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ヤマハ発動機ジュビロ初心者観戦記☆第6節〜サックスブルーの波濤、再び〜

1.序章『選手達よ、勝利のみを求めよ』

4月3日。

まだ遅咲きの桜が満開になったばかりだというのに、初夏を思わせる強い日差しが、昼前から秩父宮ラグビー場に照りつけていた。

レッドカンファレンスの全勝対決、サントリーサンゴリアス対クボタスピアーズは、オールブラックスのスーパースター、ボーデン・バレット選手の劇的なトライで幕を閉じていた。

体の芯まで陽に焼かれた体を引きずりながら渋谷駅にたどり着く。ホームで電車を待ちながら、私はずっと見るのを我慢していたアプリを開いた。

SpoLive 

この使い勝手が未だ微妙な観戦アプリは、私が今日一番知りたかった試合の結果を画面に表示していた。

ヤマハ発動機ジュビロvsNTTドコモレッドハリケーンズ

私はその翌日、試合録画を観ながら、この観戦記を書いている。

       *    *    *


大阪府 万博記念競技場

観客の多くは、半袖、あるいは袖を肘までまくっていた。帽子を持たぬ観客は、チームのタオルマフラーを頭からかぶっている。

【季節外れの暑さ】 

この日、大阪府の最高気温は22度との予報がでていたが、体感温度はそれ以上だったに違いない。

これまで4勝1敗、絶好調のNTTドコモレッドハリケーンズ。しかも唯一負けた相手は現在全勝のパナソニックだ。

ヤマハに負けは許されない。ここまで2勝3敗。トーナメント戦の順位を争うリコーとキヤノンは、《残る二試合を連勝、おそらく加算ポイントはプラス10》が予想されていた。

しかし、思わぬ事件が起こる。

コロナウイルス陽性者が出た関係で、キヤノンvs日野の試合は中止、両チームにポイント2点が付与された。

ホワイトカンファレンスは突如混迷の様相を見せてきたのだ。

とはいえ、この《渦中の当事者》となるためには、ヤマハは最低限《この試合の勝者》となる必要があった。

文字通り、ヤマハにとって【背水の陣】たる戦いが始まろうとしていた。

勝つしかない、それのみを求める80分。

2、第一楽章 『前半〜スクラム・その低く確かなる調べを見よ』

《試合経過》

5分
  ヤマハ発動機 (5)ヘルウヴェ T 5-0
6分 ヤマハ発動機 (15)五郎丸歩 G 7-0
12分 ヤマハ発動機 (14)シオネ・トゥイプロ トゥ T 12-0
13分 ヤマハ発動機 (15)五郎丸歩 Gx 12-0
14分 ヤマハ発動機 (13)石塚弘章 T 17-0
16分 ヤマハ発動機 (15)五郎丸歩 G 19-0
20分 NTTドコモ (3)北島大 T 19-5
21分 NTTドコモ (10)川向瑛 G 19-7
37分 ヤマハ発動機 (3)伊藤平一郎 T 24-7
39分 ヤマハ発動機 (15)五郎丸歩 G 26-7

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13時 試合が始まった。

選手達の足元に落ちる短い影

太陽はほぼ真上から選手達を照りつけていた。涼やかな風が時折緩やかに吹いている。

開始早々、ヤマハはレッドハリケーンズの速攻で自陣に攻め込まれた。

それにしても、レッドハリケーンズ・マピンピ選手の体のしなやかさ!まるで全身強靭なバネのように、弾みながらヤマハの防御を振り切っていく。。

このピンチを、ヤマハはヘル・ウヴェ選手のジャッカルで『何とか』凌いだ。

このままでは、『前半に大量失点』という、『今季のヤマハ・負のループ』に入ってしまう。

ヤマハは五郎丸選手のキックで陣地を挽回する。

『今日のヤマハ』全てはここから始まった。

ヤマハの動きは実に滑らかだった。ボールは流れるように加速しながら選手に渡り、前進を続ける。

特に10番清原選手の変化あるランは秀逸だった。ここからツイタマ選手の軽やかなランを経てヘル・ウヴェ選手のトライまで、時間はかからなかった。

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五郎丸選手のキックも確実に決まった。

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ヤマハ先制。7ー0

ここでカメラは、ヤマハ指導陣を映した。

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大田尾さんが早大に去り、指導陣は4人

《ヤマハ四重奏》

=YAMAHA・カテュオール(quatuor)

