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雨の中の慾情

監督・脚本:片山三
原作:つげ義春「雨の中の慾情」

夢か現実か混沌とした世界の中に迷い込むように没頭。
奇奇怪怪でありながらも人物たちの人間味を感じる表現やセリフに思いかけず心動き、無意識に涙が溢れてしまうシーンも。
台湾レトロな街並み、湿度や匂いを感じるような質感もとても好きだった。

⭐︎

冒頭、豪雨の中バス停にいる男女のシーンから始まる。
これは、売れない漫画家 義男の夢で、彼は夢から覚めると観た記憶を漫画にする。

義男は、大家の尾弥次に運転手のアルバイトを頼まれる。引越し運送や子どもの脳髄(つむじ風)を運ぶ仕事をする。

尾弥次に頼まれ、作家志望の友人 伊守と引越し業で向かった家で福子と出会う。
義男は、艶めかしい魅力を持った福子に心惹かれるが、福子は、伊守と関係を持つ。

伊守は、義男を商売に誘うが失敗し、福子を捨て出ていく。
彼らは、北と南に分けられた国に住む。北は、貧困、南は富む。南北を行き来するためには、検問所を通る必要がある。南に家庭を持つ伊守を追い、つむじ風を運ぶ三人は、南へ渡る。


ここまでは、時間も流れも一貫しているが、この先から現在と過去と未来、夢と現が行き来し、混沌状態に。
終わりどころを失ったようにも思うが、これはあえて作中に迷い込むような意図を感じる。
終盤にかけて、時間も場所も現実も妄想も駆け回る義男の走馬灯のような描写も好きだった。

激しく変わる展開を受け入れるため、頭で理解しようとせず目の前で起きることにただ委ね、作品に迷い込むようにした。(これでよかったと思う)

⭐︎

現在と過去と未来、夢と現が入り混じり、同じ人物で様々人間関係、展開が描かれる。
↓ 印象的なシーンを書き残していく。


冒頭の豪雨の中バス停にいる男女のシーン。
鳴り響く雷、地面に打ち付ける雨の音が美しいなと感じた。

「金属、危ないですよ」と促され、衣服を脱いでいく二人に「いや、そんなことある?脱ぐ?疑え!」って脳内ツッコミが止まらなかった………全裸直前でハッとするの何…!このままずっとツッコミながら観ていくのかと思ったが、義男が目覚めることで、夢と理解。

夢子も福子も(おそらく)日本人の時、台湾人の時があり、カタコトになるのは、夢と現実の違いなのか。


変転する中で、夢と現実に相対する部分を見つけては考えるものがあった。

尾弥次は、片腕片脚を失っていて、伊守は友人であるが、戦時のシーンでは、尾弥次も伊守も五体満足で戦地に向かい、義男は少女に撃たれ片腕片足を失い、生殖器も負傷する。

また、福子とは共に日本に帰ろうと約束していたが、福子は亡くなっている。
この時、福子から預かっていた万年筆を夢子が義男に渡すシーンで、涙が溢れた。
福子と日本に帰ることも、二人の子どもを作ることもできない。生きて待っていると思っていた彼女もいない。
子どもに関しては、前半の引越しのシーンで地に埋められた福子と子どもの写真も関係してるのかと思う。

義男は、福子に心寄せているが、ラストシーンで福子は義男を「漫画家の客」と呼ぶ。
福子には本来客として会っていたが、義男の中では、交際していたと認識していた または、そうなりたいと願望を抱いていたのかと想像する。これまでの福子との関係は、全て夢・妄想だったのか。
夢子が万年筆を渡した時、思いもしない別れに胸痛んだが、本当は義男から逃げたのか……?

男の欲望を性と戦争を絡めながら描いていく様は、滑稽であり情も感じる。


劇中のセリフで心に残るものも多かった。

伊守が福子を失った義男に
「別れっていうのは、自分の中で相手を殺すことだ」
心の中で生きていれば、別れではないということかな、と思っていたけど、車に轢かれるシーンがあったのは、自分の中で殺したということかな。ラストを思うと客でしかないことを理解し、自分の中から福子を消したかったのか。(あくまで想像)
でも、福子の中から義男は、消えていないんだよね。漫画家の客、ずっと心にいる。


福子と義男の会話
「月並みの幸せ」
「じゃ、大きいね」
「え、小さいでしょ、ほら(指で月を挟む)」
人によって普通、当たり前が違っていて、世間から見た普通が普通ではない人もいる。これを理解していても受け入れるって難しいよね、と色々考えながら見ていた。

伊守が家を出る時に自分たちがしていることに意味があるのかな(ニュアンス)と話すのも印象的。
芸術に意味はあるのか。必要とされていたとしても、苦しんでまで続ける必要はあるのか。難しい。けど、私は、この葛藤や憂いさえも美しいと感じてしまう。

伊守を追う福子に義男が問う「会ってどうするの?」
自分の過去の経験を思い出した。突然いなくなってしまう別れを経験している。何度も何度も探そうと思ったし、会いたいと思った。けど、その度に「会ってどうするの?」って聞いてくる自分がいて。
そして、いざ会った時、福子は伊守を「ぶっころしてやる!」と。……わかるな。
このシーンの後に、伊守の住む城のような大きい家の周りは戦火で焼かれていて、戦争をしているのに自分を捨てた男が守られた空間にいるのも腹立つし、無念だなって思った。

この会う前に伊守の奥さんと子どもと会うんだけど、子どもに通訳させてることがキツかったし、自分にはアルミ缶で作った指輪だったのに「いつかあげる」と言われた高価な指輪は、奥さんがつけていて、それも胸が苦しかったな。


(あとは、思い出したらまた追記する…!)


おそらく実弾が使われていたり、街並みを見ていても殆どが台湾で撮影なのかな?
現代で観るアングラって感じでドキドキした。
環境音も素晴らしくて、画面上にはない音も多く入っていて想像するのが面白かった。


また、人物たちの表情がとても良い。説明的なものはなく、セリフにはない表現から想像させ、人物たちの心情に触れる。

幻想的で叙情性のある世界が余韻も楽しませてくれる作品だった。


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