見出し画像

みかん

 このあいだの週末に、ある演奏のリハーサルに同席させてもらった。さらに僭越ながらプロフィールなどに使う用の写真を撮るという役をいただき、こういうのってなかなか得難い体験だとおもってうれしがってやらせてもらうことにした。
 リハーサルが進むなか、奏者の方々(ふたりだ)が次の曲といって譜面をめくったその曲名が『Tangerineタンジェリン』といったときだった。ふたりのうちの一人(ナカタさん、仮)がこの曲名についてあんまり好きじゃないんだよねみたいなことを言ってて、その理由が「××××みたい」(うつくしくないためここでは慎むことにする)などとまあ、なんか語感として良いイメージではないとか、そういうことを言っていた。もう一人のKさんはそれに対して何と言ったか憶えていないけど、そうかなあとかいいつつ、まあよくわかんないタイトルだよねとかそんなふうだったとおもう。
 タンジェリンって、みかんのことじゃなかったっけ。私はそうおもってその場で発言したのだけど、なんだかふたりとも(ええ、みかん?そうなの?聞いたことないなあ)といった感じの反応だったから、ちょっと自信をなくしてしまう。ふたりが演奏に入ったすきにささっと調べたら、やっぱりみかんのことだった。嘘を言っていなくてよかった。

 ついでにこのみかんとしてのTangerineはマンダリンオレンジの一種らしく、マンダリンの原産地であるインドのアッサム地方から世界各地に広がっている。中国経由で日本に伝わったものはウンシュウミカン、一方で中東、地中海沿岸地方に伝わったものをクレメンタイン、さらにモロッコからアメリカ(フロリダ)に伝わる際にタンジール(Tangier、つまりモロッコ人)がその名の由来となったとある。どうでもいいことを書くと、私はマンダリンとマンデリン(コーヒー豆の品種)とマンドリン(楽器)をよく混同する。(おサルのマンドリルはだいじょうぶ)

ベンガラの朱色

 次の話題。本を読んでいたら『橘』がでてきた。これもみかんだ。でも橘っていうと果物よりも地名(近くにある)や紋(家紋)がぱっと浮かぶ。果物としては日本固有のカンキツであるらしいけれど、あまり市場では見ないから口にしたことがあるかどうかもわからない。栽培というより自生しているのが一般的なのかもしれない。
 文面が散らかるから飛ばそうとおもったけど、興味がある方もおられるかもしれないので読んでいた本の内容も書いておく。ちょっと長くなるけれど以下引用する。

 日本には(おそらく世界でも)謎の人物は多い。そんななか、特に金売り吉次の生涯は謎に包まれている。生没も不明だし、吉次の屋敷跡とされる場所が全国にある。なかでも信憑性の高い場所が、宮城県栗原市金成かんなりの金田八幡神社と京都市の西陣五辻通の南、桜井の辻にある首途かどで八幡神社だという。
 金成の金田八幡宮神社は平泉の玄関口にある。地元ではこのあたりを東館とうだてと呼んでいるらしい。この社に伝わる文書によると、炭焼きから長者を名のった炭焼き藤太と呼ばれる吉次の両親が熊野の神に祈ったところ、母の夢枕に神が現れ、三つの紅色のみかんをくれたという。間もなく母親は懐妊し、三人の男子を生んだ。その長男が橘次(吉次)、次男は橘内、三男は橘六といった。ますます謎めいてくる。もう一つの京都での吉次の屋敷跡である首途八幡神社だが、この社の首途の名の由来は、元服前の牛若丸が、ここから吉次に連れられて奥州に向ったという、つまり門出からきているらしい。

