福司が山廃を始めた理由①
noteを利用し始めて3か月目になろうとしています。月に1つは投稿するところからと始めていますがブログを2006年から初めて16年間、平日はほぼ毎日続けており、そこに書いてきたことをここに吐き出すととてつもない量になしまいます。時系列で考えてもすごいことに・・・・。興味のある方は下にリンクを貼っておくのでそこから見てください。未だにほぼ毎日更新です(笑)
何から伝えようと思っていたのですが、今シーズン初めて取り組ん山廃の仕込みの話も書きたいので、そこに行きつくために、まずは白麹の取り組みをと思います。本当は今の若手社員が入った時くらいの苦悩やその当時の目標、そして私の理想的な仕事環境的なものも白麹の開発に関わってきます。
なぜ白麹を始めたのか
そもそも白麹を始めたのはいくつかの要因がありました。1つは社長が「これからの日本酒は酸だと思う。」と言っていたこと。あとは同じく社長ですが「スパークリングやろう!」。リキュールの時もそうですが、だいたい社長が言ったことを実現するのが私の役目。新しいことにチャレンジしたり創り出す方が好きなのでしょう。職人気質というよりはクリエータータイプだと思っています。なので部下は職人気質が多いですね(笑)。スパークリングをやろうという話で、「やっていいならやりたいな」と思い、スパークリング清酒を買っていろいろ利き酒しましたが正直どこも余り美味しくない。いろいろ工夫しているもののどうしても「ザ・日本酒」という感じはぬぐい取れない。下手するとこのお酒は炭酸設計ではなく、出来たお酒に炭酸を入れただけのものではないか!?と疑うほどのレベルのものも。もともとシャンパンやカバが好きで、独身時代はスーパーで半額のステーキ肉を買っては近くのセーコーマート(北海道のコンビニ)で売っているスパークリングを買って、映画を見ながら過ごすというのが私のストレス解消法でした。母親には「リアル『結婚できない男』。あんたあのドラマ見た方がいいよ!」といわれていたくらいです。そんな私も昨年結婚したので、できる時はできます!話はそれましたが、それだけ頻繁にスパークリングを飲んでいたの私は思ったわけです。スパークリングにはやはり酸が重要!!で、あの複雑な味わいと酸があり辛口の方が美味い。
酸を求めて試行錯誤
改めて自社でスパークリングを造るとしたら、現状ある技術のみでの開発は困難。というより自分が納得いく酒質にはならないだろうと感じました。酸を主体とした日本酒を作る方法はいくつかありましが、冷やしても美味しいクエン酸かリンゴ酸を主体とした設計が望ましと考え、様々なお酒を利き酒し、イメージに近い白麹にすることに。その当時は釧路に帰ってきて10年くらいの頃で地酒としての福司の役割についてもいろいろ考えるようなっていたと思います。漁業やパルプ、炭鉱といったマチの基幹産業が衰退する中で地酒蔵として創業100周年を迎えるタイミング。この先このマチはどうなるのか?そして地酒はどうなるのか?悩む日々の中で感じたのは、『たかが100年!歴史はこれから動き出す。きっとこれからこの土地を豊かにする本当の産業が生まれるとしたら』と発想の転換をすることにしました。(100年達成!!!ではなく、今はまだ経過途中の段階という風に切り替えた。)その仮説の中で地酒福司は新たな時代にも対応する蔵であるべきであり、そこにはこの白麹の技術が必要になると強く思うようになったのです。
さて白麹のお酒を造ろう!と言っても、当時はまだまだ白麹を使用した事例が少なく、日本酒の製造技術の指導をする国税局鑑定官の先生に相談しても明確な情報はありませんでした。文献検索をしても清酒用の白麹の造り方も出てきません。もともとは白麹は焼酎用の麹で黒麹の突然変異体です。日本酒で使う黄麹菌とおなじ麹を作る菌ですが、学名では全く別のもの。黄麹の学名は「Aspergillus.oryzae(アスペルギルス・オリゼ)」ですが黒麹は学名を「Aspergillus.luchuensis(アスペルギルス・ランチャンシス)」。白麹の学名は「Aspergillus. kawachii(アスペルギルス・カワチ)」といいます。麹菌とひとくくりにしてしまえばどれでも造れそうですが、造り方も異なります。ってか、2015年に黒麹菌の学名変わったんですね!?大学時代教わった学名は「Aspergillus. niger(アスペルギルス・ニガー)」でしたが、黒カビと別種の分類とされたんですね。醸造試験場でお世話になった山田先生の文献見つけました。
白麹の製麹(麹を造る工程のことで「せいきく」といいます)でも試行錯誤必要でしたが、白麹を扱ううえで問題なのが生成する酵素です。黄麹はデンプンを分解するグルコアミラーゼとαーアミラーゼの2種類酵素を作りますが、αーアミラーゼはデンプンの連鎖を最初に切ってくれます、ここで細かくなった連鎖をグルコアミラーゼが切って酵母の食べやすい大きさにする役割をするのですが、白麹はαーアミラーゼが極端に少ないのです。ここが仕込みをする上で黄麹を使用した時と異なってくる部分です。これを解消する方法はいくつかあるので蔵ごとで異なりますし、この違いも蔵の味わいなのかなと思います。福司の現状の設備や作業効率、衛生面も含め初年度は無事に酸と甘さのある、いい意味で福司の商品とはことなるお酒に仕上がりました。福司は酒質はキレイ目の酒で酸度も低くすっきりとした特徴でした。それに対し白麹の酒は酸度が1.5~2倍ほど高く、酸と甘さのバランスを考えてやや甘めで搾りましたが、お酒を搾る機械から出てくる酒をドキドキしながら唎酒したのを今でも覚えています。香りも味わいの余韻も黄麹とは異なり、「新しさ」の中に可能性を感じましたね。本来はスパークリングを作るための試験的な醸造で、その年は世の中に披露する予定ではありませんでしたが社長に掛け合い、瓶詰めをしてもらったのが「COCOROMI 試験醸造やってみました。」というお酒です。
4年経っても試験醸造の訳!?
