ヤマハ発動機ジュビロ初心者観戦記☆プレーオフトーナメント二回戦〜《この壁》を飛び越える〜
1. 《Mr.Canterburyを追え❗️@EDOGAWA》
江戸川区陸上競技場 1,500m
東京メトロ東西線・西葛西駅近くの案内板
初めて降りる駅、初めて行くスタジアム。
徒歩20分 大したことないじゃないか。
私は2週間前、熊谷駅と熊谷ラグビー場を結ぶ《スクマムロード 3.6km》を踏破したばかりだった。
スクマムロードは手強かった。
もうダメかも、と心が折れかかった頃、道路の片隅にクマの標識が見えた。
【🐻もう歩かない、なんて言わないで!熊谷駅まであと1.1km🐻】
このウソみたいな標識に半ギレになりながら私は熊谷駅にたどり着いたのだった。
1.5kmくらいどうということはない。
問題は道順だ。住宅街を抜けていくらしい。私は周りを見回し、尾行のターゲットを探した。
Mr.Canterburyを狙え!
カンタベリー。ラグビーファンなら必ず一つは身につける。ファンでなければまず買わない。
このラグビーファン御用達のブランド。これを身につけた人について行けば絶対に迷わないぞ!
私は、早速バッグにロゴ入りラグビーボールストラップをつけたご夫婦の後ろについた。これで安心、
ではなかった。ご夫婦はすぐ目の前のローソンに入っていった。まずい!
すぐに次のターゲットを探す。ロゴ入りの帽子を被ったMr.カンタベリーを発見!この方の後をつける。ようやく安心、そうはいかなかった。
緑に囲まれた公園に入った頃だった。隣を歩くMrs.カンタベリーに電話が入ったのだ。2人は立ち止まる。私は焦った。すると、
『こっちが近い』
野太い声で奥様に道を指す男性がいた。いかにもラグビー経験者風大柄の男性。この人だ!よく見ると、リュックにロゴがある。おお、あなたもMr.カンタベリー!ついて行きます!
私は、このご夫婦の後を追い、無事今日の会場【江戸川区陸上競技場】にたどり着いた。
メインの出入口は関係者が使用するらしい。
その向かいに両チームのテントが並んでいた。
私は定期に入ったファンクラブのカードを提示してサイン入りカードを受け取った。
今日は松本力哉選手。今日は20番。期待してます‼️
ハリセンはご遠慮した。もう2本分いただいている。
それにしても、、
どこから中に入るのだろう?入り口がわからないスタジアムなんて初めてだった。メインの出入り口の脇に、業者通用門みたいな入り口がある。観客はその階段を登っている。私は後からついていく。
無事スタジアムの中に入ったものの今度は席が見つからない。アタフタしながら気がついた。
ここは、メインスタンドからの入り口しかない。バックスタンドの私は、ここから芝生席を横切って反対側に回るのだ。
ふと下を見ると、そこはヤマハの選手出入り口だった。ファン達は手すりにもたれて誰かを追っているようだ。既に選手が何人もウエイトトレーニングを始めていた。いや、
それだけではない、、、
タッキーさんだ‼️‼️
長谷川慎ハイパフォーマンスコーチ、大久保直弥HCと共に
《憧れのタッキーさん》事
堀川隆延ヤマハ発動機ジュビロGM兼監督も姿を見せていた。
私は慌てて小さなデジカメを取り出しシャッターを切った。しかし、よほど慌てたのだろうか。画面に写っていたのは、なぜか大久保さんだった。
この時ばかりは『彼』になりたかった。
* * *
その後もタッキーさんはその付近を出たり入ったりしていた。
目の前の手すりは空いていたが、なぜかそこには近寄れなかった。私はカメラを持つ手を下ろし眼下にある光景を眺めていた。
プレーオフトーナメント二回戦
ヤマハ発動機ジュビロvsクボタスピアーズ
負けたら終わりの一戦に、言いようのない張り詰めた空気が満たされていた。
選手が、というより見守るファンの方が醸していたのかもしれないが。
タッキーさんは、選手やスタッフと言葉を交わしている。こんな間近で見るのは初めてだった。
選手達は徐々にグラウンドに入っていく。私もバックスタンドに向けて再び歩き始めた。
負けられない戦いを前にしたその横顔は、とても美しかった。
2.《あの人》のためにも
試合前練習が始まった。
私の後ろにコアな男性ファンが座っているらしい。
『ああ、ゴローがいる!』
その声に、私は目を凝らしてメインスタンド奥を見つめた。
ポロシャツ姿の五郎丸歩選手がいた。
おそらく怪我をしている。今日は控えにも入っていない。
勝たなければ!勝ってゴローさんをエコパに連れて行かなくては!