となって、一列に並んでいた。ポロシャツ・短パン姿という『リゾート🏝パパ』風コーチ3人に囲まれて、

タッキーさん、こと堀川隆延GM兼監督は、サックスブルーのワイシャツにダークネイビーのネクタイを締め戦況を見守っていた。

大久保直弥HCと顔を見合わせ、お互い安堵の笑みがこぼれたのか、その眼は穏やかだった。

 その後、レッドハリケーンズは速攻で攻めあがってきたものの、結局《ヤマハボールのスクラム》に場面は移る。

最初のスクラム。

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すぐにレッドハリケーンズのペナルティー、ガッツポーズのヤマハ戦士達。

この【ヤマハの真髄】たる

《強いスクラム》なるもの。

それは前への推進力、真下への重力、この二つのベクトルが実にバランス良く作用した美しく合理的な姿だった。

見ていて不思議なほど気持ちがいい。

そして五郎丸選手の《キックで前進》し、《マイボールのラインアウト》。

これが、一つの『ヤマハ*スタイル』なのだろう。

とはいえ、この後レッドハリケーンズのスーパープレーに一瞬肝を冷やす。海外スターが大挙して参入した今季のトップリーグは、『個の力』が試合を決める事が多い。TJペレナラ選手のワンプレーで試合を決した『TJ劇場』と言われる試合もあったほどだ。

しかし、ここをツイタマ選手が食い止めた。その後、吉沢選手からパスを受けた清原選手の絶妙なキックから2つ目のトライが生まれた。

今日はキックを多用してますよね

解説の村上晃一さんは、今日のヤマハの戦術をこう説明していた。ボールキャリーはリーグ2位、ボール奪取に至っては1位でありながら得点が取れない、試合の中でヤマハの今季の現状も語ってくれた。そうだったのか!

