三度目の正直ってなんだ
2022/6/22(水)①
三度目の正直
そんな言葉をそっと唱えつつ私は3度目のカウンセリングに行った
でも、今回は今までと違って心強い味方がいる
担任のK先生だ
帰りのHRが終わってみんなを教室から追い出したK先生に「行きましょうか」と声を掛けられる。私は緊張を飲み込みながら頷いた
私の先をどんどん進んでいく先生
普段ならなんてことない早さのはずなのに重くなった心のせいか頑張って脚を動かしているはずなのにちっとも追いつけない
それどころかどんどん差が開いていく
結局追いつけないまま保健室に着いた
「失礼しまーす」
私の緊張とは裏腹に間延びしたいつも通りのK先生の声。私も続いて保健室の中に入る
「はーい」と養護教諭であるH先生の声
2人が軽く話している間も私は固まったままだった
「K先生着いてきてくれて心強いね」「パパだね」
いつも通り最後にはおどけるのは私の緊張を少しでもほぐそうとしてくれてるからだとわかったから、私はにこりと無理やり目を細めた
「メモもちゃんと持ってきたね、なら行こっか」
H先生がそう言って、K先生が相談室へ歩き出す
私も恐る恐る着いていく
後ろにはH先生が大丈夫と言いながら着いてきてくれていた
待合室
今日は一人じゃないから大丈夫……なはずだった
その予定だった
とうとう恐怖に耐え切れなくなって半泣きになる
後ろを向いてH先生に「こわい~」と訴える
H先生は「こわないこわない、大丈夫」と背中を押してくれる
気付くとK先生だけが相談室の中にいて、私は前と同じ入口の3歩ほど手前のところで立ち竦んでいた
私が着いてきていないことに気付いたK先生がカウンセラーさんと一緒に待合室に来てくれた
もう顔はあげられなかった
H先生が背中を押したり腕をさすったりしてくれるけど拒む体に逆らえない
そうしてるうちにH先生は他の養護教諭に呼ばれて戻ってしまった
カウンセラーさんとK先生と私の3人になる
空気がより一層重くなった気がした
沈黙を破ったのはK先生
「ほら、先生と一緒に入ろう」
「すぐ出てきたらいいんやから、な?」
それでも動けない私
K先生は「大丈夫、大丈夫」と背中をさすってくれる
その手に安心してるはずなのに踏み出せないのはどうして?
K先生は「背中押そうか?それとも引っ張ろうか?」と聞いてくれる
何としてでも入りたい そんな私の気持ちを汲んでのことだ
自分の足元しか見えないぐらいに俯いた私に必ず目を合わせようとしてくれる。覗き込んで声を掛けてくれているのが影の動きでわかる
K先生「前回もここで止まったの?」
私は微かに頷いた
K先生「中入らんくてもいいからここまで来てみよう」
ここまで それは待合室と相談室の境界のことで2、3歩進めばいいだけの距離だ
でも私はそれさえすっかりできなくなっていた
「そのメモだけもらおうか」
カウンセラーさんにそう言われる
渡せばいいのに体が拒む
「それは嫌か」
そう言ったカウンセラーさんの声に滲むのは悲しみか呆れか
「お前もう今足が完全に竦んで動かんのやろ?」「職員室戻るか?」
K先生にそう言われる
まともに首も振れなかった
「じゃあさ、先生と話そう!中で2人で」「いや、話せんくてもいいわ、とりあえず先生と中入ろう」
K先生はそう提案して大丈夫ですかね?とカウンセラーさんに許可を取ってくれている
カウンセラーさんは「私一旦退いといた方がいいね」と気を利かせてくれた
K先生「ほら、先生しかおらんよ。やし行ってみよう?」
カウンセラーさんいないなら大丈夫だ
なのに動けない
なんでだろうか
入ったらカウンセリングが始まると思ってる?
でも今は大好きなK先生しかいないのに?
「大丈夫、大丈夫」
K先生はそう言って背中をさすってくれる
これ今日もう何度目だろう?
何度こうして落ち着かせてもらっているんだろう
効果抜群のはずの安心が今日ばかりは効かない
そのまま数分が経ってカウンセラーさんが戻ってきたらしい
「もういい!やめよう!!」
初めて聞いたカウンセラーさんの大声だった
怒らせた 咄嗟の感情はそれだった
繕うように「こんなの無理してまですることじゃないから、そんな頑張らんくてええんよ」と言われる
穏やかになったその声もその意味も1ミリだって受け入れられなかった
それでも俯き、黙り込む私を見兼ねて「保健室戻ろう?職員室でもいいからとりあえず戻ろう」とK先生が切り上げてくれた
終わりとわかっても私は動き出せなくて、K先生にほらほらと軽く引っ張られて漸く1歩が踏み出せた
1時間ほどあるカウンセリング時間のうち結局20分ちょっとで出てきてしまったようだ
待合室を出たところで立ち止まった私をK先生は無理に動かそうとせず、H先生を呼びに行ってくれた
「お疲れ様ぁ~!」
H先生は相談室から出てくるといつもそう言ってくれるけど、お疲れ様なのはカウンセラーさんと付き添ってくれたK先生の方じゃないだろうか…
解けきらない緊張で強ばったままの私に先生2人は「ほらいつもの保健室だよ」「誰もいないよ大丈夫」と言ってくれる
泣きたい
何も出来ないにも程がある
どうして、どうしてここまでして何もできないの
K先生は会議を抜けて着いてきてくださってるのに
人の時間を奪って私は何がしたいの
K先生「今、彼女はあぁまた入れんかったどうしようってなってるんやと思います」
その通り 私はこくんと頷いた
H先生「そんなん焦らんくてええのに…」
K先生「今先生たちが知りたいのはお前の気持ちとか感覚とかあそこにいる時ああやって固まってる時どう思ってたのか教えてほしい。それはお前にしかわからんから」
その言葉に私が頷くと「奥のお前がいつもいる部屋行こう。そこでちょっと話そう」と言われた
そう言われて奥の部屋に行った
この上なく信頼している人に囲まれても尚、私の緊張は解けなかった