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キヤノンイーグルス初心者観戦記☆プレーオフトーナメント準々決勝☆vsパナソニック〜《明日への号砲》はもう聞こえているか〜
1.生きて帰れるか@Kumagaya
試合前日は雨だった。気象庁は、翌日熊谷市の天気を
晴れ、27度 夏日 全国に黄砂到来のおそれ
と予想していた。あの美しい芝生に降り注いだ雨は翌朝から蒸発を始めるのか。
夏は焼けつく様に暑く、冬は凍てつく様に寒い街 熊谷
私と夫には、観戦2度目にして『暑いぞ熊谷』の洗礼が待っている。
試合前日、私は無駄と知りつつ日焼け対策に時間を費やした。
翌日
5月8日 正午 東京駅
強い陽射しが真上からアスファルトに照りつけていた。時折吹く弱い風はジンワリと湿り気を帯びていた。たまらずお天気アプリを開く。気温26度、湿度52%。暑い。
熊谷は一体どうなっているのか⁈私は改札口に入る前からこれからの短い旅に恐れをなしていた。
駅舎のドームは、この強い日差しを受けながらも、柔らかな光を構内に注いでいた。
高崎線はこの日に限って人身事故で止まっていた。私達は新幹線に乗り込んだ。
東京都に発令されていた緊急事態宣言は、既に月末までの延長が発表されていた。
これが今季最後のラグビー観戦、おそらく。
車内は空いていた。誰も口を開かない。そろそろとお昼がわりのパン🥐を取り出す。食べ終わらない内に新幹線は大宮に到着した。東京から熊谷まで35分、この旅はいつもあっという間だ。
いつのまにか《ラグビー推し》になっていた熊谷。改札を出ると、そこかしこにあのチームの旗が見えた。
パナソニックワイルドナイツ
既に熊谷市をホームタウンにすると発表していた。選手の等身大のパネルが店舗毎に立っていた。
熊谷市は埼玉県の北端、県の発令した《まん延防止等重点措置》の適用地域外だ。しかし県内全域でイベントの観客数は制限されている。そのせいか、臨時バス停に並ぶ観客の数も心なしか少なく見える。
バスを待つ列に加わると、スムーズに列は流れ大して待つこともなくバス停の前に来た。4月10日の試合前同様、乗客は厳しく人数管理されている。
『立ちでよければ空いています。お急ぎの方はどうぞ。』
密をさけるため、とはいえ、『着席』が前提のバス輸送。本当に助かった。私と夫は着席を選び、一本後のバスに乗った。
前回はここからが長かった。渋滞地獄にはまり30分以上費やしたのだ。しかし、この日は違う。
バスは快調に『ラグビーロード』を疾走した。開けた窓から心地よい風が入ってくる。
そう、気象庁の予報は見事に外れたのだ!
熊谷市14時 気温26.4℃、曇り、湿度38%
なんとこの日の熊谷市は、陽射しもなく東京よりカラッとした空気が吹き抜けていた。
そして、バスは一度も渋滞にハマることなく、僅か15分で会場駐車場に到着した。
目の前に、あの《白亜の殿堂》が姿を見せた。
ジャパンラグビートップリーグ☆プレーオフトーナメント準々決勝
パナソニックワイルドナイツvsキヤノンイーグルス
この日は、前回にも増してスタジアム全体が高まる緊張感に包まれていた。
もうすぐイーグルスの練習が始まる。
空は黄砂のせいか全く日差しがない。かといって雨が降る様子もない。時折吹く涼しい風が心地よい。見た目かなり陰鬱な雰囲気ではあるが、ある意味
ラグビー日和
ではあった。5月のイングランドもこんな日が多かった気がする。
選手は徐々に集まり個人練習が始まった。小倉さんと田村さん、頼もしい《ダブル司令塔》で挑むイーグルス。
そして【この方】が、【いつものように】現れた。
キヤノンイーグルス監督沢木敬介さん。
ジャケットの襟を軽く掴んでのご登場は、毎回のお約束ではあるが、今日の沢木さんはここからが違った。
選手に話しかけるのだ。しかも頻繁に。
全員に声をかけたわけではない。とはいえ、秩父宮の『複合機ダービー』以来のイーグルス生観戦、私にはただ驚きしかなかった。思えば開幕戦、町田GIONスタジアムでの沢木さんは、練習半ばすぎまで誰にも話しかけなかった。ようやく雑談らしき風景を写真に収めた時、そのどこか恥ずかしそうな沢木さんの表情にこちらが驚いてしまった程だ。
開幕戦から約2ヶ月半、幾多の《勝負の荒波》を超える中で、沢木さんと選手達の距離も自然と近くなっていったのだろうか。
練習は淡々と進んでいく。個人から全体練習へ。
今日も頼れるフミさんがリザーブで入っている。
ワイルドナイツも練習を始めている。
故三遊亭圓歌の創作落語『中沢家の人々』の一節を借りれば
【佃煮ができるほど】日本代表がいる超強豪。
とにかく失点が少ないチーム。勝つ術を知っている。リーグ戦は負けなし、2回戦も危なげなく勝利している。
イーグルスはこのチームにあまりいい思い出がないだろう。今季リーグ戦でも完封されている。それ以上に辛かったのは昨季。開始数分で14人になったチームに大敗していた。
しかしこの日は違う!
