マガジンのカバー画像

断片

28
短編
運営しているクリエイター

2016年11月の記事一覧

それが勘違いだったとしても②

駅を一つ跨ぐというのは、どうやらおもったよりも見る世界を変えてくれるらしい。一時間かけて都内にいくことはあっても、一つさきの駅にくることはほぼない。というか、俺にとってははじめてだった。同じような景色が広がっているのかと思えば、見たことない猫が前を横切り、昔地元で嗅いだことのあるような匂いがし、この家の今日の夕飯はカレーだな、なんて想像してみたり。どこにでもあるような景色だったけど、俺の住む町では

もっとみる

それが勘違いだったとしても①

立て付けの悪いドアを開いてピカピカと明るい部屋の中に入る。別に誰が待っているわけでもないのに黙々と仕事をこなす剥き出しの電球に向けて、ありがとうなんていう気分じゃなかった。
誰もいない部屋。誰もいない明るい部屋。ちっぽけな給料から毎回誰もいない部屋を照らす電気の料金を払うのは勿体無い気もしたが、そうでもしないと俺の気が狂いそうだった。トラウマとも言い難い少し前の出来事に、ここまで心を持っていかれる

もっとみる