ここに集うヤマハファンの切なる祈り、それに応えるかのように、選手たちの練習は熱を帯びていった。
いつもとは違う。選手達の魂から、何かが湧き上がっているような《濃い強い熱気》がグラウンドを覆っていた。
今日は、慎さんも一層声を張り上げ選手を鼓舞している。低く籠った声がグラウンドに響いていた。
大久保さんはにこやかに見守る。時々、その眉間にかすかな皺を寄せて。
タッキーさんはBK陣の練習をリードする。いつにも増して体を動かし、選手に声をかけ、その気持ちの高ぶりが伝わってくる。
さて、このスタジアム、
トラックがグラウンドと観客席を隔てているのに、その距離感は驚くほど近かった。シャッターを切るのを思わずためらうほどだ。
しかし、、なんと落ち着かない風景だろう。周囲にはマンション群が迫り、横には首都高が走っている。なにより、このポール、短すぎないか⁉️
申し訳ないほど小さい電光掲示板。トップリーグのレベルで使用するには少々物足りない。
移動式の電光掲示板の方で選手紹介がささやかに始まっていた。
今日の注目はヤマハ15番 奥村翔選手
新人一年目の大抜擢。ゴローさんの分まで腹を括ってやるしかないぞ!
このスターティングメンバー発表には、ヤマハファンならずとも驚かされた。
今、改革期にあることが明らかなヤマハ。
この試合が《希望へと続く分岐点》となりますように。
選手達は一旦引き上げていく。タッキーさんは選手達に声をかけていた。
一戦必勝の戦いが始まる。
3.前半
《試合経過》
3’
0-5
伊東力(ヤマハ)
4’
0-7
奥村翔
バーナード・フォーリー (スピアーズ)
12’
5-7
バーナード・フォーリー
14’
7-7
バーナード・フォーリー
22’
10-7
トゥパフィナウ (スピアーズ)
25’
15-7
バーナード・フォーリー
26’
17-7
29’
17-7
奥村翔(ヤマハ)
ペナルティトライ
29’
24-7
38’
24-7
清原祥(ヤマハ PG失敗)
前半終了
選手達が入場してきた。
いや、通用口からゾロゾロと出てきて歩いている。どういうことだ?
どうも《中央まで歩いて、ここで止まって、ここから走って欲しい》、という指示があったようだ。なんだか芝居の舞台裏を覗いたようで変な感じがする。
今度こそ、大戸主将を先頭にヤマハ戦士がグラウンドに入ってきた。円陣を組み深呼吸を繰り返す。
クボタスピアーズの選手も入場してきた。年々強さを増し大型補強も辞さないチーム。今季はサントリー、トヨタと激闘を演じたばかりだ。
強い、間違いなく強い。
きっとヤマハの現在地を知る試合になるのだろう。
試合が始まった。
開始早々ヤマハは躍動する。第7節のパナソニックと比べると、スピアーズのスピードと圧は緩やかに見えた。ヤマハはマイボールラインアウトから何度となく力で前進、清原選手からの絶妙なキックパスを、そのまま伊東選手がトライまで結びつけた。
力強く鮮やかな連携がそこにあった。
開始5分も経っていない。
やるじゃないか!NTTドコモ戦で見せた勢いがチームに宿っていた。
キックを任されたのは、今日注目の人
奥村翔選手。
落ち着いて決めた。私の後ろで、
『新人だってさ、落ち着いてるよね。』という声が聞こえた。
その後もヤマハは攻め続ける。
が、しかし、この2度目の波状攻撃がトライに結び付かなかった。この辺りから歯車は少しずつ軋み始めたのか。
同時に、スピアーズは徐々にそのパワーを見せ始めヤマハに圧をかけてきた。
ノット・リリース・ザ・ボール
この言葉をこの試合何回聞いただろう。
攻撃の、まさにここぞという場面で、スピアーズはヤマハからボールを奪取した。
加えて、敵陣でのラインアウトのミスも痛かった。
ヤマハは徐々に攻撃の好機を失い、攻守は交代していく。その必然として、スピアーズはトライを決めてきた。
ヤマハの防御は後手に回っている。
14分に同点。その後1つのトライとPG一本を決められて、10点差をつけられた。ただ、これで前半が終わればまだ許容範囲だったと思う。
奥村選手の敵陣での《シンビン&認定トライ》というジャッジ。厳しすぎるのでは?と私の周りも驚いていたが、この状況まで奥村選手が追い込まれたこと自体に問題がある。
24ー7 前半終了。
点差以上にチームの勢いの差を感じてしまった。ヤマハは自らのスタイルに迷っているのか、いや、ヤマハスタイルに持ち込めないほどの力をスピアーズが見せているのか。
エナジー という言葉。
今日のヤマハには、たしかに感じられるのに。
今チームに何が起こっているのか、初心者の私には分からなかった。
4.後半〜この現実、これから〜
《試合経過》
ピーター・ラピース・ラブスカフニ
13’
29-7
バーナード・フォーリー
15’
29-7
15’
29-7
ヴィリアミ・タヒトゥア→サム・グリーン(ヤマハ)
