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デラウェアの季節に


真っ白の床と壁、扉まで真っ白でどことなく病院を想起させる廊下を歩く
ひとつひとつ名札を確認しながら、教育相談の授業をしていただいてる先生(以下☁️先生 完全に余談だが私がお世話になる先生みんなイニシャルが同じで困る)の部屋を訪ねる

コンコン
「失礼します」

「どうぞ座って〜」
☁️先生は穏やかに迎え入れてくれた

話が始まってもまとめられなくて言葉に詰まった

先生はゆっくりでいいとか誰にも聞かれないから大丈夫と言ってくれた

先生の視線があまりにも穏やかで、その雰囲気にまるで操られてるのかと思うほど無意識に涙が零れてきた。
一気に話そうとしなくていいのよと言われながら、まず絞り出したのが
「登校意欲のない子を学校に戻すより目の前の子を見てあげないといけないと思うし、登校意欲ないのに来させなきゃだめなのと思うんです」

「そうよ、目の前の子がいちばんよ。私は別に来させなきゃいけないとは思ってないの」

「じゃあ、例えば立ち歩きや忘れ物が増えるとか攻撃的な発言が増えるっていうのがSOSだって授業で言ってはった中でなんで先生は」

(自分を傷つける子には言及しなかったんですか)
どうしても言葉に詰まった
また沈黙

「そういう形のSOSすら出せない子は、例えば自分を傷つけてしまうような子のことに触れなかったのはどうしてですか」
涙声で必死になって絞り出した。

「あー水和さんはそこを気にしてくれてたんやね、、」

「あのね、すごく迷ったの。自分を傷つけるってね、文字通りだけじゃなくて食べて吐いてしまういわゆる摂食障害のような形もあるでしょう。SOSってすごく多様なんだよね。
でね、過去にはその話をしていた時もあるの。でもやっぱり当事者がいてね、その人たちにさらに苦しい思いをさせたくなくて、、
やっぱり心無い言葉を掛けられたり、どうしてもしんどくなってしまうんじゃないかって思ってやめてしまったの」

「うん、でも、そう思う人もいるか、いるよね」
☁️先生は自分で噛み砕いているようだった。
先生が不必要だと思って省いている訳では無いんだと、何も魂胆がなかった訳では無いんだとわかってまた涙が溢れた。

「私はね、今すごく嬉しいの。水和さんがこういう子達はって気にしてくれたことが」
「やっぱり軽く触れようか。教科書には書いてないからびっくりする人もいるかもしれないけど。最後の授業で振り返りをするからその時に、サインにはこんなのがあったよねって。他者に向くばっかりじゃない。サインは本当に多様なものなんだって。それでどうかな??」

「はい…!」
今度は多分安心の涙

「他、何か水和さんが伝えてほしいこと、ある?」

「んー、おかしいことじゃない、、?」

「んー!そっからか〜笑」
「それはそうよ、その前提で。教師になるみんなに伝えたいこと」

んー、本当におかしいや気味悪いなどと言わずに向き合ってくれたら十分だと思うんだけどなーと思いつつ、それをもっと抽象的にすればいいのかと気づいた

「なんか、ひとりの人間としては別に理解できなくてもいいと思うんです」

「ちょっと待って!理解できなくていいの!?」

☁️先生〜^^;
「あっひとりの人間として です。ひとりの人間として理解できないとか気味が悪いと思うのは勝手だけど、みんなの相手は生徒であくまで1教師として接するわけだからそこは否定するんじゃなくて理解しようとしてほしいなって思います」

「あああ、すごく大事!待って!メモさせて」
☁️先生は授業の出席カードを持ってきて、私が話したことを図にしながら書き始めた
ひとつひとつ私に確認しながら、授業で見るスライドのように

