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喫茶店百景-ホラを吹く父-

 これは最後の店で気づいた父の習性である(店は2度移転している)。

 私はある時期の仕事の休憩時間を、ほとんど毎日店で過ごしていた。私の休憩時間はまちまちだから、店に行く時間もまちまちで、それもあって店で会えるお客さんもその時々によって違った。ほとんど毎日会える人もいれば、週に1回程度会える人、それから年に数回なんていう確率の低い人に会える場合もある。どの場合においても、私にとってうれしい人というのがいる。

 店に入ると、父が「〇〇さんがさっき帰ったところだよ」とか、「3分前までおったとに(方言)」とか、そういうことを言うことがある。そうすると私は悔しがることになる。会いたかったなー! とおもうし、次はいつ会えるかなとか、明日はちょっと早めに来てみようとか考える。

 父は私にだけではなく、お客さん相手にもこういうことを言う。つまり知り合い同士のお客さんがあって、そのどちらかが店にきたときに「たった今〇〇が帰ったよ」と。でもその場にずっといた私は知っている。〇〇さんが帰ったのは30分は前である。こういうのを繰り返し体験していると、今さっきと言われても聞き流すようになるのだけれど、一方でいろいろ不思議におもわれてくる。

 だいたい父は、それをどういう心理で言っているんだろう。相手に期待する反応はなんだろうか。僕も(私も)会いたかった! という反応だろうか。もっと早く来るんだった! という後悔(?)だろうか。もっと頻繫に店に来ようと思わせるためだろうか。わからない。まずこのことがわからないし、それからその時間感覚についても首をひねってしまう。父の「今」とか「さっき」にはだいぶ伸び縮みがある。ほんとうについさっきのこともあれば、書いたように30分は経っていることもある。でも父は「今」とか「さっきまで」などとひとまとめにして伝えている。私からすると10分も経つと「今」とはいいがたい。

 こういうことって別に実害がないからどうでもいいし、『ウソをつく』というよりは『ホラを吹く』という感じであって、でも実害がないということは誰かが得をするというんでもないし、それを考えだすとますますわからなくなってくる。

 本人に追求するようなことでもないので長くほったらかしにしているのだけど、誰かに言いたくなったので書いてみた。

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片山 緑紗(かたやま つかさ)
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