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心理教育〜トラウマの影響〜


トラウマの心理教育、という観点で勉強したことをまとめてみました。
フラッシュバック、attachment、再演、解離などなど。
徐々に追記・更新する予定です。


心理教育では、こちらの本がストーリー仕立てになっており、とてもわかりやすいです。


1-1. 単回性トラウマとPTSD


トラウマ体験とは大きなストレス反応を引き起こす出来事のことで、恐怖や無力感、大きな怪我や死の恐怖をもたらします。

トラウマ反応を受けた際の反応は、恐怖・悲しみ・抑うつなどの感情から、嘔気・めまい・食欲や睡眠の変化等の身体的な症状まで様々です。これらの反応が生じるのはとても自然なことです。

3ヶ月以内に改善する場合が多いが、1ヶ月以上続いたり悪くなる場合はPTSD(Post Traumatic Stress Disorder:心的外傷後ストレス障害)と言われます。

ちなみにWHOによるとトラウマ体験は生活の中で一般的で、21の国を対象にした研究では、暴力の目撃(21.8%)、DV(18.8%)、事故(17.7%)等々で、世界の推定3.6%ほどがPTSDとなっているらしいです。※1


PTSDの3徴候は、再体験・回避・過覚醒です。

● 再体験:フラッシュバック、悪夢など。痛みや冷汗などの身体症状も伴いうる。

● 回避:トラウマを思い出す特定の人や場所を避けること。人によっては、何も感じないように感情を殺そうとして感情鈍磨となる。

● 過覚醒:とても不安で常に脅威に怯えている、リラックスするのが困難になる。苛立ち、怒りの爆発、不眠症、集中障害などの形で現れる。


それ以外の症状としては、精神病・自傷やそれに類する行動(薬や酒に溺れるなど)・頭痛や胸痛などの身体症状がある。自分は悪くないはずなのに、「私が悪かったんだ」と自分自身を責めて傷付けてしまう人もいます。


小児のPTSDでは、行動異常、トラウマ体験と似たものの回避、頻回の遊びを通したトラウマ体験の表現などもあります。

ちなみにPTSDは、ベトナム戦争帰還兵に上記症状が多く見られたことを契機に定義されたようです。


1-2. 虐待による影響(複雑性PTSD)


慢性的なのトラウマ体験(虐待など)によっても、フラッシュバック等の症状が現れます。

長年にわたってトラウマを経験するとそれが日常で当たり前となってしまい、自分や周りに対する認知が大きく歪んでしまいます。その認知の変化による影響で、さらに傷を受けてしまいます。


この慢性的トラウマによる症状は、2018年に改訂されたICD-11(国際疾病分類第11回改訂版)に複雑性PTSD(complex PTSD)として収載されました。


慢性的なトラウマによって生じる症状として、以下が挙げられます。(NHSのcomplex PTSDの説明を参考)

● 恥や罪悪感を感じる
● 感覚の調整が難しくなる
● 注意や意識が変化(解離、健忘)
● 頭痛や腹痛胸痛などの身体症状(身体化)
● 対人関係の変化。人が信じられなくなったり、加害や被害を繰り返してしまう(トラウマの再演)
● 衝動的で危険な行動をしてしまう。自傷、自殺願望、アルコール・薬に溺れるなど。


同様に、van der KolkによるDESNOS(Disorder of Extreme Stress not otherwise specified)の診断基準を紹介します。DESNOSは、複雑性PTSDとほぼ同じ概念です。

● 感情覚醒の制御における変化。慢性的な感情・怒りの調節障害、自傷・自殺企図、衝動的で危険な行動、性的な関係の制御困難(例えばセックス依存)などが含まれる。

● 注意や意識における変化(健忘、解離)

● 身体化

● 慢性的な人格変化。自己認識の変化、加害者に対する認識の変化(加害者の理想化など)、人が信じられなくなる、加害や被害を反復する(トラウマ再演)などがある。

● 意識体系における変化。絶望感と希望の喪失、以前の自分を支えていた信念の喪失が含まれる。

大事なのは、全てが過去に受けた傷から生じる「症状」だということです。


また、虐待などの児童期逆境体験(Adverce childhood experiences)によって様々な病気にかかりやすくなる(結果として寿命が縮む)ことがわかってきています。


