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こんなにも春が待ち遠しい冬は

こんなにも春が待ち遠しい冬は生まれて初めてだ。
正確には、気温が20度を超えるのを、心待ちにしている。

きっかけは何かの帰りにふらりと寄った100円均一だった。種、水を入れると膨らむ土、説明書が入った栽培キットが売られていた。1つ100円。マグカップや牛乳パックの切ったものへ入れたら芽が出るらしい。これは楽しいかもしれないと、バジルのキットを買って帰った。
さっそく、家に帰って使わないマグカップへ土を入れて種をまいた。土はとても小さくまとめられていたのに、水をやるとふかふかになった。そこへ、種を均等にまいて、ベランダへ置いた。すると、2日ほどで小さなうす緑色が見え、すぐに双葉が開いた。乾かないように水をやっていると、ぐんぐんと伸びていき、あっという間にマグカップの中は、小さな森のようになってしまった。
芽と芽の間があくように間引いていく。間引きをした小さな芽は、まだ小指ほどもないのに、鼻を近づけるときちんとバジルの香りがした。100円でこんなにも楽しめるなんて、と、ここからすっかりはまってしまった。
バジルの生長速度は早く、間引いても間引いても、マグカップでは窮屈に見えるようになった。キットに入った説明書には、長く育てるには植え替えたほうがよいと書かれていた。急に思い立って種をまいたので、植え替えるためには土や植木鉢が必要だった。
そこで、もう一度、100円均一に行ってみると、小さめの植木鉢や、少し植えるには最適な量の土や肥料がそろっていた。小学生のときに植えたあさがおを思い出しながら、ひと通りをそろえて植え替えた。
植え替えると、さらに大きく太く育ち、つやつやと丸い葉がたくさんついた。もう完全にマルゲリータの上で見るバジルの葉だった。この頃には、水やりをするだけで、香りが立つようになっていた。いよいよ収穫し、鮮やかな緑色をした葉をどうして食べようか悩み、結局そのまま食べた。私は、初めてバジルだけを味わって食べた。みずみずしく、濃厚な香りがした。次に収穫するときには、もう少したくさん採れるようにして、パスタソースにしてみたい。ピザにも散らして、サラダにもしたい。そうすると、同時にたくさん収穫する必要がある。
また、100円均一に行き、バジルの種を買い足すことにした。すぐに大きくなるので、先に植えたものに追いついて、収穫できるようになるだろう。100円均一の種のコーナーを見ているとバジル以外にも色々売られており、その中に青シソがあった。バジルで要領は学んだし、同じように育てられるかもしれない。それに、うちの食卓にはバジルよりもシソのほうが使用頻度が高い。それで、バジルの種と青シソの種を買い、また一から育て始めた。

結局、収穫量を増やすために大きなプランターが欲しくなり、そのために土を買い足し、肥料を買い足し、害虫駆除の方法も調べ、土いじりが日常の一部になった。繰り返し収穫し、いろんな料理に取り入れて食べた。
最後には、バジルもシソも白い花をつけた。花を咲かせると葉が固くなるので、つぼみを摘んでしまうのだが、せっかくだから花も見てみたくて、摘まずに伸ばした。残暑のおかげで、長く収穫できたが、それでも気温が下がってくると枯れてしまい、寂しいながらも、夏の間楽しませてくれた感謝をして片付けた。

ふとした思い付きで植えた種が、思いがけず日常に彩りを与えてくれた。暑い夏はすぐに土が乾いてしまうから、朝晩2回の水やりは欠かせず、忙しい日々の中の楽しい日課になった。毎日毎日生長していくさまを観察しているのは、本当に楽しい。

100円均一で売られている種の中には、育ててみたいものがまだたくさんある。今度はなにを植えようか。実のなる植物にもチャレンジしたいし、ハーブだけでなく花の育て方も学びたい。多くの種の発芽適温である20度を超えるのを、まだかまだかと待っている。特別、雪深い地域で育ったわけでもない私は、春をこんなにも待ち遠しく思ったことはこれまでなかった。

種は春を待つことを教えてくれた。

少しでも春を。

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