因数分解の裏技集
今回は因数分解の裏技を解説します。
公式でやるのは大変なものを主に解説していきます。
また、その裏技がなぜ成立するのかも解説します。
2次式(2次の係数が±1以外の場合)
まずは2次式($${ax^2+bx+c}$$)の裏技です。
ただし、$${a=1}$$のときは普通に公式$${x^2+(a+b)x+ab=(x+a)(x+b)}$$を利用、$${a=-1}$$のときは-1でくくってから公式利用でいいので「楽になる」というほどの裏技は特にないと思います。ここでは$${a\neq\pm 1}$$の場合の裏技を紹介します。
やり方
例題:$${6x^2+19x+15}$$を因数分解せよ。
①2次の係数を定数項に掛けて消す
$${6x^2+19x+15 \to x^2+19x+15\times 6=x^2+19x+90}$$
aの値をcの値に掛けてaを消し、公式で因数分解できる形にします。
②変形後の式を因数分解する(公式を利用)
$${x^2+19x+90=(x+10)(x+9)}$$
$${x^2+(a+b)x+ab=(x+a)(x+b)}$$を利用して因数分解します。
③先ほど消した2次の係数で因数分解後の定数を割る
$${(x+10)(x+9)\to (x+\frac{10}{6})(x+\frac{9}{6})=(x+\frac{5}{3})(x+\frac{3}{2})}$$
①で消した6で因数分解後の定数(ここでは10と9)を割ります。
④割った後が分数になった場合は、分母をxの前に持ってくる
$${(x+\frac{5}{3})(x+\frac{3}{2})\to(3x+5)(2x+3)}$$
分数にならない場合はこの操作は必要ありません。
学校で習った方法とは全く違うような方法ですが、確かに成立しています。
証明
次に証明です。ここでは簡単なものにしておきます。
まず手順②の形に変形するため2次式$${\alpha x^2+\beta x+\gamma}$$を考える。ここで、この2次式が乗法公式$${acx^2+(ad+bc)x+bd=(ax+b)(cx+d)}$$によって因数分解できるとすると、当然だが$${ac:ad=bc:bd}$$とでき、$${ad=p,bc=q}$$とおくと$${ac=\alpha,bd=\gamma}$$だから$${\alpha:p=q:\gamma}$$となる。ここで比例式の関係から$${\alpha:p=q:\gamma}$$は$${pq=\alpha\gamma}$$となり、また$${ac+bd=\beta}$$なので、$${p+q=\beta}$$である。$${p+q=\beta}$$を変形すると$${q=\beta-p}$$となるから、$${pq=\alpha\gamma}$$に代入して整理すると、$${p^2-\beta p+\alpha\gamma=0}$$という2次方程式になり(ここで$${p=\beta-q}$$とおいて代入し変形しても結局pがqになるだけで同じ式になる)。これを解くと$${p=ad,bc}$$、よってadとbc値が求まる。ここから$${x^2+(ad+bc)x+abcd}$$という式を作る。これが手順②の式になっている。この式の左辺を因数分解すると、$${(x+ad)(x+bc)}$$とできる。次に手順③だが、定数項を2次の係数で割る、つまりacで割るということになる。すると、$${(x+\frac{ad}{ac})(x+\frac{bc}{ac})=(x+\frac{d}{c})(x+\frac{b}{a})}$$となる。最後に手順④だが、$${(x+\frac{d}{c})(x+\frac{b}{a})}$$を展開しても$${x^2+\frac{bc+ad}{ac}x+\frac{bd}{ac}}$$となってしまい、本来の展開式をacで割った形になっている。最後にこれを解消するために式全体にacを掛けると、$${ac(x+\frac{d}{c})(x+\frac{b}{a})=c(x+\frac{d}{c})\times a(x+\frac{b}{a})=(cx+d)(ax+b)=(ax+b)(cx+d)}$$となる。分母を外すということだが、これはつまりacを掛けることと同じことになっている(分数がない場合は分母が1と考える)。(証明?終わり)
因数の項の数の予測
続いては因数分解した式が何項の多項式なのかをなんとなく予測する方法です。これはそこまで難しいものではありません。(ただし例外も結構あります。その例外の見分け方は後述します。)
①分解前の項数が奇数の場合は1を足す
例えば$${x^2+5x+6}$$であれば3項ですが、奇数なので1を足して4でカウントします。偶数の場合はそのままで大丈夫です。
②カウントした数を素因数分解する
次にこれを素因数分解します。例の$${x^2+5x+6}$$であれば4つなので、素因数分解すると$${4=2^2}$$となります。素因数分解した数が基本的に因数の項数を表していることが多いです。
$${x^2+5x+6=(x+2)(x+3)}$$なので確かに2(項)×2(項)になっていますね。
例外のちょっとした見分け方
