ご褒美ヴェルジョワーズ
やっと紅葉しようかという日本の11月『秋はどこにいった?』などとたくさんの人が言うようになった。
ここ数年の夏の暑さと、秋の訪れの遅さは日本の四季のバランスを崩しつつある。
めちゃくちゃ暑いとはいえ、『熱中症に注意!』の過剰な注意喚起で冷房の使用を煽っている状況も影響しているだろう。
日頃からほどよく運動をし、自分の体調を知ることをしていれば、そんなに危険な問題ではないと思うが…というのがトレーナーの正直な考え。
寒さを感じられるようになり、年末感も増してきた11月の下旬、クリスマスの雰囲気を肌で感じながら、自分には全く関係ないこのイベントに想いを馳せる。
『今年のクリスマスケーキの予約しないと』
クリスマスには興味ないくせに、ちゃっかりケーキだけは予約してまで買うのである。底無しの食いしん坊なのだ。
お店も決まっている。
行きつけの米粉スイーツのお店だ。
グルテンフリーが浸透してきた最近は
その製品のクォリティも格段に上がっている。ポソポソと固かったパンやパスタは食べやすく改良され、洋菓子などは小麦製品と遜色ないほどに滑らかな舌触りになっている。
日本人の異常なまでの研究熱心な性質には頭が下がる。
お気に入りのお店は芦屋にある。
数年前から仕事で行くようになった芦屋。たまたま通りかかったエリアで見つけた、絵本に出てきそうな可愛らしいお店。
【お米のスイーツ専門店】
という文字が店頭に書かれている。中を覗くと可愛らしい壁紙の店内。ショウケースの中にはたくさんの焼き菓子がオシャレに並べられている。
『これが全部米粉?』
米粉製品といえばほとんどが『プレーン味』のようなシンプルなものばかりで種類も多くない。店内全部米粉のスイーツだなんて、私にとって天国である。全部欲しい。迷わず店内に入った。
これがそのお店との出会い。
その時はシーズンのドリンクと、スコーンを数種類を買ったはず。これがサクサクで美味しいのだ。
そこから仕事に行く時に寄るようになり、今ではすっかり常連に。
この日は、仕事前のオープン時間に寄ることができた。店員のマダムも私のことを認識してくれているので、軽く世間話も挟んだりする。クリスマス期間の今は、百貨店への出店もしている同店なので忙しいようだ。
そのため、生ケーキを売っている2軒先の姉妹店は、クリスマス期間は土日しか営業していないらしい。
『土曜日…』
『今日!?』
予定変更。仕事帰りにも寄る。
だって、あのクレープが食べたいんだもの。
バターとお砂糖の染み込んだジューシーな『ヴェルジョワーズ』
ヴェルジョワーズとは、てんさい(砂糖大根)が原材料。結晶化させた砂糖を取った後に残ったシロップを煮直して2回目に結晶化させたもの。
そのヴェルジョワーズとバターを使ったクレープのため、このお店ではバターと砂糖のクレープのことをヴェルジョワーズと呼んでいる。
もちもちの米粉のクレープに、バターとお砂糖の溶けたジューシーなシロップが染み込んで、シンプルながら風味が広がる最高の逸品なのだ。
仕事帰りに食べるなら、美味しさも増すだろう。
買った焼き菓子を受け取り、ご褒美を思い浮かべながら、私は仕事に向かった。
【たぶん続く】