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イブンバットゥータの三大陸周遊記の感想①

 14世紀初頭のモロッコ出身の旅行家で、エジプト、パレスチナ、アラビア、ペルシャ、東アフリカ、アナトリア、中央アジア、インド、中国、西アフリカなど当時の旧世界の文明あるところの殆どを巡ったイブン=バットゥータという人物がいました。彼の旅程を記した三大陸周遊記を読み印象に残ったことをつらつら書いていきます。

モロッコからエジプトまで

 私の見た抄本だとここは「ナイルの水は甘し」と洒落た区切り方をしているけど旅程としては🇲🇦から🇪🇬までを記している。彼はムスリムなら誰でも夢見るメッカの巡礼のために故郷のタンジェを出発、途中チュニス(今のチュニジアの首都)の使節の隊商と会って彼らと共に旅をするのだが、物語が始まってまだ2ページ目であるここで熱病でバンバン人が死ぬ。彼によるとなんでも熱が出て一旦ひいて再発して亡くなるらしく、ここで戦争オタクの私はピンとくる。これマラリアやん。
 
先の大戦で南方戦線に向かった何十万人もの日本人を殺してきた恐ろしい病気であるマラリアは今では特効薬もでき、適切な治療さえすれば治る病気だが(治療が間に合わなきゃ今でもヤバいけど)、当時は当然そんなもんはない。そしてなんとバットゥータも発熱してうなされる。おいおい大丈夫か。まさか開始数ページで主人公がくたばるのか。三大陸周遊どころか北アフリカ横断すらできてないぞと思ったが流石にアラーの思し召しで助かる。いやー大変だ。昔の旅行というのは本当に命がけである。だから彼は偉大なのだろうなとか考えながら読み進めるとアレクサンドリアに到着する。アレクサンドリア港についてバットゥータ曰く、

全世界で、この港に比べ得るものとしては、インドのカウラム(今のクィロン)とカーリクート(カリカット)、トルコ族の地方(クリミア)のスーダークにある異教徒(ジェノア人)の港、及びシナのザイトゥーン(泉州)の港などを私は知るのみである。

中公文庫「三大陸周遊記 抄」

 多少俺こんなに色々見て回ったんだぜ的なマウンティングを感じないでもないが(余計)同時代の世界中の港と比較することができるのは素直に感心した。こんな風に比較ができる人はこの時代そうそういないだろう。またアレクサンドリアでは運命的な出会いもある。
バットゥータはこの地の名士であるブルハーヌッ・ディーンというイマーム(宗教指導者)の家に3日間滞在した。ある日、彼から「お見受けするところ、あなたは見知らぬ珍しい土地を見て歩く事がお好きらしいな」と言われる。彼が同意するとイマームはこう告げた。

あなたは、かならずインドではわたしの法兄のファリードッ・ディーンを、シンドでは同じくルクヌッ・ディーン・ザカリーヤーを、またシナでは、同じく法兄のブルハーヌッ・ディーンをお訪ねになるにちがいない。その節は、どうかわたしからもよろしくとお伝えくださるよう

 バットゥータは最初は宗教的な目的のためにメッカを目指して旅行しており、インドや中国といった異教徒の国にまで行くつもりはなかったらしい。しかしイマームのこの言葉が彼の探求心を刺激し、そのような遠国をも旅行したいという希望を抱かせた。
彼の旅行記は世界の様々な地域の文物や特産品、住民や君主などについて詳細に記してあり、正式な題名は「諸都市の新奇さと旅の驚異に関する観察者たちへの贈り物」とされる。ただ彼は22歳で故郷を発ってから何十年にも渡って旅を続けてきているため、この旅行記はイブンバットゥータという人物の半生記という側面も大きいように感じる。ある程度読み進めた後にこの部分をもう一度見ると、イマームとの対話は彼の旅行家としての人生の幕開けのように思えた。(関係ないけどイスラーム世界の人名、馴染みのなさと複雑さで全く覚えられずこの辺から苦労しだす)
アレクサンドリア近郊の街ではその土地の役人と税収入についてのこんなやり取りがあった。
役人がバットゥータの故郷の税収入を尋ね、年一万二千ディーナールほどであるとと答えると役人は驚き、ここは小さな町ですが税収入は七万二千ディーナールになりますよといった。エジプトではすべての土地が国有であるため莫大な収入があるとイブンバットゥータは説明している。ここで私が感心したのはディーナールという貨幣単位がイスラム世界のどこでも通用することだった。モロッコとエジプトはアフリカ大陸の西端と東端であり、当然何千キロも離れている。それにも関わらず同じ貨幣単位で税収入を比較できるのはアレクサンドリアのイマームの知人がインドや中国にいることと合わせてイスラーム世界のネットワークの広大さを実感させられた。ちなみにこの時代は日本では鎌倉時代の終わりあたりだ。
この他にもエジプトではピラミッドの伝説とか当時のマムルーク朝の首都のカイロの繁栄とかについて記してるけど私の体力がもたんので端折ります。興味あったら読んで下さい。(なげやり)
モチベ次第で続きます。


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