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眞砂以田子
2018年5月9日 21:30
気がつくと寂れた小さな駅の待合所に立っていた。駅舎は海を背にしているのか、遠くからかすかに波のとどろきが聞こえる。高い山に囲まれた窮屈な盆地で生まれ育ったわたしにとって、海のある風景は縁遠い。そんなわけでこの場所にはとんと見覚えもなく、街のほうもこのようなわたしの事情を察してか、幾分よそよそしい表情を浮かべていた。時おり渦を巻くようにして溜まる風が、かすかな潮の匂いを運んでは静まった待合所を満
2016年2月10日 17:03
ふと目が覚めたのが午前0時。外の空気が吸いたくなって、部屋の南向きにあるおおきな窓をあける。網戸のはまっていないそれは、夜空を切り取った額ぶちみたいで、きらきらと星がまたたいていた。まんまるい月の向こうから誰かがこちらを覗くんじゃないかと目を凝らしてみるけれど、特に変化なし。 午前1時。ひゅい、と空気を切る軽快なおとがした。そこにぼちゃんと水のおと。庭のほうからだ。家の庭には池がある。なん