#4 大谷翔平の感覚的成功確率への意識 ―人生確率論①―
去る2024年、MLBロスアンジェルス・ドジャースの大谷翔平選手は、グラウンドの上でも、その外でも、いろいろな意味での話題を提供した。特にそのグラウンド上での偉業は、改めて記すまでもなく、歴史に残るものであった。
そんな大谷選手のインタビューを読むと、大谷選手の偉大な結果の裏側には、結果ではなく感覚的成功確率に拘るアプローチがあることがみてとれる。
スイングに関しては基本的なことができているかどうかが一番なんです。バッティングというのは、いかに可能性を広げていくかという確率のゲームでもあります。打てる確率をフォームによって上げていく作業をしているんですが、正しく構えて、タイミングを合わせて、イメージ通りの軌道でスイングすれば、ヒットやホームランを打てる可能性は限りなく広がります。そうすれば数字は残りやすくなるんですが、最後、そこにツキという要素が加わってくるのが野球の厄介なところです
とくに今シーズンの前半はツイていなかったなということが多くて、運が悪かったと思っています。僕の感覚では8月も最悪で、ホントにツキがなかったなぁと……114、115マイルのライナーを打っても捕られるし、強いゴロが野手の真正面に行く。ホームランだけがヒットになるみたいな感じで、なんともなりませんでした。逆に9月はいい数字が残ったんですが、とくに状態がよかったというわけじゃなく、やたらとツイていた。野手の間を抜けてくれるし、『ああ、ファーストゴロだ』と思った当たりが相手の守備力のおかげでヒットになったこともけっこうあって、月ごとに考えると運の要素でかなり数字がバラついていましたね。ファンのみなさんは数字にこだわると思いますが、プレイヤーとしては感覚にこだわっていかないと、長いスパンで見たときの数字が残らないんです。運がもたらしてくれた数字はやがて収束してしまいますし、結局は実力に伴う数字に近づいてきます。となれば、数字より感覚を大事にしたほうがいいよね、と思います
大谷選手は文字通り「確率のゲーム」という言葉を使っている。大谷選手がインタビューで使っている「感覚」とは特定の試行で結果が出る確率のこと、「ツキ」「運」とは特定の試行で結果が出るかどうかのこと、「数字」とはそこで出た結果のことだろう。この「確率のゲーム」の世界では、例えば、成功確率10%の人間が仮に一度良い結果を出せたとしても、無数の場面で試行を繰り返すと結果は10%の成功確率に収斂していく。逆に、成功確率90%の人間が仮に一度の試行に失敗したとしても、長い期間を経て試行回数が重なることで結果は実力通りのものに近づいていく。
もちろん、我々はデジタルな世界に生きている訳ではないので、この成功確率を定量的に評価することはできない。大谷選手は、それ故に感覚という言葉を用いているのではないだろうか。そして、大谷選手はこの感覚的成功確率にフォーカスし、その確率を上げるように試みるている。これこそが、運に頼らずに良い結果を出したい人間にできる唯一のアプローチである。
では、どのようにこの感覚的成功確率を上げていくのか。そのためには、感覚的成功確率を見積もり、改善活動をしなくてはならない、人生は賽とは異なり事前に結果が出る確率が分からない。しかし、その中でも感覚的にその確率を見積り、その率を改善していかなければならない。
残念ながら、すぐに感覚的成功確率が上がるような魔法は存在しない。昨日までできなかったことが、今日急にできるようになることはない。自分というマシンのアウトプットが成功である確率を高める作業であるのだから、正しくそのマシンの挙動とその因果を把握し、マシンのアウトプットがより良くなるように地道に改善していくしか方法はない。しかし、逆に言えば、この魔法という運に頼らないことこそが、感覚的成功確率へのフォーカスを運に頼らずに良い結果を出すための唯一のアプローチたらしめている。
そして、重ねて残念なことに、感覚的成功確率を上げるための方法については、感覚的という言葉の通り、確立されたものはない。しかし、有用なコンセプトは存在する。感覚的成功確率を把握するためにはKSF(重要成功要因:Key Success Factor)の特定とプロファイリングを行うこと、その結果をベイズ更新していくことが有用であり、また、感覚的成功確率を高めるためにはプロセス目標を設けることが有用であろう。次回は、これらのコンセプトについて、詳細に確認したい。
(つづく)