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子ども時代からの本を詰める棚

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これまで読んできて特に好きなもの、印象に残っている本を詰める本棚です。読み終えたものを詰めることも。
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#本

集治監から明治をたどる

 昨日の記事に書いた漫画作品の一つは『王道の狗(安彦良和作)』というもので、この物語のはじまりが北海道中央道路建設などの、北海道開拓のシーンからだった。  北海道の主要幹線道路、樺戸集治監、といったら以前読んだもののなかにあったような記憶が浮かんで、手持ちの本を漁った。  それは『河童が覗いたニッポン(妹尾河童)』という本に収められた、「集治監」という題の取材文章だった。そこでその北海道の主要幹線道路が囚人道路などと呼ばれている、というのを読んだことがあって、でもやはり詳細を

平和を望むのなら

 『ユングの生涯(河合隼雄著)』という本を読んでいることをちょっと前に書いたんだけれど、それを読み終って、読みかけだった『人生は廻る輪のように(エリザベス・キューブラー=ロス著)』にまた戻った。この本を読むのは2度目なのだけれど、常に新鮮な気もちで生きている私には(つまり内容を忘れていたということ)また新たに感ずるところがある。この2冊を続けて読みたくなった理由は、『ユングの生涯』のはじめに、彼が生まれ育ったスイスという国の土壌についての章があり、ロスもスイスの生まれというの

なんでやらなかったんだろう

 開封したてのチョコレートを、ぱきぱきとひとくちの大きさに割って、それを置いた皿に鼻を近づける。近づけるのは香りを嗅ぐためで、香りを嗅ぐのはテイスティングの工程の一つだからだ。すううっと吸い込んでその香りに集中しながら、ふとおもった。  こうやってあるもの(この場合チョコレート)に接近して五感を集中させる行為は、その対象に興味があるからである。チョコレートのテイスティングをするのは、どんな香りがして、それを私がどう感じて、口に入れたらどんな味わいや風味をキャッチできるか、そう

笑いのちから

 たいせつな人が笑っている姿というのにはしあわせが詰まっている。  数年前に、宮崎のみんなと他愛もないことで笑い転げていて、そのときにふっといくつかのことをおもった。あれ、わたし、以前はこんなふうによく笑い転げていたな。でもしばらくの間、笑うことを失っていた気がする。どうして笑っていなかったんだっけ。  小学生、中学生のころは学校が好きじゃなかったこともあって、そんなに笑っていた記憶はないけれど、家族の間なんかではよくテレビ番組を見ては笑っていたとおもう。高校生のころは友

【私と本】「今を生きる」に反応した

 柚木沙弥郎さんという染色工芸家のことを、私はごく最近まで存じ上げませんでした。ふとしたところから知るに至って、この本を図書館で借りてきました。  この本のことに触れる前に、私の無知のことを書きます。  私はこのnoteのなかに、自分が読んできた本を放り込む本棚をつくりたくて、マガジンにしています。トップ画像には、読んだ本の表紙を撮影したものを使ってきましたが、これが著作権法に触れる場合もあるということを、もりおゆうさんの記事で知りました。 (Q1のAnswer参照)

【私と本】娘目線からの父のすがた

 安西カオリさんというのは安西水丸さんの娘さんである。こういうのは、読みたいような、読まずにいる方がいいような、なんとなく変な気もちがしながらもやはり気になって読んだ。  気軽に読めるエッセイで、合間に安西水丸さんのブルーインクで描かれたイラストが配置してある。父と娘の文章には同じような空気を感じながらもやはり違うところもあって、それは雰囲気をこわすようなものではなかった。心地よかった。  水丸さんの好きなものからいろいろ影響を受けた。表紙絵に描かれているブルーウィローの

【私と本】おはなしのちから

 図書館で本を借りるとき、読みたいものを調べて予約をします。それ以外には本棚をじいっとみて、呼ばれた本を借りて帰ります。先日目が合ったのが石井桃子さんの名前でした。  見たことのある名前、ふっと浮かんだのは絵本の表紙です。これという絵本というのでなく、何かの絵本の表紙で見た記憶ということです。  文体が好きだなとおもいました。読んでいくうちに、一つひとつの言葉のえらびかた、置きかた、表しかたにドキッとしたり、納得したり、ハッとしたりしました。日常のこと、身の回りのことを、誰

