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読後感
『渋谷ではたらく社長の告白』著:藤田晋
サイバーエージェント社長、藤田晋氏の二千五年に出版された自伝を読んだ。
私はサラリーマン兼芸人なので、経営等とは程遠い存在であるが、各界の成功者から学ぶことは多々ある。
読んで改めて驚いたが、藤田氏は二十六歳で最年少上場している。霜降り明星がM1グランプリ優勝したのも二十五歳とかだったように記憶している。
持論だが、スポーツにせよ経営にせよ、その道で成功した人は何を選んでいてもその道でトップを取れているんだろうと思っている。
大谷翔平が営業をしていても、藤田氏がサッカーをしていてもある程度のところまでは成功するに違いないと、それ程に成功者の行動や思考は抽象化すると共通していると感じる。
よって、私のような業態の人間でも学ぶところはあるはずだが、如何せん読後の興奮や学びを人間は忘れてしまう生き物なので、自戒の念を込めてここに記すことにする。
抽象化してしまう為にフワフワとした結論になる可能性も高いが、出た結論の裏には藤田氏の考えや行動、結果があったことを忘れないようにしたい。
学び①:人間関係に救われること。
初っ端からありきたりな結論で恐縮だが、経営となると更に重要だったのかもしれない。
本書は、藤田氏の幼少から三十二歳(二千五年、ITバブル崩壊頃)までを振り返って書いてある。
簡単に時系列に沿うと、
・大学時代に営業のバイトを始め、その会社で専務に可愛がってもらい、仕事論や人生論について学ぶ。
・新卒で入った会社から五十%の出資を受けて入社一年経たない内に独立。
・それまでの知り合いやツテを辿って人材確保。(そもそも藤田氏は営業の達人であり、ITも経理も素人である。)
・サービス納入が間に合わないアクシデントには、堀江貴文氏に協力してもらう。
・バブル崩壊後に社員を引き留めるため、百億近くの価値がある自身の持ち株を社員に無償提供。
・サイバーエージェントの低迷期、その気になれば過半数取得できたGMO熊谷氏や宇野社長からは裏で買収を進めるようなことをされず、きちんと対面で交渉を受けた。
・心が折れ、宇野社長に買収を名乗り出た時も引き留められる。宇野社長に引き留めるメリットなどない。
・低迷時、楽天三木谷氏から十%の出資により事なきを得る。
営業力(人望)と圧倒的な努力量だけでやってきたような人物に見えた。
それでも二十三歳で創業し二十六歳で最年少上場しているのは、人の力を存分に借りることが出来ていたからだろう。キャッシュが行き詰まりそうになった時に、前職の経理に電話して転職してきてもらう等、普通ではありえないコミュニケーションスキルを感じた。
学び②:悩みのレベルが大きく、小さな悩みが無いこと。
個人的にはこれが一番大きな学びだった。
藤田氏のビジョンは常にデカく、ハッタリの様にすら感じる。
「二十一世紀を代表するビジョナリーカンパニーになるためにはどうしたらいいか」「最年少上場する為には」「月額一千五百万円の家賃を支払うためには」「敵対的買収から自社を守るためには」
常にこの様な大きなビジョンを描いているからこそ、日常の小さな悩みを考えている暇すらないんだろうと読んでいて感じた。
書いていなかったので推測ではあるが、当時の藤田氏は顔にできたニキビの事や、地元の同窓会に呼ばれていないこととかは全く気にならなかったはずだ。
人間が必ず悩みを抱えながら生きてしまう生き物だとするならば、藤田氏の様に前向き且つ大きな悩みを持つように意識すると良いのかもしれない。
私自身、ライブで成功したり何となく先々の糸口が見えるようになってきた時に限って、プライベートで悩みが出てきたりしていて不思議に思っていた。まずは本業や副業で大きな目標を持ち、大きく悩み考えることから始めようと思う。
学び③:圧倒的な努力量。
週百十時間労働を徹底していたという。これだけ聞くとただのベンチャーあるあるに聞こえるが、視点が違うと感じたのは、先に労働時間を決めている点である。土日も併せて一日十六時間働く訳だが、ベンチャー企業は意外にやることが無いのだという。藤田氏の様に業界的知見があるわけでもなく営業のみで突っ走ろうとしていた場合には余計にそうだと思う、手元で進められるサービスが無いのだ。やることが無い中で仕事に向き合う時間を先に決めることで、何かできないかと行動を続けるという。創業の三名で、毎日ビジネスプランコンテストを開いていたとも書いていた。
真面目な日本人は綺麗なPDCAサイクルを回そうとしているケースが多いのではないだろうか。結局はDoの数や量に敵うアイデアや発明など大抵の場合は無く、結果を残す為にはまずは質よりも量だろう。何をしたらいいか分からない、乃至はどんな夢を持ったらいいか分からない場合は、夢について一日十時間考えることを先に決めてしまっても良いかもしれない。その退屈さに我慢出来ずに自然と夢について真剣に考え始めるだろう。
学び④:手段と目的の明確化。
藤田氏には「21世紀のビジョナリーカンパニーを作る」との目的が常にあった(本書ではブレている場面も書かれるが、基本はそれに沿っている)。
途中、メディアに大きく取り上げられたり、上場して二十六歳で三百億円の大金を手にしたりと、一般的には「人生上がり」と考えても良さそうなタイミングはいくつもあったように見受けられるが、藤田氏は常に目的に向かって走っており、メディア露出も上場も、知名度向上・採用力強化の為だと割り切っていたように書かれていた。自身の魂から欲している大義に向かって走るからこそ、前述した行動量のモチベーションに繋がっているのだと思う。
学び⑤:外部環境は操れない。
藤田氏は大注目の最中に上場するが、ITバブル崩壊により上場来高値を殆ど更新しないままに十分の一以下の株価まで下落することになる。メディアや外部は手のひら返しで、ITの欠落や二十六歳社長の私生活の乱れ方等、あらゆる手を使って攻撃してくる。中には掲示板へ殺害予告もあったそうだ。
外部環境に依存したモチベーションは人を崩壊させると思った。そもそも藤田氏は、大学時代に一日百件の飛び込み営業で断られ続ける等、メンタルは相当に強い方のはずだが、それでも精神的に参ったと書かれていた。百億円近い株を無償で社員に配った時は、それを受け取り次第退職者が続出したという。
人を頼りながらも外部環境に依存しないとは難しいものだが、周りの力を借り続けながら自身も懸命に努力した藤田社長の周りには、信頼出来る仲間だけが残っているようのだろう。まずは一度信じてみること、それでも人は裏切られるものだが、その時は無理やりにでも自分に非が無かったか考えることで、全て学びに変えることも出来る。事実、藤田社長は上場に躍起になっており社員とちゃんと向き合えていなかった節もあったように記載されていた。
加えて、客観的に見た時に、殺害予告もITバブル崩壊も、「だからなんだ?」と思ってしまった点は少し怖くも学びになった。当事者からしたら一大事でも客観的に見たらそんなのあることでしょ程度にしか映らないのだ。
殺害予告も、良いことではないが、サイバーエージェント程の規模の会社が暴落すれば無い方がおかしい世の中になっている。バブル崩壊も、私が金融に勤めるものだからかもしれないが、一定のサイクルで起こり得るものだろう。
常に客観的に事実を見る目と、没頭する情熱の二つを兼ね備えていると突き抜けられるのかもしれないと感じた。