そんな【目から鱗】の解説を拝聴している最中も、ヤマハは猛然と前進を続けていた。

五郎丸選手は、敵の防御網を突き破る見事な走りを見せ、最後にボールを受けた石塚選手は余裕を持ってゴールラインを超えた。これで3本目のトライ。

キックも決まり、開始15分ではやくも19-0

もちろん、これで試合が決まるほど今年のレッドハリケーンズは甘いチームではない。

TJペレナラ選手の巧みなパスを起点にみるみるヤマハ陣内に攻め上がってきた。ヤマハのペナルティーも絡み、場内は一転不穏な空気が流れる。

テレビが映すヤマハ・カテュオールは一様に厳しい表情を浮かべ、タッキーさんは大久保さんの方を向き、ペンを動かしつつ無線で指示を出しているようだった。

しかし、ラインアウトからモール、そのモールはバラけながらもトライを奪われた。

19-7

嫌な展開だが、ヤマハの集中力は途切れない。

その後再びヤマハは敵陣近くまで前進する。

そしてマイボールスクラムでヤマハは再び勝った。

五郎丸選手のキックでさらに前進、マイボールのラインアウト。

ヤマハは粘ってフェイズを重ねレッドハリケーンズのペナルティーを誘う。

さらにキックで前進、マイボールラインアウト

《ヤマハスタイル》が、【数式】のように整然と遂行され、ゴールラインは確実に近づいてくる。

しかし、このラインアウトが失敗、ただこのミスにレッドハリケーンズもノックオンでお付き合いしてしまう。

ゴールラインほぼ正面で、ヤマハボールのスクラム

ところが、そのスクラムでヤマハがペナルティー、レッドハリケーンズはキックでひとまず難を逃れた。

これはもう、絶対リプレイですね‼️

実況アナウンサーも興奮するTJペレナラ選手のプレーが飛び出したのはこの直後だった。巧みにクワッガ・スミス選手のノックオンを誘うプレー。

しかし、その後レッドハリケーンズボールのスクラムから出たボールは、ダイレクトにピッチの外へ。

こういった細かいミスが多いですね

村上さんの指摘通り、この日は相手の度重なるミスがヤマハを救っていた。

選手達は、試合が切れる度に水を飲んでいた。この時期のリーグ戦は異例の事らしい。しかもこの陽気、およそ『ラグビー日和』とは言い難い。

ここから何とか自陣を脱出したヤマハは、続くレッドハリケーンズのペナルティーで敵陣に入る。ところが、白井選手がここで負傷する。足をスパイクで踏まれた様だ。

映像は、指示を口にするタッキーさんと緊張の度合いを高めるカテュオールの面々を映し出していた。

このあと決まった伊藤選手のトライ。さぞ一息ついた事だろう。ラインアウトからのモールで粘り強く前進、トライに繋がった。五郎丸選手もしっかり決めた。

26-7 前半終了

前半はひとまず『ヤマハ・スタイル』を完遂できたといってよい。

『スクラム』という名の巌から発するサックスブルーの波濤は、幾度も敵陣ゴールラインを超えて打ち寄せていたのだから。

2、第二楽章 『後半〜戦え、そして凱歌を揚げよ』

後半が始まった。

【試合経過】

後半 
6分
ヤマハ発動機 PT 33-7
8分 NTTドコモ (12)サミソ二・トゥア T 33-12
9分 NTTドコモ (10)川向瑛 G 33-14
11分 NTTドコモ (5)サミソ二・トゥローレンス・エラスマス T 33-19
12分 NTTドコモ (10)川向瑛 G 33-21

上記試合経過が示すように、後半、ヤマハはレッドハリケーンズの猛攻を再三受けた。そして凌ぎ切った。

後半の滑り出しは無難だった。

五郎丸選手のキックで敵陣に入るヤマハ。そのプレーの最中、村上晃一さんと実況アナウンサーは、

【最近のラグビーの傾向、レフリーの傾向】

などを語ってくれた。その『新たな潮流』もまた五郎丸選手に引退を決断させた一因らしい。

キックでエリアを取りに行く攻撃から、走るラグビーへ。自然と運動量は増える。より攻撃的ラグビーへ、という要請は当然

『映像で映えるか、視聴者にわかりやすいか』

という問題も絡むのだろう。エンターテイメントである以上、大リーグの時間短縮問題と改革の根っこは同じなのだ。

レフリングも、運動量を上げていく様な、なるべく試合を止めない様な

傾向だと村上さんは説明してくれた。

スポーツのルールは神ではなく人間が決めるもの。たとえ理不尽なものであっても、その流れに順応できた者だけが勝者となる。

ヤマハは、難なくスクラムに勝ち敵陣深く入ってきた。マイボールラインアウトから攻め続け、決定的チャンスにマピンピ選手がペナルティー。

ヤマハにペナルティトライ、7点が入った。

しかし、ここから試合終了まで、ヤマハは猛攻を受け続ける。

もうトライを取りに行くしかないレッドハリケーンズは、攻撃のスピードを上げてきた。まもなく、TJペレナラ選手の横へのランと短いパスがトライにつながった。

この一連の動きをなぜヤマハが止められなかったのかよくわからない。ペレナラ選手の動きはそれ程トリッキーだったのだろうか。

レッドハリケーンズ・2本目のトライはエラスマス選手の見事なランとキックに、ヤマハのミスが重なり生まれたものだ。

『今シーズンは、ヤマハは、、(略)、猛攻を受ける時間帯があるんですよね。』『そうなんですね。そこが課題ですよね。今日なんか楽に勝つ流れになってましたから』

場内の雰囲気は次第に落ち着かないものになってきた。

ここから試合は膠着する。

互いが流れを掴みかけてはミスで手放す、

その繰り返しだった。それにしても、レッドハリケーンズはスタミナがあった。エネルギッシュな走力は、まだシンビンのマピンピ選手が戻っていない事をまるで感じさせない。

両チーム全体に仕事量多いですね

村上さんはそう評していた。

レッドハリケーンズの選手をライン外に押し出した五郎丸選手は盛んにモモ裏を伸ばしていた。

ウォーターブレイクがここで入り、選手達は盛んに水を飲んでいた。気温は相変わらず20度を超えている。

ここでマピンピ選手が戻ってきた。

その後、再三ゴールライン近くまで攻めながら得点に結びつかないヤマハ。

ペレナラという《スーパースター》を起点に走って攻撃を仕掛けるレッドハリケーンズ。

しかし、この暑さで両チーム疲労もピークなのだろう。グラウンドのあちこちで、ある者は足を攣り、ある者は血を流していた。

残りあと15分。

ヤマハ陣内で攻防は続く。

レッドハリケーンズの猛攻を懸命に凌ぐヤマハ。

クワッガ・スミス選手のいい仕事でピンチを脱したヤマハ。このジャッカルが決まらなかったら、と思うと冷や汗が出る。

両チーム体のぶつけ合いが激しくなってきましたね

実況アナウンサーがこの戦いをそう表現していた。文字通り【激闘、死闘】が繰り広げられていた。

選手達もエキサイトしてきた。これを裁くレフリーのプレッシャーは相当なものだろう。

両チーム、選手交代も激しくなってきた。

残りは、あと10分。

ヤマハ陣内でレッドハリケーンズがペナルティ、ヤマハは陣地を挽回、一旦は窮地を脱する。ところが、敵陣で今度はヤマハがペナルティ。敵はあっという間にヤマハ陣内に雪崩れ込む。

