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怪談級に怖かった。とある店舗が全店閉店した話

今日はブルースターバーガーの話です。みなさんご存知でしょうか。ブルースターバーガー。「焼肉ライク」を展開している、ダイニングイノベーションが2020年の11月にドンドンと太鼓を鳴らしながらスタートをしたハンバーガーチェーンです。高品質で低単価を謳い文句にしていました。


全国2000店舗まで伸びて絶好調のはずが

3つ特徴があります。1つが高品質・低単価。もう1つがオーダーしてから受け取るまで、完全非接触対応。コロナの世情を反映したというか対応したものです。「現金は使えませんよ」ということで、完全非接触で買える。3つめがテイクアウト専門店で、イートインないということでした。

1番最初にオープンしたのが中目黒かな。山手通り沿いにできて、「ハンバーガーを買うまでに2時間並んだ」、「3時間並んだ」、「もっと並んだ」という話を聞いて、これはエグいな、と。「行ってみたいけれど、ちょっとしばらくは無理だな」と思っていました。

僕は名古屋に住んでいますので、「いつかちょっとブームが落ち着いたときに行ってみるか」と思っていたんですね。ハンバーガーが200円以下だったので「そんな高品質なハンバーガーが200円以下で食べられるのであれば、ぜひ1度は行ってみよう」と思っていました。

イメージ出典:ACイラスト

テイクアウト専門ですので、イートインスペースが不要で、効率的に商売できますよね。飲食をやられている方でしたら、僕が説明するまでもないことかと思いますが、イートインのスペースがあるとそれだけ家賃が高くなります。そのぶんハンバーガーや売る商品の価格に転嫁しなければいけませんが、イートインがなければ、その分の家賃を値下げすることができるので、安く高品質なものを低単価で売れます。これはほんのちょっとした隙間のような場所があればできますので、フランチャイズ展開も推し進めていたようです。

ニュースを見ると「全国で2000店舗に達成するような勢いです」ということで、すごいですよね。だって2年ぐらいですよ。それが、バタバタとダメになっていったということで。

ブルースターバーガーの悲劇の要因は?

僕は知りませんでした。耳に飛び込んできたのが「ブルースターバーガー、完全閉店」というニュース。「どういうこと?」と。あんなに伸びていたって言っていたブルースターバーガーが、一体どうして。「いつこんなダメになっちゃったの?」と思いました。

結局、最後に第1号店を閉店して、全店閉店ということになった。早いですよね。2年あまりの間にワーッと2000店舗に増えて、ワーッと終わっていった。これは僕的に気になるニュースでした。何があったんだろうと調べていきました。

謳い文句だった「高品質・低単価」は誰でも好きですからね。いいものが安く買えるのであれば。それは本当にいいものが本当に安く買えるなら、それを「いらない」という人はいないと思うんですよ。ほぼいない。ですので、ここはズレていなかったのですが、あと2つの特徴はどうでしょうね。

「完全キャッシュレス化」と「テイクアウト専門店」。これが崩れたということなんですよ。ここが崩れると、そもそもの計画は崩れますよね。テイクアウト専門店にすることによって、食べる場所の家賃がかからず、完全キャッシュレス化をすることによって人件費の削減ができるから、高品質・低価格が実現できたはずです。

「いきなりステーキ」が最初に伸びていったのもまったく同じ発想、やり方でしたよね。これは聞いた話ですが、ひらたく言うとレストランや飲食は平均で減価率30%ぐらい。1000円で何かを食べるとすると300円が原価、700円が利益ですね。でもこのブルースターバーガーは、なんと減価率68%だったというんですね。1000円のものを食べると680円が原価ですよ。利益320円しかないということは、ふつうの利益の半分以下ということですよね。それぐらいほかに間接費用がかかっていない、家賃代や人件費の部分でコストカットがされていたから成り立つビジネスだということになってくるわけじゃないですか。

ところがやってみたら、まずテイクアウトだけではきびしかったそうなんです。渋谷に4号店を出しているんですよ。「グルメ113」みたいなことで、113gある大きいサイズのパティを売りにした店です。これは店内にイートインの広いスペースをつくりました。ハンバーガーも550円という。ふつうのハンバーガー170円か180円だったと思うので、それから比べると3倍以上の値段になっていますよね。もうここですでにコンセプトガタガタ崩れていますよね。しかもキャッシュレス化がうまくいっていなかった。これは僕らお客側が、まだキャッシュレスになりきれておらずというところもあったと思います。

オープンしたころは注文のタッチパネルの前に行列ができた。注文したあとも1〜2時間ぐらい待つ。これは完全にオペレーションが破綻しています。しかもさっきお話をした渋谷の店。そこは現金で決済ができるタッチパネルも設置したというんですよね。4号店ですからね。1、2、3やってきて、当初のもくろみと違うところがあったのではと推測します。なので、4号店の渋谷では大きいイートインのスペースをつくって現金決済ができるタッチパネルもつくりました、と。ここでドンドン太鼓を叩いてしまったからやめられなかったのか「もっといけるぞ!」と思ったのかわかりませんけれど、そのまま突き進んでいって結局ガタガタと閉めていった。こういうことだと思うんですね。

心理的に引けなくなる理由

ここで僕思いだすのは、コンコルドの誤謬(ごびゅう)、サンクコストの呪縛ですよ。すごく思いだします。ここから先は僕の想像ですけれど、このブルースターバーガーという業態を開発するためには、それなりの期間とお金と、あるいは知恵の絞りかたみたいなのがあったと思うんです。「これはいけるぞ!」と思ってやってみた1号店は、爆発的に繁盛した。となると人間の思考として「これはいける」と。「宝の山を一発掘りあてた」みたいなことでワーッとドーパミンが出て、快楽状態・快感状態になるんですよね。

そして次々いくけれど、1号店ほどうまくいかない。「どうしたんだろう?」と思いながら「ひょっとしたら……」と、渋谷でイートインもやってみる。現金のレジも入れてみるというところ。ここでもうすでに最初のコンセプトが崩れていることが、冷静に考えればわかるはずですよね。

でもそこまでにつぎこんできたお金や時間、アイディア。あるいは1号店における、もう頭の中をドーパミンが駆けまわるこの快感を知ってしまうと引けなかったんじゃないかな、と。いつかあたる。やり直していけば「これはうまくいくんだ」とすがりついてしまったのではないかなと僕は考えるんですね。

今僕も実業の方で新しいビジネスをやっています。ここまでのところ大成功しているかというと、そうでもないです。もくろみよりも低い水準になっていて、なんとかしなきゃなと思っています。けれど、コンコルドの誤謬・サンクコストの呪縛に気をつけないと、僕もブルースターバーガーのようになってしまうのではないかなと恐れがきて。ゾゾゾッと。本当この夏最大の怪談だなというぐらい身の毛がよだった、とそんな話なんです。

引くべきところむずかしいですよね。それがわかるように、僕も客観的に自分を見ながらしっかり地に足をつけて歩んでいこうと思います。みなさんもこの夏最大の怪談、気をつけてみてください。

※2022年8月の音声をもとに記事にしております。

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この記事はVoicy 『聴くだけで「使える」心理学』から抜粋し、読むだけで使っていただける記事として掲載しています。本編音声はこちらから↓↓


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