ベルベットのスツール
まだ日中には動いて汗ばむようなこともあるけれど、あの蒸発してしまいそうなほどの暑さが去って、ずいぶん過ごしやすくなってきた。秋ですね。
秋というと抜け毛の季節です。唐突になんなんだと言われそうですが、そうなのです。知っていましたか?
以前どこかの記事に書いたけれど、私の髪の毛というのは一本一本がわりとしっかりしている上に量が多くて、さらに言うとクセもあって扱いにくい。こういう髪質で手入れを怠ると途端にみっともなくなるので、なるべくマメに美容院に行くことにしている。
いまの髪の長さはだいたい胸の上くらいなんだけど、数年前まではもっとずっと長く伸ばしていて、腰に届く長さというのを10年近くはやっていたとおもう。
それでですね、あるときやたらと部屋に髪の毛が落ちているのが気になったことがあった。太いし、長いから、数本落ちていてもすごく目立つ。毛量は多いからちょっとくらい減ったって大丈夫だろうけど、でもそれにしたってこれはあんまりじゃないか、と不安になるくらいの量だった。
ただそのときは、抜けているんじゃなくて傷んで切れているんじゃないかともおもっていて、とりあえず美容院に行ったときに美容師さんに訊いてみたらこう言われた。
「生え代わりの季節やもんねえ(あはは)」
えっ? 生え代わり・・・。犬猫みたいとおもったけれど、実際人間もだいたい同じ時期に生え代わっているんだそうである。知らなかった。
そういうわけで、秋になると抜け毛がふえます。長さは半分以下になったとはいえ、やっぱりこの時期は部屋に落ちている髪の毛がすごく目立つし、ほんとうにだいじょうぶ? というくらい抜ける。でも心配いりません。だいじょうぶです。
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写真もときどき撮っています。この間の上五島や小値賀でもけっこう撮ったんだけど、仕事に使うようなものもあったり、写真と合う記事にしていなかったりでnoteにはあんまり載せていない。ちょっとだけ秋を感じられる写真を載せておきます。マップカメラのフォトシェアリングページのほうには気まぐれ的にあげているので、見てもらえたらとてもうれしいです。
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ところでこの記事のタイトルは何を意味しているのか? ということですが、いま読んでいる本にピアノを弾く少年の写真が載っていて、少年が腰掛けているのがベルベットの丸椅子だったんです。それで、『失われた時を求めて』的に記憶が子ども時代に飛んでいった、ということを書いておきたかった。
子どものころにピアノを習っていたことがあって、そのときの椅子は教室のも自宅のも、紅いベルベットの丸いスツールだったのを急激に思い出した。なにかそれが、すごく懐かしいというか、とにかくひと息にいろんなことが頭に浮かんだ。
高さを調節するのに回転させたときの、金属の触れ合うごりごりという音と感触、クッションに張られたベルベットの手触り、椅子の側面のフリンジの金色とそれがこしょこしょと脚に触れる感じ、あまり座面を高くし過ぎるとぐらぐらしたり、一本脚から美しい曲線の三本の脚が生えたクラシックなデザイン、そういったものが一気によみがえった。
マドレーヌを紅茶に浸したにおいを嗅いだ主人公と違い、こちらは視覚的なきっかけだったけど、掘り起こされた記憶の中には椅子やピアノの古びたにおいも含まれるからまあ似たようなものということにしておきます。
最近の椅子は、ストレートな四本脚の長方形のベンチタイプ、両サイドにハンドルのついたばね式の調節が主流みたいですね。ピアノの椅子というとこちらの形状を見慣れすぎていて、かつてのスタンダードを忘れてしまっていた。
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今日の「町なかで見た誤字」:肉屋さんの看板に「感染症対策のため店内へは3人づつお入りください」と書かれてあった。こういうの、気になっちゃって困るんだよな、もう。
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