磐石のハーフ団とそれに続くBK陣。主将田村優さんが自らチームをプレーで牽引する。
副将庭井さんを中心に、力強さを増しつつあるFW陣、いつも以上の粘りを見せたいところ。
途中加入でイーグルスの破壊力を倍加させたマフィ選手。攻撃の起点となる。
これで負けたら諦めもつく、超ベストメンバー。
大きな怪我人もなく、このメンバーで最強チームに挑めるという事実。この日までの選手達の精進に、ただ頭が下がる。
沢木さんは声を荒げて選手達に指示を出していた。意外なほど低音のよく通る声が響く。
いつのまにか、沢木さんはボールと笛を手にして自ら練習をリードしていた。低い怒鳴り声が熊谷の曇り空に届く。
選手達の集中力が増しているのがわかる。試合時間は刻々と近づいていた。
電光掲示板では、選手紹介が始まっていた。
いつものように最後は沢木監督だ。その時、
『わかった、あの監督、誰に似ているか』
今まで黙って練習をみていた夫が急に袖を引っ張った。
『ほら、あの人、日本代表の、、』
私は言われなくてもすぐにわかった。
夫よ、たしかに沢木さんは開幕前のラグビーマガジンで
毎朝4時半に起きて走っている
と言ってた気がする。しかしそれはあくまでラグビーのため。
決して42.195kmを走るためでも、日本新記録を樹立して瀬古さんから1億円貰うためでも、まして、
東京オリンピックでメダルを取るためでもない、、、おそらく。
* * *
ワイルドナイツの紹介も終わり、選手スタッフ達は、中に引き上げ始めた。
今有る全てを出し尽くせば、何かが起こるかもしれない。
開幕節から2ヶ月半、イーグルスはそう言い切れるチームに変貌していた。
選手入場はイーグルスから。
主将田村さんを先頭に。
ワイルドナイツは主将の坂手さんが欠場していた。竹山選手もいない。
とはいえ、選手層の厚さでは随一のワイルドナイツ。
イーグルスはあくまで挑戦者だ。
一瞬の隙も許されない80分の戦いが、まもなく始まる。
2.前半〜野武士は容赦しない
円陣を組む両チームの選手達
試合が始まった。
《ワイルドナイツのどこが強いのか。》
口で説明するのは意外と難しい。
『とにかく一度見なさいよ。よくわからないけど強いから。』としか言えない。
神戸製鋼のように、華麗なパス回しで魅了するわけではない。
サントリーのように攻撃的に走ってボールをどんどん回す、というわけでもない。
これだけはわかる。
『相手は攻めても攻めても、なぜか点が入らない』
ワイルドナイツの防御、やすやすとは崩れない。屈強な、頑健な選手達が、速く、重く襲いかかってくる。
しかもボール奪取のスキルに長けている。イーグルスは一瞬たりとも気を抜けないし、走っても孤立は命取りだ。。開始早々、イーグルスはワイルドナイツの逆襲に遭い、あっという間に自陣まで攻め込まれる。
ワイルドナイツの先取点はどこか呆気ないほどだった。
柔らかい絶妙なキック、そのボールを掴んだ13番ライリー選手は余裕を持ってゴールラインを超えていった。
松田力也選手は堅実にキックを決める。
その後、イーグルスはワイルドナイツ陣内に攻め込むもなぜかトライは遠い。しかしPGを獲得、田村さんが確実に決める。
その後もワイルドナイツは、イーグルスの攻撃を自陣で防いだ後逆襲にでる。体が大きく強い選手の多いワイルドナイツ、自陣でも迷わずスクラムを選択。やはり力勝負になるとイーグルスはやや苦しくなる。