ゴールライン近くの攻防は、レッドハリケーンズのノックオンで救われるが、もう多くの選手達は肩で息をしている。

《ヤマハ・カテュオール》をテレビは再び映し出す。4人はマスク姿で正確な表情はわからない。残り時間とこの点差をどう考えていたのか。タッキーさんは大久保さんに何か話しかけ大久保さんは頷きながらなにか答えている様だ。腕組みをしてタッキーさんは戦況を見つめる。

ヤマハは自陣ゴールライン近くでペナルティー、レッドハリケーンズのトライは目前、しかし、ここでレッドハリケーンズが痛恨のノックオン。

時間はあとわずか、点差は12点のまま。

ここでボールはタッチに出て終了、かと思いきや、なぜかボールはでない。レッドハリケーンズはボーナス点目指して攻め込んできた。しかし、ペナルティーを得て、万事休す。

ノーサイド

33-21

ヤマハの選手達は一様に安堵の笑顔を浮かべていたが、円陣を組んだ時には、何かを期するような真剣な眼差しを見せていた。

試合後映し出されたタッキーさんと大久保さんは、まだ座ったまま短く言葉を交わしていた。

試合最後の映像には、選手達の肩を叩いてその働きをねぎらう大久保さんの姿があった。

            *   *   *

後日、ヤマハ発動機ジュビロ公式HPに掲載されたタッキーさんのコメントは、一応の安堵と、今後を見据える強い決意が伝わってきた。

■堀川監督
なかなかチームが苦しい状況の中、今日の試合を戦ってくれた23名の選手は
誇りを持ってプレーしてくれたと思います。
しかしながら、自分たちのスタイルを遂行できたのは、前半と後半10分くらいまでで、
主導権が転がってきても相手に自ら渡してしまうような場面もありましたので、
改善が必要だと思っています。
ヤマハスタイルを遂行することがどういうことか、選手たち自身が感じてくれたと思いますので、
今日の課題をさらに改善していきたいと思います。

そうだ、戦いは、まだ続く。

〜あとがき〜

私が渋谷駅のホームでこの結果を知った瞬間、体中の力が抜けました。ボーナス点はないものの、スーパースター加入で生まれ変わったチームに勝ちきった事は、選手達にも大きな自信となったでしょう。

4月から、ヤマハ指導陣は大田尾さんの早大行きにより《4人体制》になりました。

この共同体をどう表現するか。

【ヤマハ】ブランドのもう一つの顔、【音楽】から採ることにしました。

【ヤマハ四重奏】

YAMAHA quatuor=ヤマハ・カテュオール

です。

カテュオールはイタリア語の《カルテット》という読みが日本では一般的ですが、

ラグビーW杯2023フランス大会に繋がるチームになってほしい、そんな願いを込めて、フランス語読みで表記することにしました。

もちろん、チーム全体として捉えれば、

指揮者タッキーさんのタクトに合わせ、

コンサートマスターの大久保さんが『規律』という名の音を出し、

その音を基準に選手達がプレーする。

慎さんとモセ・トゥイアリイコーチが、各パートをリードする、そんなイメージでしょうか。

このカテュオール率いる『オーケストラ・ヤマハ』の初回演奏会は、まずまず成功だったでしょう。大分音が乱れた後半の課題をどう克服するか、それも含めて最終節、そして、トーナメント戦での躍進をファンは期待しています。

今日の勝ちは、トーナメントのドローにもわずかな望みを残しました。依然、リコー、キヤノンの優位は動きませんが、この試合を一つの契機として、チームがトーナメント戦で『名演奏』を披露してほしい、そう心から願っています。

それにしても、良いスクラム、強いスクラムとは、これほどまでに精緻で美しく、そして試合をコントロールするものなのか、と改めて【ヤマハ・スタイル】に驚かされました。私の様な初心者には、この、淡々とゲームが進行し、着実に点数が重ねられる《数学の数式》の様な攻撃スタイルに、驚きを覚えずにはいられません。ラグビーとは奥が深い、つくづく思います。

この試合は、スーツ姿が素敵だったタッキーさんの面差しも含めて、今季の思い出に残る試合となりそうです。











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