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勿忘日記ー2021/11/29(月)ー

2021/11/29(月)

とにかく人に会いたくない朝だった

いつも通り憂鬱は隠して支度をして家を出る
家族の顔も見たくなかった

いつも通り電車に乗る
でもいつも友人と会う車両は避けた
喧嘩をしたわけではない。この日も彼女のことはちゃんと好きだった
ただ会いたくなかった。会って笑える気がしなかった

学校に着く。私は教室に行かなかった。保健室にも行かなかった。行けなかったのかもしれないけどそんなの言い訳に過ぎない気がするので行かなかったにする
人気のない校舎の外にある階段をうろつき、踊り場でしゃがみこむ。誰も来ませんように そんなささやかな祈りも虚しくチャイムが朝のSHRの終了を告げればざわめく校舎、走って出てくる男子生徒
他学年で良かったと胸を撫で下ろしながらもここにはいられないと階段を後にする

帰ろうかと何度も思ったけど家には親がいてその親にも会いたくないのだから帰れやしない
ただSHRが終わったなら親に来てませんと連絡が行きかねないなぁと思い保健室に足を運ぶ。これぞ妥協。


保健室の扉をそっと開ける
いつも通り迎えてくれる先生方にほっとする
「今来たの?」「カバン真っ白だけどどうしたの?」
そう尋ねられて私は向こうの校舎にいたと話す
私の返答にH先生は「こんな寒い中30分もいたの!?すぐ来てくれてよかったのに!」  驚いていた
「どう過ごす?何時間目から参加しようとかある?」
そう尋ねられたけどどう考えてもみんなに会える気がしなくて答えられなかった
そしたらまた後で考えようと言われた


1時間目は相談室でずーっとぼーっとしていた
1人になれる時間に安心した。開けっ放しの扉の向こうからは3人の養護教諭それぞれの動く音や会話が聞こえてきてそれにもほっとした
私はぶたのクッションをぎゅっと抱いて何もしない、世界は向こうでいつも通り回ってる。取り残されてるはずなのに不思議と安心する。干渉されないから?
2時間目も私はここにいていいよという言葉に甘えてしまった。近くにある本棚から写真集を取り添えられた詩をぼんやりと読んでいると突然「何してんの?」と声が降ってきた

私は跳ね上がった。呼吸が一気に乱れる。
ぶたさんの隙間からちらりと盗み見ると担任の先生
そのつっけんどんな物言いにはそんな所でなよなよしてるなんてと非難の意味が含まれている気がして恥ずかしくなる。怯えて小さくなった私に気付いたのか「なんかあったん?何が嫌なん?」と続いたその声は先程よりほんの少し丸かった。でも私は答えられなかった。声が出ないどころか呼吸すらままならなかった

「そんな顔隠さんでも」困ったように笑う声
私は咄嗟に写真集で顔を隠していたことをこの時やっと自覚した。

「朝のSHRも来てなかったんやろ?誰かから連絡とかは?」
誰も今携帯弄れんやんと思う余裕はあるくせに肩で息をしていた。呼吸が苦しかったのを覚えている
沈黙の向こうで養護教諭の声がして助けに来てくれと心の中で叫んだことも覚えている

「この前も言うてたけど勉強か?それ以外か?誰かとなんかあった?あれか、頭髪検査が嫌やったか?」(この日は頭髪検査だった)
まさかの理由が出てきてほんの少しだけ笑ってしまった
「え、ほんまに頭髪が嫌やったん!?」
そんなわけなくて、でも本気に捉えてる先生がおかしくて少し笑いながら首を横に振った。笑ったことによって呼吸のペースが変わって息が少し楽になった

別に無理に聞くつもりはないで。ただ勉強でもそれ以外でも声掛けてくれたら聞くから。放課後とか」
別に無理に聞くつもりはないという言葉も声掛けてくれたら話聞くよという言葉も初めてで嬉しかった。安心した。それと同時にこんなにも黙るのは別に先生に言いたくないからじゃないんだけどと申し訳なくなった


「この後どうするん?今2時間目やけど…今日3時間目なんやっけ?」
ここまで話さないのに問うこと辞めない先生はすごいとなんとなく思った。英語と心の中で答えた
「英語か、どうする?」
これには首を横に振った
「ん、やめとくか」
「4時間目は物理や、どうする?」
首を傾げた
「まだわからんか」
この調子で一科目ずつ
丁寧に丁寧に