そしてワイルドナイツ内田選手トライ
ワイルドナイツは着々と加点していく。
この時、イーグルス応援席はとても静かだった。選手達より先に
ワイルドナイツの迫力に呑まれていた気がする。
今まであんなに美しく渡ったパスが通らない。クリエル選手もマレー選手も南橋選手も、そして田村さんでさえ、複数のワイルドナイツ選手に的確なタックルで勢いを止められる。しかも、サポート選手まで走ってくる。油断するとジャッカルされる。
『上手い』のだ。しかも、目立つのは日本代表や大物海外スター選手だけではない。代表歴のない日本人選手の働きぶりもいい。
ロビー・ディーンズ監督の下、時間をかけて熟成された多様な攻守の引き出し。
敵ながらため息が出る。
イーグルスは序盤のPGで獲得した3点から点数が動かない。
前半終了間際、ようやくイーグルストライか⁈と思われたシーン。
無残にも、直前にボールは手から離れていた。
前半終了。
一方的にワイルドナイツが《自分の相撲》を取っていた。イーグルスファンは呆然とするばかりだった。心のどこかで《強いイーグルス》に慣れていた。甘かった。
日差しの入らない通路はどこか薄暗く、人もまばらだった。空はたしかにどこか黄色がかってみえた。妙な脱力感を覚えた。
このハーフタイム、沢木さんは選手達に檄を飛ばしているだろう。前半、彼らは何もさせてもらえなかった。これで終わりにしてはいけない。
メインの観客席には、イーグルス関係者と思われる男性達が一角を陣取っていた。この時、私は自らの大きな誤りに気がついた。
そうだったのか!
沢木さんが今季第二戦以降着用していた上下は、チームスーツの《カジュアルライン》だったのだ。
私が見たあの服。W杯後コロナ禍前に放映されたJ Sportsの特番、その際のカジュアルスーツ上下、あれとは【別の服】だったのか‼️
沢木さん、【私服】だと思っててごめんなさい🙏
心の中で沢木さんに懺悔を繰り返していた頃、選手達は再びグラウンドに姿を現した。
運命の後半が始まる。
3.後半〜飛べ!力の限り〜
ハーフタイムで気持ちも落ち着いたのか。後半は序盤からイーグルスが攻勢に出た。
イーグルスはゴールライン際、巧みに密集の中をくぐり抜け田村選手がトライ!リプレイ映像を見ても、どうやって田村さんが密集の下に潜り込んでいたか全く分からなかった。
もちろんキックも成功。
イーグルスに、あの緻密な速攻が戻ってきた‼️ワイルドナイツは必死で止めにかかる。
いつのまにか、イーグルス応援席はハリセンと拍手のリズムが合うようになっていた。その音は次第に大きく熱を帯びてきた。
しかし、ここで今日の【主役】に出番がやってきた。
ワイルドナイツ福岡堅樹選手。
W杯2015.2019代表にして、現在順天堂大学医学部1年生。今季限りの現役引退を表明していた。
世界一足の速いドクター
以前、実況で矢野武さんが口にした言葉、その実現は卒業する6年後だ。一人前になるまで10年はかかるという世界、《一人前のドクター》となった時、年齢は今の沢木さんくらいになっている。福岡選手は新たな《挑戦の旅》にでていたのだ。
福岡選手がボールを手にしたこの瞬間から、私達はこの驚くべき『才能』の目撃者となった。
約90メートルの独走。巧みな加速とステップでイーグルスのディフェンスを置き去りにした。そしてそのままゴールラインに突っ込んでいく。トライ!
