相加・相乗平均の定理の発展とその罠
高校数学で習う相加平均・相乗平均の定理。式の最小値(または最大値)を求めるのに楽な定理で、発展させると3つ以上の変数でも使えたりと便利ですが、実は「いつもの感覚」で解いていると問題の"罠"に引っかかる可能性があります。ここでは発展と罠の両方について解説します。
相加平均・相乗平均の定理とは
相加平均・相乗平均の定理とは次のようなものです。
$${a\geqq0 , b\geqq0 のとき、a+b\geqq2\sqrt{ab}\\等号は a=b のときのみ成立}$$
証明
証明は中学生でも理解できるものになります。
$${a\geqq0 かつ b\geqq0 のとき、\\a+b-2\sqrt{ab}=(\sqrt{a})^2-2\sqrt{a}\sqrt{b}+(\sqrt{b})^2=(\sqrt{a}-\sqrt{b})^2\\ここで、a\geqq0 かつ b\geqq0 よりa,b ともに実数であるから、\\(\sqrt{a}-\sqrt{b})^2\geqq0 となるので a+b-2\sqrt{ab}\geqq0\\-2\sqrt{ab} を移項すると a+b\geqq2\sqrt{ab}\\等号は、(\sqrt{a}-\sqrt{b})^2=0 が成立するときなので、\\ \sqrt{a}=\sqrt{b} , つまり a=b のとき。}$$
使い方
$${例題:x>0 のとき、x+\dfrac{2}{x} の最小値を求めよ。}$$
もちろん微分しても求められますが、分数関数なので少し面倒です。
そこで、相加平均・相乗平均の定理を使います。
このように積で分数関数が消える場合は便利です。
$${相加平均・相乗平均の定理より、}$$
$${x+\dfrac{2}{x}\geqq2\sqrt{x\cdot\dfrac{2}{x}}=2\sqrt{2}}$$
$${よって、x+\dfrac{2}{x} の最小値は 2\sqrt{2}}$$…(※)
後述しますが、(※)の部分は少し危険な求め方で、
テストの記述でやるとおそらく大減点を喰らいます。
もちろん答えは間違ってはいませんが、本来は$${ x }$$の値を
しっかり確認してから最小値として解答しなければなりません。
正しい解答の仕方についても後述します。
相加平均・相乗平均の定理の発展
変数が3つの場合
変数が3つの場合も大体同様に相加平均・相乗平均の定理が使えます。
$${a,b,c\geqq0 のとき、a+b+c\geqq3\sqrt[3]{abc}\\等号は、a=b=cのときのみ成立}$$
変数が3つの場合の証明
これは因数分解を応用しますが、少しレベル高めです。
$${a=x^3,b=y^3,c=z^3 とおくと、\\x^3+y^3+z^3-3xyz=(x+y+z)(x^2+y^2+z^2-xy-yz-zx)\\x^2+y^2+z^2-xy-yz-zx=\dfrac{1}{2}\{(x-y)^2+(y-z)^2+(z-x)^2\}より\\x^3+y^3+z^3-3xyz=(x+y+z)\cdot\dfrac{1}{2}\{(x-y)^2+(y-z)^2+(z-x)^2\}\\a,b,c\geqq0 より a+b+c\geqq3\sqrt[3]{abc} は成立する。\\等号に関してもほぼ2つの変数の場合と同様に証明できる。}$$
変数がn個の場合
さて、ここまでくるともはや利用法などあるとは思えませんが、一応あるにはあります。
$$
a_1,a_2,…,a_n\geqq0 のとき、\sum_{k=1}^{n}a_k\geqq n\sqrt[n]{\prod_{k=1}^{n}a_k}
$$
これだけではよくわからないと思うので、少し式を具体化すると、
$$
a_1+a_2+…+a_n\geqq n\sqrt[n]{a_1a_2…a_n}
$$
これの証明にはいろいろな方法がありますが、ここでは省略します。
(数学的帰納法を利用します)
相加平均・相乗平均の定理の「罠」
さて、相加平均・相乗平均の定理は便利ではありながらしっかりと正しく確認しないと問題の「罠」に引っかかる可能性があります。相加平均・相乗平均の定理を習ったばかりの練習問題などではほとんど罠はなく(というか仕掛けようがない)、模試などで出ることが多いかと思います。