「すごく大事ね。1人の人間として受け入れられなくてもあなた達は教師なんだよっていう、、これ、授業で使ってもいい?」

「大丈夫です!」
私、大号泣

「どう言ったら傷つけないかな?おかしい、?気味が悪い?」

「んー正直そういう言葉は一定数傷つく気がします」

「じゃあ、否定するぐらいの表現に留めておこうか。よしこれでスライド作ろう!んでこれ他のクラスでも 話そうね。水和さんがいるから じゃなくてこれはみんなが教師になる上で必要なことだから」

「はい、、!」

ずっと言いたかったことが言えて伝わった安心感とこれ以上子どもが苦しんでほしくないという願望、でも大人の無知で今も子どもが苦しんでいるという現実
全部が痛かった

「どうしたら、どうしたら救えるんですかね」
「ずっと、どうしたら援助希求ができない子の支えになれるんだろうって考えてて。高校生の時に担任の先生に話して、そこでやっぱり教育だってなって教職取ったんです」

「私も実際に出会ってきて、中には先生見てー!って見せてくる学生さんもいたんよね。でもその子はそうやってSOSが出せたわけで」
「でもその子たちだってなんのサインも出してないわけじゃないんだよね。出してはいる。ただすごく微弱なんだよね。だから本当によく見てないと気づけない。どうにかそこに気づいてあげられたら、ね」

それがどれだけ難しいことか、想像でしかないけどわかるから
2年目。教員サイドの勉強もして生徒サイドの勉強もして、この忙しさでそれは無理だろと思ったり、でもそれは子どもには関係ないよなと思ったり、どうしたら両立できるんだろうとか誰にも傷ついてほしくないなとか考えても答えが出ないから涙が出る

☁️先生は泣きじゃくる私の後ろの冷蔵庫の扉を開けて
「どっちがいい?」

手にはすももとマンゴーのジュース
「じゃあ、すももがいいです」
「あら、即決!もっと迷うかと思ってた」
特に理由はないけどすももの気分だったのだ

「マンゴー、あんまり?」

マンゴー大好きなのになんですももを選んだのか分からなかった
「んー、昨日食べました」
うん、きっとそう。冷凍マンゴー常備してる。美味しい
「マンゴー美味しいよね
7月はね、デラウェアなんだけどねー まだ購買に置いてないのよね!もう7月なのに」
ちょっと怒っててかわいい笑

穏やかな時間が流れる

「どう言ったら傷つけないのかなってすごく考えながら話してるのよ。そんな風には見えないかもしれないけど。不登校もいじめもやっぱり一定数当事者がいるんだよね」

先生、私、それは知ってたよ。気づいてたよ
虐待の話をする時に言葉を詰まらせて一瞬だけ水分を含んだ声になっていたとき、伝えてみたいと思ったの。向き合ってくれると思った。

この日の数回後の授業。内容は保護者対応
先生が「保護者ってその子のスペシャリストだったりするでしょ、多くの場合」とお話された時も痛感した
保護者がその子のスペシャリストだって言おうとした時の勢い。でもその後に“だったり”や“多くの場合”と付け足せるのは本当に常に目の前の人のことを考えて話している証拠だ

☁️先生はもう何年もこの授業をしてきたはずだ
この分野の本も出版しているし年齢的にももう慣れきっていて授業はテンプレート化されていてもおかしくない
でも、今でも声を詰まらせて言葉を選んで話をしてくださる先生はなんて真摯なんだろう

あぁ、こうありたいな
教師になるか否かは関係ない
1人の人間として、常に目の前の人のことを想って言葉を使える人でありたい

「でも、どうして否定されちゃうんだろうね?サインなんて本当に人それぞれなのに」

「選択肢にないんだと思います」
「中学生の時のお友達が今思えば虐待を受けてたんですけど、本当に不安定ででもその子は絶対リスカしないって痛いからって言ってました」
「多分その子の中には苦しくても自分の体を切るという選択肢はなかった、、」

「そうなんよね
逆にそうやって来た子はね、それしかなかったって言うの」

それしかなかった
本当にそうだった
客観的に見て間違っていたとしても、自分の中ではそれしかなかった。わからなかった
その気持ちは普遍的なものだった
その事実が痛くて頷きながらまた泣いた

