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夏の終わり、池袋へ

眩暈がするほどの暑さが和らいだ八月の下旬、ひとり池袋を巡った。

・タカセ洋菓子 喫茶室

レトロな外観に魅了される、大正九年創業の老舗ベーカリー、タカセ洋菓子。
この建物の上階には、同じくタカセ洋菓子が展開する喫茶、レストラン、コーヒーラウンジがあり、今回は二階にある喫茶室へと向かった。

一階に飾られている昔ながらのショーケースに心を揺さぶられながら、奥にあるエレベーターへ。

二階にある喫茶室の店内は、ノスタルジックな雰囲気が漂っていた。低く唸る冷蔵庫の稼働音と、たのしげな談笑がきこえる。大きな窓からは、広々とした池袋駅を見渡せた。行き交う人々、ロータリー、せわしなく動き出す朝の風景。

以前は友人と会うときに度々訪れていた池袋、ぼうっと眺めていると幾つかの思い出と懐かしさが淡く胸を満たしていく。

注文したモーニングケーキセットは、つんと酸味のある珈琲と少し変わった三角形のショートケーキの組み合わせ。よく見かけるホールケーキをカットした形の三角形ではなく、四角いケーキをふたつに切り分けたような、特徴的な形をしている。縁に深紅のラインが施されたプレート、カップとソーサーが上品でうっとりした…

何も予定のない平日、がらんとした店内でひとりのんびりと迎える朝がだいすき。

・パフェテラス ミルキーウェイ

次は小さい頃から憧れていた、星がテーマのパフェテラス ミルキーウェイへ。ここの近くを通りかかるたび、メルヘンチックなスイーツが並ぶショーケースを見詰めては期待に胸を膨らませていた。

開店前というのに、二階の店へと続く螺旋階段にはすでに多くの女性客が列を成していた。1983年にオープンして以来、今もなお愛され続けているのだと思うと胸が熱くなる。

青と白を基調とした空間、開放的なガラス張り、星型のティーポットやプレート、敷き紙には星占いが書かれていて、懐かしさに心ときめく…

看板メニューは十三星座をモチーフにしたパフェで、「山羊座」「牡羊座」とひとつひとつの星座が生クリームやフルーツ、チョコレートで甘く表現されている。
悩んだ末に注文した「魚座」は、見惚れてしまうほどかわいらしい。ブルーベリーヨーグルトの上にストロベリーとバニラのアイスを重ね、クリームチーズをトッピングした、ベリー尽くしのスイーツ。てっぺんには星型のクッキーがふたつ添えられている。

夢見るような心地でつめたいアイスクリームを頬張りながら、ロマンチックな世界観に浸った。

・自由学園明日館

駅の西側へと足を延ばし、以前から訪れてみたいと思っていた自由学園明日館へ。

喧騒が途絶えた住宅地を歩いていると、緑に囲まれたゆったりと長閑な建物に辿り着いた。人の往来が激しい池袋にこれほど穏やかな場所があったとは…

自由学園明日館とは、1921年に羽仁もと子、吉一夫妻によって設立された女学校。当時の”知識の詰めこむ”形の教育に対し、この施設では”自ら考える力を養う、実用的な生活教育”を実現させたのだそう。設計は巨匠フランク・ロイド・ライト。

礼拝をする際に利用されていたホール

背凭れが六角形の特徴的な”六角椅子”、創立十周年記念として生徒たちによって描かれたフレスコ画、各部屋はあかるく眩い陽の光に満ちている。慣れ親しんだ現代風の校舎とはかけ離れた設計に、思わず見入ってしまう。

自由学園明日館の代表的存在である幾何学模様が施された背の高い窓と、光り輝く自然のコントラストは目を奪われるほど美しい…

そこかしこに配された暖炉は、フランク・ロイド・ライトにとって、”人々が顔を合わせ寄り添う場所”という重要な意味を持つ、大切な存在であったそう。当時はどんなふうに火を囲み時を過ごしていたのだろうと、部屋を行き来しながら思いを馳せた。

気に入った場所が幾つもあり、しきりにシャッターを切っていた。来てよかったとしみじみ。

大教室とホールを繋ぐ廊下、連なる窓から日差しがいっぱいに降り注ぐ。

・HANABAR

帰りは花とカクテル、クリームソーダのお店、HANABARへ。扉の向こうに広がる仄暗い空間の天井には、数えきれないほどのドライフラワーが吊られていて幻想的。

途中で貸切状態になってしまい、洗練された内装を思う存分堪能できた。大人っぽいダークな色合いのカウンター席に惹きつけられる。

目に留まった「アイマツリカ」という名前のクリームソーダを注文した。アイは”藍”、マツリカは”茉莉花”を意味するそう。ジャスミンの香りのする鮮やかな炭酸水の上に甘いバニラアイスが浮かび、いちばん上には小さなエディブルフラワーが飾られている。柑橘のすっきりと爽やかな味わいが夏にぴったり。

オーダーメイド クリームソーダというメニューもあり、好きな色・味を選び、自分だけのクリームソーダの作っていただけるそう。再訪した際はぜひ頼んでみたい。

様々なひとと過ごした池袋。これまでは賑やかな街の中心部にあるショッピングモールや駅構内を見て回る程度だったけれど、改めて気になっていた場所を訪れたことで新たな一面を知り、魅力を再認識できた気がする。

スイーツ巡りを心ゆくまで愉しんだ、甘やかな夏の終わり。ほろ酔い気分で帰路に着いた。

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