2-1. フラッシュバック、トラウマ記憶について


徐々に忘れ去られていく他の記憶と違って、トラウマ記憶は冷凍保存されます。思い出さなくて済むように、そして思い出したくない記憶だからこそ隔離されて記憶されていて、トラウマを受けたことを忘れている場合さえあります。

何かのきっかけでその氷が溶けるとき、そのトラウマを「いま、ここで」経験しているかのように、生々しく再現されます。感情や、感覚、認知もそのときを忠実に再現します。


フラッシュバックが起きやすいタイミングがいくつかあるようです。

● トラウマ体験と同じ「時間」「曜日」「日付」。

● 好きな人ができたとき。親密な相手ができた際に、attachmentの型(詳細は下記)が出やすくなります。安定した関係を築ければ回復に寄与しますが、逆に上手くいかないと自己肯定感が低下するなど悪化する場合もあります。

● ストレスを受けたとき、そのときと同じ気持ちになったとき。ストレスで耐性が下がっているときや、不安や恐怖などの感情が引き金となります。

● 妊娠や出産。親子関係でトラウマを抱えている場合、親となることへの不安などが引き金となりえるようです。

● 子育て中。自分がトラウマを負った年齢に子どもが達したときに、フラッシュバックを起こしたり再演をしたりする場合があります。


「赤ずきんとオオカミのトラウマ・ケア」によると、フラッシュバックを起こしそうなときは、目を閉じるとフラッシュバックの中に入り込んでしまうため、目を閉じない方が良いらしいです。

また、安心安全の感覚と繋がれるような好きなものを手に取ったり眺める、イメージやキーワードを思い浮かべるのも効果があるとのこと。


周りの人は、強く呼びかけたり体を揺さぶったりせず穏やかに名前を呼んで見守りましょう。加害者をフラッシュバックする誘引となりうるからです。

意思疎通が可能なら、足踏みをしてもらったり深呼吸を促し、見当識の確認をする(今・ここの感覚を強めるため)


2-2. attachmentについて


attachment(愛着)とは人と人との繋がりの生物学的な部分で、感情の調節や自己・他者認知に大きな影響を持っています。attachmentにより安心を感じ、不安な外界へと挑戦していきます。

attachmentは養育者との関わりで乳幼児期に形成され、その後の対人関係のあり方に影響します。
(いつまでに形成されるかは諸説あり、attachmentの型の割合には文化差があるようです。)


attachmentはlove(愛情)とは異なる概念で、良し悪しではありません。「愛着障害=愛情が足りていない」は間違った解釈です。


attachmentは、不安・ストレスフルな状況での行動や、その状況で養育者に出会った際の反応で4つに分類されます。

(白川美也子著「トラウマのことがわかる本 生きづらさを軽くするためにできること」より引用)


1. 安定型
不安な状況では泣いたり抵抗したりするが、養育者に近づけばすぐに落ち着きます。安定型は、辛い出来事を体験しても、安心感を得やすく心の傷は残りにくいです。

2. 回避型
不安な状況でも泣いたりせず、養育者と再開しても近づかず、目を逸らしたり避けようとします。
子どもの働きかけに対し、微笑んだり抱き抱えたりすることが少なく、苦痛を示す反応をすると子どもを遠ざけるような養育スタイルが多いようです。

3. アンビヴァレント型
不安な状況では強い不安や混乱を示し、養育者と再開すると近づくが、怒って叩いたりします。
子どものサインに気づきにくく養育者自身の都合で反応が変わる養育スタイルが多いようです。

4. 無秩序・無方向型
近づきつつ避けようとするなど、不自然でぎこちない。突然すくんだり、虚ろな表情を浮かべたりします。初対面の人にむしろ親しげに接したりするようです。
子どもを脅えさせる行動をとるなど、不適切な対応をする養育スタイルで多いようです。養育者自身が未解決な問題を抱えており、精神的に不安定なことが多いようです。

2-4の型は、不安定なattachmentです。回避型はある程度距離を保つことで安心を保ち、アンビヴァレント型は最大限のサインを送ることで放置される心配が減ります。無秩序・無方向型はどのような振る舞いをしても、安心・安全という感覚が得られないようです。

