喫茶店アルバム-あめいろ-
私が普段飲むコーヒーの豆は、定期的に父が焙煎しているものです。ストックがなくなる前に連絡をしておいて、私の昼休みなんかに会って受け取ることが多いです。
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コーヒー豆が欲しくて父にメッセージを入れたら、珍しく場所の指定をしてきた。市内中心部にある喫茶店だった。
その店のことは、存在は知っていたし父の知人と聞いたこともあったけれど、店に入るのは初めてだった。父は後輩の店だと言っていた。
少し話を脱線させるけれど、父は以前自分の店を持っていた。
父は学生時代から喫茶店で働いていて、その後に店を持ったものだから喫茶店関係の知人も多い。
そういった知人の店がいくつもあっても、お互い自分の店の営業があるから、それぞれの店に行く機会というのはほとんどなかったと言っていい。
そういうことから、今回父と待ち合わせたその店に父と訪問するのも初めてだった。Yという店だった。
狭い階段を登って店内に入ると、父はもう奥の席に座っていた。挨拶をして座り、暑いなかを歩いてきたから冷たいカフェ・オ・レを頼んだ。
喫茶店のなかには、かつての父の店のように自分で焙煎した豆でコーヒーを淹れる店もあれば、メーカーに独自ブレンドを注文する店や、メーカーの出来合いのものを使う店など色々ある。
Yは自家焙煎の店らしかった。
そういうことならブレンドコーヒーなどへ興味がわくところだけれど、何しろ暑かった。背の高いストレートのグラスに、ミルクとコーヒーが2層に分かれた、涼しげなカフェ・オ・レが運ばれてきた。
父はストロングコーヒーを頼んで、たばこを吸っていた。この店は近ごろでは希少と言っていい、喫煙可能な店なのだ。
店の壁やテーブルに椅子、店内の小物といったあらゆるものが、豆の焙煎とたばこであめ色になっている。小綺麗でモダンなカフェ(非喫茶店)が多いなか、なぜかこういう店には落ち着きを感じてしまう。
それはやはり両親がやっていた店がそんなふうで、その店で多くの時間を過ごしてきたという経験によるものだろう。
しばらく近況などの雑談をしていたら、父に、友人から電話が入って、わりと近くにいるらしく、Yにおいでと言っていた。
このYという喫茶店は2階にある。
通りを見下ろすことのできる窓際の席から、父の友人が来るのを待ちながら昼休みいっぱいを過ごした。
私が店を出ようというちょうどそのときに、父の友人が店に入ってきた。バトンタッチをして仕事に戻った。
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今日の「切り文字」:たまに通る道路脇にある給油所の看板、SSの左のほうは上下逆さまだとおもうんですよね。