人間交差点4号【ダイナマイトキッズ】
喜悦くん「おう、悪いな夜中に…ほうれん草買いに行くからついてこいよ」
俺「……3時っすよ。どこも開いてないですって…」
喜悦「ほうれん草食うとよ強くなるって今テレビでやってたからよ」
さて、眠れないから4号機の話でもしようか。
さて、このダイナマイトキッズ…マツヤ商会から出たA400のノーマル機。機械割りも設定6で109%とまったくパッとしない1台。
当時大量獲得機や技術介入バリバリの時代にどちらにもあてはまらないマイナー機だった。
が、各店舗に設置されたダイナマイトキッズにノーマル機なんてなかった。
世に言う「裏モノ」ってやつで、内部システムなんか各店舗バラバラでリプレイver、チェリーverに様々なもんだから気軽に新しい店で座り打てるような代物じゃあなかった。
座って打ってる人間もなんか薄暗くて、どの店の台もパネルが殴られてヒビが入っていたり、焼きが入っていたりと香ばしかった。
ビックリするような話で、当時はジャグラーや花火やコンドルのメジャーな台の裏モノに改造して店は平気な顔して稼働させていたんだから今のパチンコやスロットって健全な遊びよね。
悪い話だけじゃなくツボにはまればAT機なんて目じゃないくらいに出たのも現実で、どちらが良かったかは判断しかねる。
喜悦くんは5つ上の先輩でいつもダサいガラシャツにスラックスと革靴。
何より腕っぷしが強くてよくぶん殴られるんだが、あんまりにも強いもんだから反撃しても勝てた試しがない。
見た目ゴリラの中身までゴリラ。
面倒見はよいのだが…中味がまったく無い人間なので嫌われていた。バカだし。
喜悦くんはこのダイナマイトキッズが大好きだった。
裏モノだから毎日のように打てるような代物じゃないですよと伝えても「はえ?」みたいな顔して座り、スッカラカンになりパチンコ屋さんから出ていく日々。
本物のバカだから365日同じ説明しても同じ顔をしていたと思う。
でも人を騙すようなタイプの人間ではなかった。
きっと騙す前に手が出てしまうし、下品な表情ですぐにウソがバレるし、ソレを抜きにしてもまっすぐだったし。
正直、ジョークのセンスもないから彼の話で笑ったこともない。はじめましての女性といても下着色から聞いてしまう残念な人間だ。
その年の冬、喜悦くんはヤクザになった。
気付くと遊ぶ機会は減っていた、と言っても会ってもダイナマイトキッズと女と酒飲みたい。の3つの単語しか喜悦くんは知らないから私の生活にはあまり変化はなかったんだけど何もヤクザにならなくても…とは思っていた。
その日は喜悦くんから遊びに行こうぜという連絡がきた。
俺「じゃあ現地集合で」
喜悦「わかったわかったw飯食ってから打つべなwwじゃあ!………現地集合ってどういう意味だ?」
喜悦くんは言葉を知らない。
パチンコ屋でバカと合流し、ダイナマイトキッズに並んで座り打ち始める。
喜悦くん「やっぱり面白いなこの台ww中身が未だにサッパリわからねーw」
俺「そうっすね、裏モノだから正規の情報もあてにならないし…そもそもマイナー過ぎてこの台の情報ないし…」
喜悦「良いんだよ面白いからww」
俺「…なんで喜悦くんこの台好きなんです?珍しいからっすか?」
喜悦「裏モノだから!ほら!これノーマルだと大した目立たねーだろ?でもよ!裏モノになったらこんなスゲー台になるんだぜ!」
俺「あぁ、まぁ…」
喜悦「俺と似てんじゃんw裏とかさw」
確かに。賢くはないが芯を捉えた発言だと感じた。
喜悦くん「俺もさwきっと普通に生活しようとしたらこの台のノーマルみたいに見向きもされないんだよなwwwヤクザだから光ってんだよ俺はw裏モノだけにwwはは!w」
喜悦くんの家庭環境とか諸々知ってたからちょっと胸が痛くなった。
下を向いていたら肩を掴まれる
喜悦くん「オマエはどうするんだ?」
笑ってない喜悦くんの目を観ながら考えた。中途半端な俺はどうするんだろ?って。
喜悦「オマエはどうするんだ?今日はその話をしにきたんだ。俺の下にこないか?」
今まで考えたくなかったことで頭がいっぱいになる。
目が離せない。
口を開いたら今いる場所にとどまる事が出来ず右か左にズレてしまうような怖さに頭がいっぱいになった。
俺「自分は…なりたくないっす。嫌いっすもん。」
喜悦「だよな!!w親父さん教師だしなオマエ!クビになっちまうもんなww」
笑顔になり肩から手を外され解放される、ビビった。
その日からあまり喜悦くんと遊ばなくなった。
私が二十歳になった時、喜悦くんは捕まった。懲役8年と聞いて残念な気持ちに包まれたのをよく覚えている。
あの時に考えたどちらに転ぶかの質問は今でもたまに思い出す。
正直、どうにでもなるよ。
裏モノだってのも喜悦くんの思い込みで踏み出したら普通の世界でも生きてけるよ。
ノーマルで良いじゃないか、機械割低くても何でも悪いことも我慢して足並み揃えるのも悪くないよ…と何で言えなかったのか。怖かったからか。
でも、あの時からずっと思ってる事だよ。
地元に帰っても喜悦くんはいないけど、たまに一緒に並んで打ちたくなる。
楽しくもないし、つまらないし、下品だけど。
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