この幼少期のattachment型は、Mary Ainsworthらによって開発されたstrange situationという方法で分類されています。


思春期以降のattachmentの型も、パートナーや身近な人との関係性で以下の4つに分けられます。幼少期のattachmentの型と関連するようです。
※常に一致するわけではありません

1. 安定型
誰かを頼ったり頼られたりすることが心地よく、親しい関係を作りやすいです。幼少期の安定型と関連します。

2. 拒否型
自分への信頼が高く自立的で、誰かに頼ったり頼られたりすることを好みません。他者への不信感が強く攻撃的な「怒りー拒否型」と、感情をあまり見せず他人と親密になろうとしない「引っ込み型」に分けられるようです。回避型と関連するようです。

3. とらわれ型
パートナーに過度の親密性を求めます。相手が自分と同じように望んでいないことに不安を覚えます。幼少期のアンビヴァレント型と関連するようです。

4. 恐れ型
親しい関係を求めつつ、近くなると傷つけられるのではと不安に感じます。相手を完全に信頼したり頼ったりするのが困難です。幼少期の無秩序・無方向型と関連します。

※ Relationship Questionnaire(関係尺度), Bartholomew&Horowitz,1991,での分類


あくまでattachment ”理論” ではありますが、自身のトラウマの影響に気づくきっかけ、その先の回復へのきっかけになります。

こちらもわかりやすいです。


2-3. トラウマ再演について


トラウマを受けた人が、過去の体験と同じようなことを繰り返してしまうことを”トラウマの再演”といいます。被害者側、加害者側の両方になり得ます。

例えば、自分に危害を与える人に近づいてしまう人もいます。逆に学校で暴力的な子は、虐待の再演を起こしている結果であるかもしれません。


他人と加害・被害の関係になっている(傷付けた・傷付けられた、責めた・責められたと感じた)ときは、トラウマの再演になっているかも?と思ってみることが大事です。

トラウマの再演を繰り返すと、ネガティブな認知・トラウマの影響を強めてしまう可能性があります。



逆に周りの人の対処も重要です。

ある困った行動に対して、処罰的な対応(特に身体的なもの)を行えば虐待の再演、無視はネグレクトの再演になりえます。

その行動がトラウマに起因するものだった場合、相手の再トラウマを引き起こす可能性があります。

とはいえ、難しいですよね。どちらにせよ負の感情に従って対応しない方が良いということでしょうか・・・?


2-4. 解離について


私たちには、「自分が自分である」という感覚があります。知覚・意識・感情・記憶・アイデンティティ・身体イメージ・行動が連続的で、1つにまとまっています。

このまとまった状態が分断して知覚されるのが「解離」です。

感情が麻痺したり、過去の記憶が部分的になくなったり、感覚がなくなったり、意識がなくなったり、自分を体の外から眺めている感じがしたりします。

これらの症状は、つらい体験を切り離すための心の防衛反応として働きます。


2-5. 自傷行為について


虐待を受けている環境では不快な感情やストレスが当然多くなります。attachmentが不安定だと、それらを制御するのが難しくなります。

この不快な感情やストレスの対処が、自傷行為という形で表れる場合もあります。幼児だとぶつける・引っ掻く・噛む・毛を抜く、年齢が上がるとリストカット・over doseなどです。

解離していると痛みも感じにくくなります。


自傷行為も解離も、自分の中の葛藤を解消するための合理的な手段で、あるタイミングでは最適解だったかもしれません。

しかし自傷をやめられなくなっていたり、その自傷行為が命に関わる場合もあります。解離も日常のほとんどで感情がわからなくなったりと、しばしば逆に自分を苦しめるものになってしまいます。


3. 最後に


精神科関連は用語もたくさんあって、定義や解釈が(個人的に)難しいです。間違い等あれば、指摘いただけるとありがたいです。

これからスライドを入れていこうかなーと思ってます。


以下を参考にしています。

1-3. 全体を通して


1. トラウマ・PTSDについて


※1. 以下のWHOサイト、Traumatic events and loss a common experienceより引用


2-2. attachment


Kazuo Kato. Japanese adaptation of Bartholomew et al. (1991)’s
adult attachment scale (RQ). Journal of Cognitive Processes and Experiencing. 1998/9, 7, 41-50


2-4. 解離について



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