例外はたくさんありますが、その中の大部分は「項が2つ」か「4次式」であることが多いと思います。例えば、次のコツの例題の$${x^3+1}$$や、項数は3でありながら単純な因数分解ではない$${x^4+x^2+1(=(x^2-x+1)(x^2+x+1))}$$などです。
"書かれていないもの"を加減する
例:$${x^3+1}$$を因数分解せよ。
まず、これを見て$${a^3+b^3=(a+b)(a^2-ab+b^2)}$$の公式が思い浮かべば何も加減して求める必要性はありません。しかしこういう系の問題は出ることがあるのでやり方はなんとなく理解してください(これは問題によるので明確な手順はありません)。
$$
x^3+1\\
=x^3-x^2+x+x^2-x+1\\
=(x^3-x^2+x)+(x^2-x+1)\\
=x(x^2-x+1)+1(x^2-x+1)\\
=(x+1)(x^2-x+1)
$$
共通因数を作るように足し引きの項を追加するとうまくいくことが多いです。
よく使われる公式
ここでは特殊な因数分解でよく使われる公式を紹介します。
どれも高校数学までで習う範囲かと思います。
・$${a^2-b^2=(a+b)(a-b)}$$
・$${a^3\pm b^3=(a^3\pm b^3)(a^2\mp ab+b^2)}$$
・$${a^2\pm2ab+b^2=(a\pm b)^2}$$
最後の公式はそのまま使う問題はほとんどないかと思います。これは例えば$${4x^4+4x^2y^2+y^4=(2x^2+y^2)^2}$$のようにa,bにちょっと複雑な値を代入して使うことが多いです。
最終手段
これはあまりお勧めできない方法ですが、どうしてもわからない場合(特に2次式かつ2項×2項の形の場合)はこの最終手段を使えばなんとかできると思います。その最終手段とは、
$$
f(x)が(x-\alpha)を因数に持つとき、f(\alpha)=0
$$
という因数定理を使います。
つまり、(分解したい式)=0の形にして方程式を解けばいいということです。ただし注意するのは、解が例えば$${a,b}$$だったとき、そのまま因数になるわけではなく$${(x-a)(x-b)}$$になるということに注意が必要です。また、分数になってしまう場合は外すなどの工夫が必要な場合があります。
練習問題
最後に練習問題を解いてみましょう。
$$
① 次の式を因数分解せよ。\\
(1) x^4+4y^4\\
(2) (a+c)(a-c)-b(b-2c)\\
② x^7+x^6+x^5+x^4=x^3+x^2+x+1 を解け。
$$
練習問題の解答・解説
解答と解説(途中式)です。
1.(1)
$${x^4+4y^4}$$
$${=x^4+4x^2y^2+4y^4-4x^2y^2}$$
$${=(x^2+2y^2)^2-(2xy)^2}$$
$${=(x^2+2y^2+2xy)(x^2+2y^2-2xy)}$$
書かれていないものを加減する問題です。
最後の和と差の積の公式に気づければ簡単ですね。
1.(2)
$${(a+c)(a-c)-b(b-2c)}$$
$${=a^2-c^2-b^2+2bc}$$
$${=a^2-b^2+2bc-c^2}$$
$${=a^2-(b^2-2bc+c^2)}$$
$${=a^2-(b-c)^2}$$
$${=\{a+(b+c)\}\{a-(b-c)\}}$$
$${=(a+b+c)(a-b+c)}$$
まずは展開して整理します。その後の後ろ側をカッコでくくるような問題は結構あると思います。
2.
$${x^7+x^6+x^5+x^4=x^3+x^2+x+1}$$
$${x^4(x^3+x^2+x+1)-(x^3+x^2+x+1)=0}$$
$${(x^4-1)(x^3+x^2+x+1)=0}$$
$${\{(x^2)^2-1^2\}\{x^2(x+1)+(x+1)\}=0}$$
$${\{(x^2+1)(x^2-1)\}\{(x^2+1)(x+1)\}=0}$$
$${(x^2+1)(x+1)(x-1)(x^2+1)(x+1)=0}$$
$${(x^2+1)^2(x+1)^2(x-1)=0}$$
ABC=0のとき、A=0またはB=0またはC=0なので、
$${(x^2+1)^2=0}$$…[1]または
$${(x+1)^2=0}$$…[2]または
$${x-1=0}$$…[3]となる。
[1]の解は、
$${(x^2+1)^2=0}$$
$${x^2+1=0}$$
$${x^2=-1}$$
$${x=\pm\sqrt{-1}=\pm i}$$
[2]の解は、
$${(x+1)^2=0}$$
$${x+1=0}$$
$${x=-1}$$
[3]の解は、
$${x-1=0}$$
$${x=1}$$
よって、$${(x^2+1)^2(x+1)^2(x-1)=0}$$の解は、
$${x=i,-i,-1,1}$$となるから、
$${x^7+x^6+x^5+x^4=x^3+x^2+x+1}$$の解は、
$${x=\pm1,\pm i}$$
くくって因数分解できればあとはあまり難しくありません。2次方程式の応用です。式を見て「7次!?」というように一見難問に見えても、実はちょっと工夫するだけですぐ解けるなどという問題はよくあります。