熱中症リスクから子どもたちを守る「やさしい水分補給」
ARROWSが提供する、先生と企業が一緒につくる新しい授業「SENSEI よのなか学」をご活用いただいた企業様に、導入の背景や想いについて伺いました。
親が子を想うような「やさしさ」が詰まった水分補給飲料
——ARROWSとの協業で、小学生向けに「熱中症対策」のための教材を開発されました。どのような背景があるのでしょうか。
井島:私どもが販売している「GREEN DA・KA・RA(グリーン ダ・カ・ラ)」という水分補給飲料のブランドコンセプトを体現する取り組みの一つ、と言ったらいいでしょうか、親が子を想うような「やさしさ」で大人だけでなく、子どもたちにも正しい水分補給をしてほしいと願って始めた活動です。
GREEN DA・KA・RAを発売したのは2012年。その当初から「親子を笑顔に」をブランドのビジョンに掲げていて、それは単に親子をターゲットにしているという意味ではなく、大人も子どもも、誰にとっても安心できる飲料でありたいと考えてのことでした。何種類もの果実等の素材を使った自然の甘みや味わいを大切にしているのも、アレルギー特定原材料となる品目を使っていないことも、またカフェインゼロにこだわっているのも、すべてそのためです。
そうした「やさしさ」の一つに熱中症対策があり、水分補給に適した糖分や浸透圧を持たせることで、すっきりとした飲みやすさとスポーツドリンクとしての機能性を両立させています。
——そうした特長を持つ商品の社会的使命として、啓発活動をされているのですね。
中野:そのように理解していただけたらうれしいです。GREEN DA・KA・RAは、サントリーの飲料事業の中で「天然水」「BOSS」「伊右衛門」に次いで4番目に販売数の多いブランドで、お陰様で昨年(2023年)にはGREEN DA・KA・RAブランド計で過去最高の5,000万ケースを超える実績となりました。特にここ数年で著しく伸びてきたのですが、それは地球温暖化の中で日本の気温がどんどん上がり続けていることとも無縁ではないように思えます。
気象庁の統計によると、日本の平均気温は100年あたり1.35℃の割合で上昇しているそうですね。これは世界平均(0.76℃)よりも高い数値です。そういう中で熱中症で救急搬送される人も増えていて、昨年5月から9月の全国累計で9万1,467人(消防庁資料)。前の年より約2万人も増えて、ここ十数年で2番目に多い搬送人数でした。1日600人以上が救急車で運ばれた計算になるんですね。
ご存知のように、熱中症は死に至ることもある恐い症状です。そのリスクがどんどん高まり、社会問題化しているのですから、この商品を適切に飲んでいただくことで少しでもそれを防ぎたい。それには熱中症のことを正しく知ってほしいし、どんなふうに予防したらいいのかもお伝えしたい。そんな活動をカタチにすることが、人々を不安にさせないこと、やさしい飲み物であることをコアとするこの商品の使命なんだと思っています。
熱中症から命を守るための教材を小学校に
——具体的には、教材を通じて子どもたちや保護者にどんなことを伝えていますか。
中野:熱中症ってどんな病気で、なぜ、どんなときに起こるのか。そうならないために、どんなことに気をつけたらいいのか。そういった基本的なことをわかりやすく伝えるようにしています。「なんだか難しい話だな」と子どもたちに思われたら、もうそこで終わってしまいます。もっと身近なところから入らないといけません。
例えば、人はただ座っているだけでも汗をかきます。室温23℃の部屋に4時間ほど座っていると、どれだけの水分が失われると思いますか? 約200ミリリットル。コップ1杯より多いなんて驚きますよね。人間のカラダの60%は水分ですから、それを失うのは命にかかわる危険なこと。たった数%が足りなくなるだけで吐き気や頭痛を起こします。そんな話から引き寄せて、関心を持ってもらえるように展開します。
井島:水分の摂り方も大事なポイントです。人間は汗をかくことでカラダの中の水分量をバランスよく保ち、体温を調整しているのですが、汗と一緒にナトリウムやミネラルも外に出てしまいますので、こうした成分も補わなければなりません。つまり、水を飲むことは大切ですが、それだけでは足りないんですね。環境省の「熱中症環境保健マニュアル」では、0.1〜0.2%ほどの塩分濃度がある飲み物、つまりスポーツドリンクなどからのこまめな水分摂取が推奨されています。