まずは先ほどの「使い方」での正しい解答方法を見てみましょう。
$${例題:x>0 のとき、x+\dfrac{2}{x} の最小値を求めよ。}$$
$${相加平均・相乗平均の定理より、}$$
$${x+\dfrac{2}{x}\geqq2\sqrt{x\cdot\dfrac{2}{x}}=2\sqrt{2}}$$
$${等号が成立するのは x=\dfrac{2}{x} 、つまり x=\sqrt{2}のときである。}$$
$${よって、x+\dfrac{2}{x} は x=\sqrt{2} のとき最小値 2\sqrt{2} をとる。}$$
先ほどとの違いはしっかりと等号成立条件を確認したことです。
普通はこのようなことをしなくても記述でなければ問題はありませんが、
たまに普通にやるのでは誤答になる罠が存在します。
一見普通の問題に見える「罠」の問題
$${xを実数とし、f(x)=x^2+2+\dfrac{3}{x^2+2}とする。f(x)の最小値を求めよ。}$$
ここで、$${A=x^2+2 }$$とおくと、$${f(x)=A+\dfrac{3}{A} }$$となって相加平均・相乗平均の定理を使える形です。使ったところでこの段階では問題はありませんが、そのあとに注意が必要です。
「罠」に引っかかった場合
まずは普通に罠に引っかかった場合を見てみましょう。
$${相加平均・相乗平均の定理より、\\x^2+2+\dfrac{3}{x^2+2}\geqq2\sqrt{(x^2+2)\cdot\dfrac{3}{(x^2+2)}}=2\sqrt{3}\\よって、f(x)の最小値は2\sqrt{3}である。}$$
一見正解のように見えますが、実は誤答です。
グラフは下のようになります。
なぜこのようにずれるのか?という疑問の答えは、
$${x}$$ の値を確認していなかったことにあります。
「罠」の理由とずれの原因
当然相加平均・相乗平均の定理は正しいので、
$${x^2+2+\dfrac{3}{x^2+2}\geqq2\sqrt{3}}$$はもちろん正しいです。
しかし、ここで等号成立条件を確認して$${ x }$$の値を求めると、
$${等号成立条件は x^2+2=\dfrac{3}{x^2+2} のとき、}$$
$${これを解くとx^2=\pm\sqrt{3}-2で、\\複号がどちらでもx^2は負の値になるためxは虚数になる。}$$
$${しかしこれは問のxは実数という定義に反するため等号は成立しない。}$$
等号が成立しないということは最小値は$${2\sqrt{3}}$$ではないということです。
つまり、この問題に相加平均・相乗平均の定理は使えなかったのです。
正しい解き方と正答
さて、相加平均・相乗平均の定理が使えないとなると最小値の求め方は事実上ただ1つ。微分しかありません。最小値は(導関数)=0を満たす$${x}$$を関数に代入した時の値なので、それを求めていきます。このやり方は普通の微分の極値の求め方と全く同じです。
$${(x^2+2+\dfrac{3}{x^2+2})'=2x-\dfrac{6x}{(x^2+2)^2}\\2x-\dfrac{6x}{(x^2+2)^2}=0 を x について解くと、\\2x(x^2+2)^2-6x=0\\2x(x^4+4x^2+1)=0\\x=0,i\sqrt{2\pm\sqrt{3}},-i\sqrt{2\pm\sqrt{3}}\\xは実数でなければならないので、x=0\\これをもとの式に代入すると、\\x^2+2+\dfrac{3}{x^2+2}=0^2+2+\dfrac{3}{0^2+2}=\dfrac{7}{2} (=3.5)\\よって、f(x) は x=0 のとき最小値 \dfrac{7}{2} をとる。}$$
しっかりと正しい答えが出ました。
このように、相加平均・相乗平均の定理は使える場合と全く役に立たない場合の2つがあります。基本的に$${ x }$$の次数が1次であればあまり警戒する必要はないと思われますが、2次以上であったり1次と2次の複合(3つの変数を応用する解き方)では警戒するべきです。