吉野の紙と糊空木
(この記事は2019年5月19日Facebookに投稿したものを転記しています)
五月半ば。吉野を訪ねてきた。ヘッダの写真は吉野で東博などの博物館や美術館に修復の紙を納める貴重な紙漉きをされている福西さんの工房の前庭。細長い板に漉いたばかりの紙がのせられ、日に当てられている。
白い花、ノリウツギ(糊空木)の花が吉野の山道の道端で優雅に揺れていました。
糊空木はその名の通り糊として利用されてきました。紙漉きの際、バインダーとして使われています。この道端に咲いていた糊空木は、紙漉き用のノリウツギではなく、紙漉きにはもう一種類の方を使われるようですが、この種類の木も自宅で試したところ、水は粘り気を帯びました。
一般に、古法ではバインダーにトロロアオイが用いられる事が多いと聞きますが、福西さんのところでは糊空木一筋だそうで、トロロアオイはお使いにならないそうです。
※糊空木の枝を砕いて水につけている。
糊空木で紙漉きをされているのをはじめて拝見しましたが、枝を砕いて水に浸けておくだけで水が粘るそうです。(トロロアオイの根の場合は、色々加工が必要)
※砕いてパウダー状にした石を練りこんでいるところ。
紙を漉く福西さん。道具は細かなところに丁寧な工夫がされていた。そしてなんの臭いもしない。だいたいの場合、工房というところは現代的な臭いがするものだけれど。
漉いたばかりの紙は艶やかで美しい。
これをすぐに外で干す。漉いては干してを繰り返す。とても忙しい。日が出ているときしか乾かないわけだから。天日干しだなんて、今時そんな仕事が成り立つなんて。
干した紙は一枚一枚検品する。時折猫がこちらを見に来る。
そしてちょうど漉いておられた紙は石を砕いて混ぜた紙。掛け軸の裏打ちに使われるそうで、東博へ納める品だそうです。石の粉を混ぜることで丈夫になるそうです。肌合いは白くきめ細かく、マットな輝きを放っている。
楮は自ら栽培し、石も自ら砕き。糊も自作。
この紙は国内の博物館は勿論、海外の博物館・美術館でも修復のために使われている。時代のある品の修復に使うため、工法も古いままでなければならないそうだ。何一つ変えられない。
山と美しい湧き水と、美しい素材だけでできた紙。極上の美しさ。この上に何か描けるんだろうか?
ノリウツギは沢山の園芸種があり、80年代にはピラミッド紫陽花が上陸して一斉を風靡。今もいろいろな品種が愛されている。ピンクのとか。庭にもひとつ欲しい。
工房内に引かれている湧き水。限りなく透明に見える。