もう一つ、特に保護者の方に知っていただきたいのは、お子さまが熱中症になる危険度は大人以上に高いということです。子どもは体温調節機能が未発達で、体内の水分の割合や体重当たりの体表面積も大人より大きいので、気温の影響を受けやすいのです。そして、身長が低いので地面からの反射熱も受けやすい。当社がウェザーマップ社と共同で行った検証実験では、大人と子どもの胸の高さの気温差が約7℃もあるという結果が出ています(大人150cm、子ども80cmの設定)。
——そうした教材づくりにおいて、ARROWSとのコラボレーションは役立ちましたか。
中野:はい、教育現場を知る立場からのアドバイスは貴重でした。伝えたい知識はこちらで用意できますが、それをどう組み立てるか。特に子どもたちを惹きつける仕掛けについてはいろいろと工夫が必要でした。例えば、初めての夏を経験する雪女の「雪ちゃん」が登場するアニメ動画もその一つ。専門医の解説を交え、「ダカラとムギの電話相談室」を通じて熱中症について学んでいくという設定で、無理なく子どもたちに受け入れてもらえるものにできたように思います。
井島:ARROWSさんの「SENSEI よのなか学」では、全国の小学校の先生方が実際にこの教材を使い、授業をしてくださっています。そうした機会が得られたこと自体が、たいへん貴重なことだと思っています。
子どもにも親にも先生にも刺さる「三方よし」の授業
——ARROWSとの出会いについてお聞かせください。「SENSEI よのなか学」のどんな点に着目されましたか。
井島:実はGREEN DA・KA・RAを発売した頃から、当社では小学生とその保護者の方向けの啓発活動を始めていました。熱中症対策に関するポスターや冊子をつくって全国の小学校に配布することを中心とする取り組みで、毎年欠かさずに継続してきましたので、配布先は累計でおよそ8万校、冊子の部数にして1,400万部ほどになるでしょうか。
こうした活動は続けることが大切で、いつも目にすることで意識を深めてもらえますし、お子さまを通じて家庭にも理解を広めることができます。ただ、子どもや親、先生たちがどう受け止めているか、正しく理解してもらえているかどうか、実際のところはなかなかわからないのが実情です。
学校との接点を広げるこの活動と並行して、個々の教育現場に対してもっと深くアプローチする取り組みも同時にできないか。そう考えていたときに出会ったのが、「SENSEI よのなか学」でした。我々がつくった教材を使って先生が直に教えてくださるなら、それに勝る啓発はありません。
中野:それがちょうどコロナ禍の最中の、2020年の夏頃です。この年も異常な暑さに見舞われる中、学校では児童がマスクによる暑さにも堪えて運動をしたり、給食を食べたりしているのを見て、いよいよ本気でアクションを起こさなくてはという機運が社内で高まっていた時期でした。
ARROWSの担当者に会ってお話を聞いてみて、実は学校の先生方からも、熱中症対策をなんとかしたいという声が上がっているのを知りました。こまめな水分補給が大事なことは教えられる。でも、熱中症のメカニズムや対策のポイントについて正しく教えるのはハードルが高いと。それならば一緒にやりましょう、そんな流れで話がまとまりました。
——これまでの成果と今後の活動方針についてお聞かせください。
井島:今まではなかなか知る機会がなかった先生方のナマの声を聞けることは、非常に大きな収穫だと思っています。実際、授業後にいただく先生からのフィードバックを見ると、「自分自身の理解も深まった」「こういう教材があると児童に伝えやすい」といったコメントが多く、やりがいを感じると同時に、教育現場のニーズに対するこちらの理解も進みます。「先生から教育を変えていく」という、ARROWSさんのビジョンはまさにこういうことなんだなと実感しますね。
中野:子どもたちの感想文も毎回読むのが楽しみです。「ねっ中しょう対さくは、水分とえん分などのミネラルのバランスがとれた飲み物がいいようです」なんて、うれしくなりますね。小学生の頃、先生から教えられたことというのは、思った以上に自分の中に長く残るものだと思います。いわば、原体験のようなものとして。この授業にもそうした効果があればいいなと思っています。
井島:ブランドマーケティングの世界ではよく「消費者」「ユーザー」といった言葉が使われます。そこには当然、購買者の意味合いがあるわけですが、サントリー流の考え方からすると、買う買わない以前の「生活者」としての人々のありように目を向けたい。その毎日の暮らしや喜怒哀楽に寄り添うことが、マーケティングの基本だと捉えています。その意味でも、この活動を通じてGREEN DA・KA・RAの「やさしさ」を体現することは我々の理念に適ったことですし、これからもその軸をぶらさずに活動の幅を広げていきたいと考えています。