「ほなまた出る時にちゃんとH先生かS先生に言うて来るんやで」
先生はそう言い残して相談室を出て行った


嬉しかった。勿論とても怖かったけど
自分がいない時に会いに来て下さる先生がいること
次の日の授業すら連絡のない先生とかばかりだったから休んでもいなくても私はそこに存在しているんだと驚いた。そんな先生初めて出会った
それと同時にやっぱりわざわざ時間を取らせてしまったのに何ひとつ話せなかった事が悔しくて申し訳なかった


2時間目が終わって3時間目も保健室に居座る私
罪悪感からみんな頑張ってるんだしと英語の勉強をした
そして3時間目も後半に差し掛かった時、私はルーズリーフに

  • K先生を困らせた。何も答えられなかった。息が苦しくなってしまった

  • みんな優しくて気になるからどうしたんって声掛けてくれるけどそれに答えて嫌な気持ちにさせてしまうのが嫌(みんな頑張ってるのに私だけという意味)。申し訳ない

  • 切る頻度は増えてなくて来てなかっただけで前から変わっていない

この3つのことを書いた
H先生が4時間目どうする?と声掛けに来てくれることはわかっていたしどうして悔しくて申し訳ない気持ちが消化できなかった。K先生に対して嫌いとか反抗という誤解を生んでしまっている気がしてならなかった

案の定、4時間目どうする?と言いながら入ってきたH先生にルーズリーフを渡す
先生は笑いながら「全然困ってはらへんかったよ?気にしてくれてありがとうね」
そんなわけない。絶対に迷惑だ。そんなの本人が近くにいるから言うのがはばかられただけだ。若しくはH先生の優しい嘘

そう思ってると真剣な声で「ただ心配はしてはると思うで。どうしたんやろうなって。やから2時間目来てくれはったんやと思うわ。それは私もそうやし。心配に対してごめんとか思う必要はないねん。しんどい時に1人なのが心配」
少し腕の話になって、違和感を抱いた私は「腕のこと言うた?」と聞いた
H先生は「言わんといてって言ってなかったっけ?だから言ってへんけど…伝えとこうか?知ってもいつも通り変わらずあんな感じで接してくれはると思うで?そんな大丈夫か!?!?みたいな感じにはならんと思うなぁ…私がずっとついてるわけにもいかんし教室での(苗字)さんのことはK先生が1番よう知ってはると思うし…」
K先生が知ってる私なんて元気なとこだけだから先生だってきっとびっくりだと思うけどなぁ

この時には不思議とH先生の言う通り自傷と聞いてあからさまに私を避けたり激怒するK先生は想像できなかった。本当に不思議。別に信じる!みたいな気持ちはなかったのに

私は「先生も忙しいしいい」
これが7割。まだ怖いのが3割

H先生「そう。じゃ言わへん。でもな?1人で抱え込んでしまうのがほんまに心配やから。今日だって寒い中30分も外におらんとすぐ来てくれてよかってんで?いつでも来てくれたらええんやから。ね?いつでもこうやって待ってるから
腕を広げながら笑ってこう言ってくれた

その後4時間目も行けそうにない私にH先生は早退を提案してくれた
どうもK先生が1番その気だったらしく「さっき話した時も午後は自分も授業あるから会えへんし4限で早退するんもありやなぁって言ってはったよ。ようわかってはるやん笑」とH先生に言われた

親に連絡が行くことを最も恐れていた私は「親に連絡行くから嫌」と呟いた
H先生「んーでも今日1日教室行けんかったらそれはそれで連絡しはると思うねん。それやったら腹痛とか微熱とか適当な理由付けて早退した方が自然ちゃう?」
なんて先生だ…。前にも適当に理由付けて休んじゃいなとか言われたけど…。先生がそれ言っていいの?目からウロコ
H先生「あかん先生も一緒になって考えてまう笑」
驚く私にそう笑う先生めちゃくちゃかわいい
そうして私は甘えて早退することにした
(ちなみにK先生からは2時間目の時点で連絡がいってた為わりと無意味な作戦になってしまった)

職員室に行ってK先生に許可証を貰う
早退は初めてだと答えると少し驚かれた

まだ明るく暖かい日差しの中、電車を待つ
いつもは学生ばかりのホーム
でも今は私だけ
不思議な感じがした

家に帰りたくないという気持ちは消えていなかった
言えなかっただけで

仕方なく家に帰る
両親の顔を見てやっぱり元気なふりをしてしまう
なんでかは知らないわからない
なんとなく、ただなんとなく
元気じゃない私を弱ってる私を見せたくないのだ
私はすぐ部屋に引きこもってしまった

冬特有の微かで確かに暖かい日差しを纏った1日だった

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