拍手が、もう【驚愕と賞賛】でしかない拍手が熊谷ラグビー場に沸き起こった。ため息しか出なかった。
この天才の一撃は、想像以上に威力があった。そのあとまもなく、ワイルドナイツは福井選手のトライでさらに加点する。
20点差。勝負の帰趨は見えつつあった。
しかし、イーグルスはここで折れなかった。速く鋭いパスが次々と渡るようになった。
その速く不規則なリズム、倒れない強さ。新生イーグルスの象徴たる姿がそこにあった。
『これって、全部サインプレーなんだよね。』
隣で夫がつぶやいている。このイーグルスの『襲撃』にも似た凄まじい攻撃は、やがて得点に結びついた。
南橋選手トライ‼️
田村選手も役目を果たした。
そして、戦いは終わった。
ノーサイド
リーグ戦で完封された日から、約2ヶ月が経っていた。
両チームの選手達は健闘をたたえあう。
戦いを終えた選手達がファンの下にやってきた。
沢木さんも選手達を出迎える。
今日の試合に勝利すること、それはイーグルスの現実的な《目標》だった。しかし、ワイルドナイツは違った。《通過点》、彼らの目標はその先にある。
日本選手権優勝。
それは《夢》ではない。《現実》としての目標。
《この目標》に、イーグルスは今季どこまで近づいたのだろうか。
《その目指す場所》に至るまで、あとどれ程の時間を要するのだろうか。
大きな目標へ、その距離と時間。
遥か遠くではない、しかし決して目の前でもない。
来季、選手スタッフ達を《どれだけ走らせるか》。そして、
自らも《どこまで走るのか》。
沢木さんの胸の内はわからない。
グラウンドに立つ沢木さんは、一人一人の選手達をねぎらっていた。その目に穏やかな笑みを浮かべているように見えた。
私は会場を後にした。
バス停の脇に、ひっそりとクローバーの白い花が咲いていた。深い緑の海がその奥まで広がっていた。乾いた風が吹いていた。
〜あとがき〜
新監督沢木敬介さんの下で走り出した『新生キヤノンイーグルス』の初心者観戦記、今回が最後となりました。
若い頃から、『名将』と呼ばれる人に関する記事を読むのが好きでした。
野村克也さん、星野仙一さん、仰木彬さん、権藤博さん。サッカーならイビツァ・オシムさん、ラグビーなら母校の監督上田昭夫さん、現協会副会長の清宮克幸さん、そしてもちろんエディーさん。
さて、沢木さん。あの年齢で驚く程輝かしいご経歴の方です。
一体、どんなところが『名将』なのか?早速雑誌やネットの記事等を読みましたが、なぜか納得がいく記事に出会う事ができませんでした。それなら自分で考えよう!それがこの観戦記を書くそもそものきっかけでした。
沢木さんは、
語彙が豊富、というより、
効果的に言葉を使い分けられる方
だと感じました。そして内容も
基本は理を重んじ、しかし必ず情にも訴えかける、言葉に説得力を生むバランスが絶妙でした。
しかも論理は具体的で明快、とてもわかりやすいのです。
そんな沢木さんの試合後インタビューは、毎回読むのが楽しみでもありました。
だから沢木さんは『怖い』と言われるのでしょうか。その指摘が良くも悪くも的確だからかもしれません。わかりやすいからこそ、誤魔化すことは許されない、それはある種の緊張を生むのかもしれません。
単なるラグビーファン、しかも初心者ですから、一シーズンかけても当然微々たることしか掴めません。とはいえ、とても刺激ある知的な時間を過ごすことができました。
この観戦記を書くにあたっては、もしも沢木さん始め選手スタッフの皆様の目に止まっても、読むに耐えうるものにする、そう決めて、公開後も推敲、編集を繰り返してきました。今季最も躍進を遂げたチームの皆様へ、一ファンからのささやかなエールになっていれば幸いです。
この試合、日本選手権優勝を本気で目指すチームとは何か、ハッキリわかった試合でもありました。
まだ遠い、しかし姿はうっすらと見えている、今はそんなところでしょうか。でも、
来季目指すのは、日本選手権優勝❗️
以前こんな芝居の台詞がありました。
先走った記事も、時に真実の先取りだ
この目標をかなえるまで、ファンは応援を続けます。
沢木敬介監督、スタッフ選手の皆様、そして、学生時代の憧れ、私をイーグルスに導いて下さった永友洋司GM、本当にお疲れ様でした。
来季から横浜をホームタウンとするイーグルス、その更なる躍進を心からお祈り申し上げます。
イーグルス一ファンより