車に乗ると、隠す気のない舌打ちが鳴る。音は出さなくとも、目が邪魔だよ、なんで今乗るのと言っている。診てもらうために電車に乗って、予約時間に遅れないようにしているだけだから別に言わなくてもいいのに、せんせいまってるねー、とまだしゃべれない百閒に話しかけたりしたね。いやな顔や無関心の人がほとんどだけど、場所をあけてくれたり、手を貸してくれる人もいる。そういう人がひとりでもいれば、その日は大丈夫なの。

許すことと許さないことはいつも同じだけ難しいから
人は微笑みを覚える

『冬が終わるとき』


コーヒーをいれ、ベーコンのパンをかじる。かたくて何度も噛む。おいしい。顎がつかれた。豆乳でミルクティーを作り、チーズケーキを食べる。濃厚でこちらもおいしい。半分はまた明日。

昔大好きだったものが、なんだかよそよそしい。ふだん肉を食べないのにベーコンのパンを買ったり、クリームチーズのパンとチーズケーキがかぶっているのに気づかなかったり。ひとつ歳をとっても、賢くはならない。

石田千『窓辺のこと』の千さんのように、来年はお好み焼きを焼いてマヨネーズで47と書こう。忘れないよう、新しい手帳の誕生日のところにお好み焼き、と書いた。






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