【私と本】とんかつあさ川のつけあわせ

 大衆食堂。  私はあまり外食をしないため、縁がない場所なのだけど安西水丸さんのこの本がだいすきで、何度も開いてしまう。  先日図書館の本棚で見つけたのは東海林さだおさんの『大衆食堂に行こう』というタイトルの本で、あれっとおもった。水丸さんのと同じタイトルだろうかとおもい借りて帰る。確認すると水丸さんのは『大衆食堂へ行こう』だった。  大衆食堂といっていいのか、店の近所にあった『あさ川』というとんかつ屋にときどき家族で食事に行っていた。うちの父は喫茶店の盛りあがりが去りつつ

【私と本】明治に生きた蝶々さん

 この物語に初めて触れたのは、地元新聞の連載だった。  新聞連載に気がついたのは物語の後半だったようにおもう。連載時の挿絵は小崎侃氏による版画で、文章と挿絵のどちらともたのしみにしていた。  『蝶々さん』は、プッチーニのオペラで有名な『蝶々夫人』を題材にした小説となる。これを最初に読んだときは長崎の歴史や文化に(今よりももっと)疎かったこともあって、暮らしている町についての興味を持つきっかけともなったとおもう。  物語のはじまりは明治7(1874)年で、その年に蝶々さんが

【私と本】しおり

 しおり、ブックマーク、本を読んでいるときにどこまで読んでいるかを示すための何か。  色んなタイプのものが雑貨店なんかに並んでいますね。土産品としても多く、例えば教会なんかでも、ご像やステンドグラス、聖書の言葉が書かれたものなど、信者の方の手づくりのしおりが献金箱の隣に置かれていたりします。  そういったものをいくつか持っています。でもね、いつの間にか、そこら辺にあるレシートだったり、付箋紙だったり、ショップカードみたいなのが挟まれています。ひどいときには(といっても私の

【私と本】明治のころを想像する

 ひと月ぶりくらいに外海に行ってきました。今回は仕事の割合2くらいの気もちで、あとは思う存分息抜きといったところ。さらに思いつきで西海市まで足をのばしましたがそのことはまた別の機会に書きたいとおもっています。  それで久しぶりにこの本を開きました。  ド・ロ神父のことを伝えるいい本だとおもっています。出津という土地において、住民の自立や教育、開拓など様々な知識と行動力をもって尽力をされた方です。  1868年に28歳で来日して以来、大浦や横浜、浦上などで神父としてはたらいた

【私と本】夢の話はしないでくれ

 私は夢をみることが少なくて、というか憶えていないだけかもしれないけれど、あまり印象的な夢というのがない。  できれば夢なんかみないでぐっすりと眠りたい。  眠るのがすきで、(生きるのしんどいな)っていう時期なんか特にねむるのがたのしみだった。日が沈むと気分が落ち着き、朝になって目が覚めると気もちが暗くなった。ねむっている時間は、まっくらで、静かで、私は私ですらなくて、そういうのがたまらなくすきだった。  今はわりと元気いっぱいに生きているけど、それでも眠る時間というのは

【私と本】あの中国人の女の子は

 須藤元気氏がわりと好きで、まあファンということになるとおもうけれどその彼が紹介していたこともあって、ひかれて読んでみた本。  この国(新疆ウイグル自治区)についての私の知識はとても少なく、このマンガの中で扱われていたようなことと、ときどきこの番組で話題にのぼることくらい。世の中の色々に疎いことを日々反省している。  世界でどんなことが起きているのか、それを知る手がかりや情報というのはほんとうに限られていて、日本国内のことですら見えてない部分が大きいというのが私の実感(それ

【私と本】聖人視することへの違和感

 久しぶりに河合隼雄さんの本を読んだ。  この本の中で特に私が反応したところは、題名に書いたように誰かを聖人視することへの違和感だった。  第4話で、ドイツの精神科医であるエリザベス・キューブラー=ロスという女性が話題にのぼっている。精神医学のお医者さんである彼女は、死にゆく人との関り方が大きく評価された人物だそうで、そういえば河合隼雄さんの他の著書でもこの名前を目にしたことがあった。  それで、この方について、この対話の前年である1997年にドイツの雑誌に掲載されたキュー