まんじゅうこわくない
訪問先でもらったまんじゅうである。訪問先というのはよく行く外海で、外海の人たちはこのまんじゅうを「ケイ子まんじゅう」「ケイ子さんのまんじゅう」と呼ぶ。ケイ子さんが作っているのである。
ペタペタした肌の、むっちりした饅頭の皮に、たっぷりのあんこがつまっている。ケイ子まんじゅうはおいしい饅頭なのである。
その日の朝、ちょっとした通信不具合があって呼ばれた。外に出て息抜きができるのがうれしくて、暑いなかでも苦にならない。
朝に連絡が入ったとき、口頭での操作説明を試みたもののうまくいかなかった。行って機器の様子をみればそう時間もかからずに解決できるとおもっていたが、そうでもなくてわたしはちょっと焦った。
到着したのは午後で、思いつく操作を順番にしてみても、うまくいかない。問題を解決したあとはゆっくり周辺の写真でも撮ろうなどというわたしの甘い考えは青い空にとけていってしまった。
もうこれは、今日中には解決しないんじゃないだろうか、と青くてかたい表情で作業するわたしのそばで、現地のOさん(70代)とTさん(80代)はじっと待ってくれていた。かれらの終業時刻まで残り30分、翌日もこようかと本気で考えだしたそのとき、問題は解決した。
わああああああ―――・・・と叫んで(心の中で)、さっきまで卒倒寸前だったわたしのカオも元に戻った。よかった・・・。
OさんとTさんもいっしょに喜んでくれ、そうして饅頭とペットボトルのお茶をそっと出してくれた。わたしが手間どったせいで、もうふたりの帰宅時刻でもあったので、しばらく雑談をして、持ち帰らせてもらった。
Tさんは、ほんとうは休みの日なのだ。それなのに、わざわざ出てきてくれたのである。それだけでなく、道の駅に行って饅頭とお茶を用意してくれていた。「なんもなか(道の駅には目ぼしいものが何もなかったんですよ)」というけれど、わたしにしてみればこの土地とかれらとでじゅうぶんなのである。
ケイ子まんじゅうの紹介でした。