そうして誕生した「COCOROMI 試験醸造やってみました。」ですが、当初は一発屋的な位置でとらえていました。こういうチャレンジのものも面白いだろし、飲み手にも楽しんでもらえたらと思っていたからです。そうしてはや4年が経ちましたが・・・未だに試験醸造として発売!?と酒屋さんとかにも苦笑いで突っ込まれます。
本当に正直に言いますけど、造り手側としては毎年ちゃんと試験醸造しているんです!!これは造り手として完成したと思っていないですし、技術としてもまだまだ手探りだったからです。今年も6月7日にR3BYの分を発売開始しますが、美味しくなっています。味わい的には、先ほども書いていますが酸度と甘さのバランスを調整しました、年々辛く仕上げています。私としては辛口の酸のある酒に仕上げていきたいのですが、消費者はどう反応を示すのかというところも毎年チャレンジしているところです。気がついてくれていますかね?そして黄麹と白麹の糖化酵素のバランスの違いから発酵のバランスが黄麹と異なってくるので、温度経過や酵母の増殖のタイミングも毎年変えています。また、この間に酛の方も技術の確立の為、糖化と発酵のバランスや酵母の添加量、そして再現性の実験をしてきました。
麹も手入れのタイミングと水分量、麹菌の菌体量や製麹時間や酵素量のバランスを何度も試し、ポイントを掴むことで一定の酸度と酵素の生産が可能となりました。これも4年の試験醸造のおかげです。実はこの試験醸造の4年間で得たことはとても大きかったと思っています。黄麹菌しか使っていなかったときよりも麹も酛も1つ1つの工程が作業から仕事に昇格したという事です。こういうもんだからと取り組んでいたことが仕組みや構造を理解し、より良い状況のためにと工夫することで本来の福司のお酒のレベルも向上したと思っていますし、この経験があったから山廃という部門へ踏み込めたのかもしれません。
純米酒で金賞受賞
北海道の新酒鑑評会には「吟醸の部」、「道産米吟醸酒の部」、「純米酒の部」の三部門があります。近年北海道産のお米しか使っていないので吟醸酒の部には出品しておりませんが、純米酒の部ではここ2年間金賞をいただいております(道産米吟醸酒の部も金賞いただいています)。この純米酒の部での金賞は個人的にはとても重視しています。それは、吟醸酒は目標とすべき酒質が全国的にも統一性ががあり各蔵で目指す酒質が同じですが、純米酒の部に関しては目標の酒質というものが定められていません。各蔵で目標とする酒質のお酒を出品し評価してもらうことになると私は考えているので、品質の高いお酒を評価してもらうことはもちろんですが、蔵の考える酒質等に関しても評価されていると思っています。この純米酒の部に白麹を使って出品をして3年目になりました。初めての年は純米酒の部に風穴を開けるつもりで出品しましたね(笑)。酸のある爽やかなお酒をどう評価されるのか?そう思いながら出品し見事にハズレ。次の年からは技術を使いながらよりバランスよくなる設計に変更し出品しました。初年度はCOCOROMIで使用している技術を使ったのですが、次の年は異なる酛の仕込みを行い出品し金賞をいただきました。酛屋とも話し合い、まだまだ改良の余地があると今年も試行錯誤で結構思い切ってチャレンジ。これがまた次につながる良いデータがとれたんですよ。ちなみに、弊社の白麹系の純米酒は無添加のナチュラル純米を目指して作っています。出品酒もナチュラル純米です。いつか山廃でも金賞とりたいですね。
白麹から山廃のチャレンジへ
白麹の取り組みから始まった経緯は話をしましたが、実はその前から山廃をやりたいという想いは製造部内ではありました。白麹をやるよりも山廃の方が先に取り組めそうなものですが、そこには福司なりの理由があったのです。それに関しては今後触れていきたいと思います。
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