「選択肢、そうだよね。ようは人によってつらい時に浮かぶ選択肢が違うんだよね」
そう言って先生はメモに“選択肢”という言葉を書き足した

この後落ち着いてからのんびりお話をした

「私ね、大きくなったらちっぽけに思えるよってすごく残酷な言葉だと思うの。それはそうなんだけど、そんな今が苦しいのにって。水和さんはどう?大人になってなんであんなことに悩んでたんだろ?って思うことある?」

「んー、、私、小学生の頃牛乳が嫌だから学校行きたくない!って言ってたんですけど。それって今思えば確かにそのぐらいで…なのかもしれないけど、じゃあ実際あの頃の自分にそう言って聞くのかとか今の自分が当時に戻れば辛くないのかと言われたら違うなって思います。今やからそう思えるわけで、当時は精一杯だった」

「確かにね。私もすごく偏食でね、、だいぶ克服したけどあの頃に戻って食べるかと言われたら食べないわね」

偏食の話、面白かったなあ
先生の意外な一面を発見


「教師の一言って思ったより影響を与えるのよね。本人だけじゃなくてその周りにも」
「親戚の子がね、自分じゃなくて隣の席の子がひどく怒られたのを見てその先生が怖くなって行けなくなってしまったの。周りの大人は当事者は行ってるのにあなたが行けないなんて弱いって言ってたけどそうじゃないのよね。どうしたらよかったのかなって今でも思う。当時の私はまだ幼かったから」

どうしたらよかったんだろう
私も親戚の子側だったし、実際そう言われてきたからわからない
お前が弱いと言う大人の言葉のままに生きてきた
弱いからダメなんだと必死に心を殺して通っていた


「私はね、学生時代模範的な子だったんだよね。補習に呼ばれるほど成績が悪いわけでもないしなんとなくグループに属してなんとなく過ごしてた。だから先生の記憶にも残らない。それがね、すごく寂しかったんだよね」

わかる気がする
私も先生に構ってもらえる子が羨ましいと思っていたときもあるから
手がかからないからと振り向いてもらえないのは子供心には寂しいものだった

「最初の授業であなたの記憶に残ってる先生を聞いたでしょ?あれをやると大体の子が思い出を書いてくれるんだよね。それがすごくいいなあってちょっと羨ましかったりするの」
「だから、水和さんにはそういう手がかからないような子にも何気ないことでいいから話しかけてあげる先生になってほしいなあ なんてちょっとした願望があったり笑」

「そうなりたいです、、!」


「また、お話に来て。ふらっと話にきてくれたらいいのよ。この授業が終わってもいつでも連絡してね」
「その頃にはデラウェアが出てるかな〜 デラウェア見かけましたがどうですかって言ってくれたらいいから!」

笑ってお礼を言って部屋を出た

子どものことを考えて話してるうちに泣き出してしまう私はきっと生きていけないけど、悪いようにはならないよ と思った



この前の授業で、出席カードを提出しに行ったら
「デラウェア、出たよ」
「この後連絡しようと思ってたの!デラウェア出たよって」
と言われた

「伺いたいです!」
と言って日程決めた
オフィスアワーの時間でも会議がある先生って本当に忙しそうだ
なのにいつも穏やかでこれだけ人のことを考えた授業ができて一人一人をよく見ているから先生は本当に凄い


明日、お話に行く
誰にも言えなかった話をしてみようと思う


私はこの大学にきてたった1年半で何百回と絶望して泣き喚いてきた
後悔する時ばかりで過去に戻りたいと叫んでいる
壊れてしまうかもしれないし、生きていけないかもしれない

でも稀に、本当にごく稀にだけど、こうしてこの先生のもとで学べてよかったと思える先生に出会えたのなら私は誰よりも幸せな大学生なのかもしれない




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