「ちいさな城下町」安西水丸著 文春文庫

 今朝はまたちがう本を読んでいたら(本の内容とはまったく関係なく)ふと『Vermillionバーミリオン』のことを思い出した。これもオレンジ色に関係していたよなとおもって、調べてみたら朱色のことだった。
 これは、The Closerクローザーというドラマのエピソードが印象深い。
 このドラマのシーズン4、エピソード14「クレアの千里眼」で、奉仕活動によって回収されたプリペイド式携帯電話の中の、謎めいた内容のメールのうちのひとつとして出てきた。そのプリペイド携帯電話に「バーグマンズ6、バーミリオン7、タイペイ マレー930」などといった、事件の鍵となるワードが残されていた。捜査の上でこの『バーミリオン』について、「これは色の名前だ」とか「L.A.にバーミリオンという名前のレストランがあるぞ」とか「サウスダコタにある都市のことか?」などと憶測が飛び交っていた(ドラマの舞台はL.A.である)。このときに私の記憶に色の名前としてのバーミリオンがのこった。
 ちなみにこのドラマは3本の指に入るくらい大好きなドラマである。

 もういっこ連想。サザエさんだ。
 クリスマスの磯野家で、サザエさんがクリスマスケーキを準備している。テーブルには、カツオとワカメとタラちゃんの分のクリスマスケーキの皿と、2個のネーブルが置いてあった。カツオは自分だけネーブルがないと騒いで、姉(サザエさん)に向かってしつこく文句を言うのだけど、ネーブルは実は飾りのキャンドルで、それを知ったカツオが、知らずに騒いだことを恥じるとかそういうエピソードだった。
 小学生ごろ通っていたピアノ教室には、長谷川町子さんの単行本がいくつもあって、レッスンの待ち時間などに読むのが好きだった。

 冒頭の『Tangerineタンジェリン』をちょっと調べてみたら、1941年の曲とあった。ここでは色や果物としてのそれを指しているのではなく、女性の名前のようだ。タンジェリンって名前、かわいいですね。でもナカタさん(仮)からすると語感的にかわいい名前だとは感じないかもしれない。

*

 オレンジといえば、いま使っているオーラソーマのボトルがB119だった。上層がオレンジ、下層がディープマゼンタの組合せをもつこのボトルは、オレンジのエリアに関係の深いショック・トラウマのレスキューボトルともいわれている。
 オレンジは身体の部位でいうと下から2番め、日本人にはなじみ深い「肚」の部分というとイメージしやすいかもしれない。切腹をする場所であり、腹を据えるとか腹を探るとか、慣用句としてもよくつかわれる「肚(腹、ハラ)」。いくつか思い出して当てはめてみても、何か本能の大事な部分とのつながりが感じられないだろうか。

B119 Ceres(セレス)

 何かとても大きくショックを受けるような出来事が起きたとき、このオレンジのエリアがその傷を請け負うとかそういうふうに言われている。それを抱えたままでは生きていけないような、できることなら忘れてしまいたいようなこと。かたく蓋をして閉じ込めてしまったもの。心がバラバラになってしまうほどの衝撃的な出来事。そういうものが溜まっているエリアともいえる。
 このボトルは、そういうもののレスキューをするためにもいいのだけれど、それは生易しいものではない。ボトルを使うということは、そのエネルギーをもつ色や事柄をボトルを通じて働きかけることを意味する。いったん塞いでしまった傷をひらいて見るのはとても勇気がいるけれど、ほったらかしにしていたら膿んでしまう(にきびみたいなもの)。でも、だからこそ、オレンジというのはタイムラインの癒しに作用するなどとも言われている。ちなみに、ボトルの名前のセレスはローマ神話における女神の名で、ギリシャ神話ではデメテルといって豊穣神、地母神として知られる。

*

 タンジェリンから、オレンジまわりのあれこれを思いつくまま書いてみた。いつものように散らかっているのは大目にみてほしい。
 リハーサルとはいえ生の演奏を聴ける機会というのは多くないのに、このときは写真を撮ることなどに気をとられて、メロディや演奏をしっかり記憶していない。私にはこういうところがある。動画検索してみたらスタン・ゲッツさんのものがヒットしたので聴いてみたけれどいい曲ですね。本番は集中して聴きたいとおもう。

 トップ画像のみかんは、以前贈り物で戴いた津之輝つのかがやきという品種のみかん。JAさがでは「紅姫」というブランド名のものらしく、たぶんけっこう高価である。おいしかった。


いいなと思ったら応援しよう!

片山 緑紗(かたやま つかさ)
サポートを頂戴しましたら、チョコレートか機材か旅の資金にさせていただきます。