来夏に食べる氷菓のこと
今年の夏、ヘビロテしたのがhàlの『all kinds of crayon』だった。このEPでもっとも好きな曲は「望遠鏡の向こう側で」だ。音楽が気分を決定することはよくあるが、このEPは蒸し暑い夏を穏やかでご機嫌にしてくれる。
ところで、今夏はたしかに暑かったが、以前経験した暑かった夏の京都とさほど変わらないような気がする。しかしどうやらニュースで見聞きする限りでは、京都以外の土地では経験したことがない暑さが続いたようであった。祖母の葬儀に参列した際にも親戚からそのような話を聞いた。
そして盆を直撃した台風が去るとすぐに秋の虫が鳴きはじめた。そういうプログラムが組んであるのかと思うくらいだが、実際に神によってそういうプログラムが組んであるのだ。そしてその延長線として私たちは文章を書いたり娯楽をつくったり戦争をしたりしているのである。ほんとか?
冬はあまり寒いわけではないのだが、やっぱり暖房はつけるしかない。暖かく、乾燥した四角い部屋で、遠い土地の話を知る。人々はその無力感を伝える術がなく、それぞれがそれぞれの癇癪としてあらわれているように思う。この状態は「健康」ではないのだが、以前から不健康だった人間にとって、不健康が主流になるという世の中は、ようやく時代が追いついてきたというか、前提条件が整ったというか、そのような感じであろう。この世の一番の解決は、みんなでせーので不健康になることであると思ってしまう。
だからというわけではないのかもしれないが、下半期はほとんど何も書けなかった。(その代わりにいろいろなものを摂取してはいるけれど)。
これから先どのようになるのかわからん。来夏に食べる氷菓のことすらわからん。だからその対応として自分は自分ができることを粛々とやっていくしかないのだ(しかしその先の革命を忘れない)。
さて、書けなかった書けなかったと言うのは簡単だが、その「書けなかった」を書いた詩がひとつだけある。おずおずと掲示しておこう。
すべての逡巡と逡巡
令和になって戦争なんてって声がある一方で
戦争なんていつの時代にもあるんであるという
歴史好きの何の役にも立たない反駁があった
(普通に生きるだけでも罪を感じなくてはならない?)
恐らくはそう
豊かな生活を自分の意思とは限らずに享受していたとしても
しかし普通に生きるだけでも厳しい世の中でもあります
結婚できません
子どもつくれません
幸せわかりません
戦争の「せ」の字も出さずに生きてちゃ駄目だな
戦争について言及しても虐殺止められるわけではないしな
幸せなことだけして生きていたいな
でもそれはたぶん罪だな
何もかも手に届かない位置にあります
私たちはそれを見て立ち止まる
うろうろして
戻ってきて
立ち止まる
ほんとによぉ……
(溜息)
泣きたいよな
でもあかんねん
泣きたいのは当事者やし
ね
当事者って
ええやんか
そうおもわん?
それ不謹慎ちゃう?
苦悩が目に見えてるほうが
わかりやすいやん
当事者って
当事者であるだけで文学やん
おれたちって
いったい何なん?
あのなあ
創作の何がすごいかって
何でもないのんが
何でかあるのんになれる
そういうことちゃうんか
ほんまにそう思うか?
何でもないやつが
エアコンつけてぬくぬくしたまま
なんも解決できひんのに
悩んだふりだけしてる
自己満足
罪悪感を解消するための営み
そうとしか思われへん
野蛮や
野蛮やなあ
でも
SNSで安直に悩むより
野蛮ではないかもしれん
さらには素晴らしい言葉を拡散し
自身の言葉として仮託するよりも
野蛮ではないかもしれん
むしろ最初から
役に立とうとすることも
誰かに読ませることも
放棄している
純粋な祈りとして
(いや逡巡として)
ここにあるほうが
ええか?
まだマシか?
SNS以降
むしろ詩だけが
野蛮ではない
そう言うてええか?
あかんか
あかんよな
ほなまぁ
うん……
どうしような
五十音を並べていくか?
ランダムにな
無限に並べていくねん
そしたら
無限時間後に
解決法がな生まれてんねん
ああ
そうかもしれへん
おれたちがな
こうやってぬくぬく書いてんのはな
無限時間後の解決法のためやねん
な
な
せやろ?
そうなんやろ?
なぁ答えてくれや……
(いやわかってるで
目の前には神さんもおらんし
普通の人間もおらん
ただただ壁があって
おれはそこでうろうろしてるってこと)
ほんでな
昨日買った紅茶がうまいねん
悲しいことにな
そんでな
こうやってシリアスに終わることができひんねんな
阪神が優勝した試合でな
岩崎が最後ホームラン打たれたみたいにな
(スタンドの笑い)
こうやって相対化するしかないねん
病んでんねんなぁ
んで
「どこにもないんよ、救いは」
そうみんなでいっぺんに言うことが
いわば
救いの代わりみたいなもんやなぁ
(2023年12月15日23:25・西陣)