マガジンのカバー画像

もう一度読み返したい素敵な文章

149
これからの日々の中で、ふとした時に読み返したい素敵な文章に出逢ったとき、追加させていただきます。
運営しているクリエイター

2019年9月の記事一覧

好きを口に出すことと、好きが磨耗すること

二年ほど前に、突如としてお笑いコンビの和牛を好きになった。

当時はまだ全国放送でのテレビ出演が今ほど多くなくて、私は毎日、彼らの動画を漁った。

日に日に思いが募る。次第に、その気持ちを自分ひとりの胸のうちにしまっておけなくなった。和牛が大好きなことを、誰かに言いたい。

感情が重すぎてひとりで背負うのが苦しいから、切り分けてほかの人にも背負わせたいのだ。

同時に、「誰かに言ってしまうのが勿体

もっとみる
弟が万引きを疑われ、そして母は赤べこになった

弟が万引きを疑われ、そして母は赤べこになった

高校から帰ったら、母が大騒ぎしていた。
なんだなんだ、一体どうした。

「良太が万引きしたかも」

良太とは、私の3歳下の弟だ。

生まれつき、ダウン症という病気で、知的障害がある。
大人になった今も、良太の知能レベルは2歳児と同じだ。

ヒトの細胞の染色体が一本多いと、ダウン症になるらしい。
一本得してるはずなのに、不思議ね。

「良太が万引き?あるわけないやろ」

ヒヤリハットを、そういう帽子

もっとみる
「ご自愛する」という戦い方

「ご自愛する」という戦い方

私はハードワークが好きな若者だった。

大卒で「忙しい」「激務」と言われる業界に入って4年、「生活」らしい生活をないがしろにして最近まで過ごしてきた。

深夜まで働いてタクシーで帰るとき、車窓から見える誰もいない街は嫌いじゃなかったし、仕事仲間と夜更けに飲むビールは美味しかった。

社会に自分のやるべきことがあり、ちゃんと必要とされていて、そこに身を投じる毎日は刺激的だ。文句も愚痴ももちろんあるけ

もっとみる
「俺をバカにしたやつを絶対見返してやる!」と泣いていた息子が、それは時間の無駄だと気づくまで。

「俺をバカにしたやつを絶対見返してやる!」と泣いていた息子が、それは時間の無駄だと気づくまで。

ある日、学校から帰ってきた息子が唇を震わせていた。
小学2年になった息子は学校でのことをあまり家で話したがらないが、その日は様子が違ったので「何かあったの?」と聞いてみた。

「仮面ライダー幼児って言われた。仮面ライダーが好きなのは赤ちゃんか幼稚園児だって。」

マジか、そんな超くだらないこと1ミリも気にしなくていいじゃん、と内心思ったが息子はひどく傷ついていた。

「あなたは仮面ライダーが好きな

もっとみる