#5 感覚的成功確率を把握・改善するための3つのコンセプト ―人生確率論②―
前回は、大谷翔平選手のインタビューをもとに、結果を出すためのアプローチとして、感覚的成功確率を上げることへのフォーカスの必要性を示した。今回は、感覚的成功確率を把握するために有用と思われるKSF(重要成功要因:Key Success Factor)の特定とプロファイリング、その結果のベイズ更新について、また、感覚的成功確率を高めるために有用と思われるプロセス目標の設定について、具体的にみていきたい。
まず、KSFの特定とプロファイリングについて確認したい。これは、感覚的成功確率を高めるファクターをKSFとして特定し、自らのプロファイリングを通して自らの感覚的成功確率を見積もることである。例えば、就職活動において、ある企業Xへの内定のKSFが語学力であるとすれば、過去の内定者の語学力を参考情報とし、自身の能力との乖離から感覚的成功確率を見積もればよい。
ここで注意したいのは、見せかけのKSFに翻弄されないことだ。大学Yから企業Xへの就職実績が良かったとし、この学歴をKSFと見立てても、実情は語学力に強みをもつ特定の学部Zにその実績が偏っているかもしれない。その場合、大学Aの学歴はみせかけのKSFであり、これをベースに感覚的成功確率を見積もると、実情と乖離が起きるであろう。また、大学Yの学部Zという学歴も、みせかけのKSFかもしれない。もしその学部に属していなくとも、自身が学部Zの学生に比肩する語学力を有しているのであれば、その学部の就職実績を参考情報として感覚的成功確率を見積もってもよいだろう。
また、他人に惑わされず、自らを正確にプロファイリングすることも重要だ。大谷選手は、「ファンのみなさんは数字にこだわると思いますが、プレイヤーとしては感覚にこだわっていかないと、長いスパンで見たときの数字が残らないんです。」と言っている。このファンという言葉は他人と読み替えてよいだろう。他人は基本的には結果について評価し、感覚的成功確率の変動についてコメントすることはない。なぜなら、感覚的成功確率は他人に見えるもの・わかるものではないからだ。他人は、例え感覚的成功確率が10%だったとしても良い結果が出れば凄いと言うだろうし、それが90%だったとしても良い結果が出なければダメだと言うだろう。そのような外部の声に惑わされると、自らの現状を見誤ってしまうだろう。
そして、感覚的成功確率は、ベイズ更新をしていかなければならない。ベイズ更新とは統計学の用語であり、新しい情報が得られたときに事前確率を更新していくことをいう。例えば、ある通りを歩く人間の男女比が1:1であると仮定する。しかし、実際にその通りを歩いて、5人連続で女とすれ違ったとき、この通りは女が多い通りだと考えることができる。このベイズ更新の考え方は、不良品判定等で活用されている。
ここでの事前確率は、その時点での感覚的成功確率になる。例えば、事前確率、つまり感覚的成功確率が50%だと想定していた大学入試で、過去問3年分を解いた結果、いずれも合格点に達しなかった場合、感覚的成功確率は50%から下げざるをえない。このように、新しいインプットをもとに、常に感覚的成功確率を更新し、自らがどの位置にいるのかを把握する必要がある。
次に、感覚的成功確率を上げるための手法、プロセス目標を設けることについて確認したい。感覚的成功確率は把握がしにくい一方で、結果というものは自分のみならず他人にとっても明確なものである。そのため、意図的に感覚的成功確率にフォーカスしならなければ、どうしても結果のみに執心してしまう。それを避けるためには、感覚的成功確率の改善にフォーカスできるような明確な指標を設けるべきであり、その指標こそがプロセス目標である。
例えば、大学入試の歴史の勉強において、大きなストーリーの理解→具体的な知識の把握→入試形態へのアジャスト、というプロセスで勉強を進めるとする。この場合、抽象的なストーリー理解が完了した時点では模擬試験の点数は大きくは上がらないかもしれない。しかし、この木の幹にあたる部分を作り上げている時期に、その結果に惑わされて焦ってしまっては本末転倒である。そうならないために、感覚的成功確率が確実に改善していることを示すプロセス目標、例えば「教科書30周」等を設けることは、効果的だろう。
このプロセス目標を設ける際も、他人の声に惑わされてはならない。上の例について言えば、先生やチューターは初期フェーズから模擬試験の成績が良いものになるように躍起になるだろう。ただ、感覚的成功確率を上げるための方策がクリアであり、自分の中でプロセス目標をクリアできているのであれば、例え今結果がでていなくても、正しい方向に進んでいる。
ここで紹介した、KSFの特定とプロファイリング、その結果のベイズ更新、プロセス目標の設定は、リニアに繋がっているものでもなければ、具体的なものでもない。新たに得た情報をもとにプロファイリングをし直すこともあるだろうし、KSFの見直しを迫られることもあるだろう。また、綺麗に・正確にこれらの手法に沿えば感覚的成功確率を把握して改善できるというものでもない。そもそも、感覚的成功確率は文字通り感覚的なものであり、あまりにも厳密に見積もろう・改善しようとする試みは成功しない。重要なのは、これらのコンセプトを理解し、頭に置いておくことである。
以上が、結果を出すための感覚的成功確率へのフォーカスというアプローチであり、感覚的成功確率を把握して改善させるためのコンセプトである。ところで、実際に世の中を見渡すと、なぜ良い結果を出せているのか分からない事象もあるだろう。そのような事象をみると、感覚的成功確率に疑いの目を向けたくなるかもしれない。次回は、そのような事象がなぜ起こるのかについて確認したい。
(つづき)