バーナード・フォーリー
20’
32-7
バーナード・フォーリー→岸岡智樹(スピアーズ)
21’
32-7
テアウパシオネ→ライアン・クロッティ(スピアーズ)
21’
32-7
32’
32-12
奥村翔(ヤマハ)
33’
32-12
奥村翔(ゴール失敗)
ピーター・ラピース・ラブスカフニ (スピアーズ)
34’
37-12
ゲラード・ファンデンヒーファー スピアーズ)
35’
39-12
ピーター・ラピース・ラブスカフニ
37’
44-12
ゲラード・ファンデンヒーファー
38’
46-12
ノーサイド
おそらく、この試合を見た誰もが思うだろう。
《後半最初のスクラムが、勝負の分かれ目だったのか》と。
開始早々敵陣深くに入り、ヤマハはマイボールのスクラム。
一体何度組み直した事だろう。山本選手は声を上げる。伊藤選手が歯を食いしばる。名嘉選手の息は荒い。粘り強く組み続けるヤマハFW陣。ハリセンの音の波がヤマハを後押しする。しかし、
ノット リリース ザ ボール
この8分近くに及ぶ一連の攻防でトライに至らなかったこと、
ゴールライン目前で、しかもスクラムから、得点に結びつかなかったこと、
この【現実】が、今季の全てを象徴しているかに見えて、ファンの心を少なからず折ってしまった。
スピアーズのラピース選手のトライはその直後に決まった。
コンバージョンも決まって
29ー7
3トライ3ゴールでも追いつかない点差。
ここで勝負が決してしまう訳ではない。残り時間を考えると逆転のチャンスは十分残されていた。
しかし、この時その気迫がヤマハから見えなかった。なんと形容したら良いのだろう。チームの中で何かが混沌としているかに見えた。
この時、交代でサム・グリーン選手が入る。
やはり、彼は今季のヤマハのキーマンだったのだろう。ここからゲームは少し落ち着いてくる。この時間帯にどんな形でもヤマハに得点があれば試合はもう少し緊迫したかもしれない。
しかし得点はスピアーズの方が早かった。この交代から約5分後、スピアーズの心臓たるバーナード・フォーリー選手がPGを決める。
32ー7
勝負そのものはここで終わってしまった、おそらく。
この後、ヤマハには救いがあった。後半唯一のトライを挙げたのは、あのシンビンを受けた奥村選手だった。前半の許されないミスを自ら克服してくれた。サム・グリーン選手のパスから一気に加速、敵の防御をすり抜け、まるで吸い込まれるようにゴールラインに飛び込んでいった。
私も含めて観客席のファン達は、この時間帯、スピアーズの衰えぬパワーとスピードに驚かされていた。この日ハットトリックのラピース選手の個人技、リズミカルな連携の速攻、ボールを奪い取る腕力、それらはむしろ後半終盤にかけて増しているようにさえ思えた。
ヤマハは、幾度かチャンスを掴むもそれがトライに至らない。
選手達にエナジーがなかったわけではない。何かが選手達に襲いかかっているかに見えた。。スピアーズが、ではなく、もっと大きな、目に見えない何かが。
ノーサイド
46ー12
五郎丸選手をエコパに連れて行くことはできなかった。
試合後、選手達はメインスタジアムの通路下に集まった。通路下に向かう選手達に、タッキーさんと大久保さんはねぎらいの手を差し伸べていた。
ここでどんな会話があったのだろう。円陣は長い時間解かれなかった。
勝ったスピアーズからは、陽気な歌声が聞こえてきた。
勝者と敗者 その明暗が目の前にあった。
聞き違いでなければ、
ヤマハの円陣から
パン!一本締めの短い音が聞こえた。そして選手スタッフ達は通路下を出て、それぞれの場所に散っていった。
通路の上では、既に多くのヤマハファンが手すりにもたれていた。
帽子、マフラー、ユニフォーム、ハリセン、、
ファンが奏でる《サックスブルーのさざ波》
それは試合終了直後からそこに打ち寄せ、激しい戦いを終えた選手達を静かに見つめていた。
〜あとがき〜
【ヤマハ発動機ジュビロ☆初心者観戦記】は今回が最終回となりました。自宅に試合の録画はしてありました。でも今回ばかりは、スタジアムで見た《そのままの気持ち》を言葉にしよう、悩みましたがそう考えて筆を進めました。その分、試合内容については不十分な点が多々ありますがお許しいただければと思います。
観戦記を書き始めた時、まさかここまでヤマハが苦しむとは予想もしていませんでした。
海外スーパースターの大量来日、長期間の練習禁止、テレビ放映という大人の事情も含む近年のラグビー戦術の変化。コロナ禍は、《組織》で戦うヤマハ、《育成》を重視するヤマハ、に大きな試練を与えたのではないか、観戦記を書き重ねる中で様々なことを考えました。
観戦記を書き進む中で1番大切にしたこと、それは
寄り添う
という気持ちです。
嘘も誇張もなく、目の前で起きたことを出来るだけ客観的に描く、その作業の中で、選手の皆さん、スタッフの皆さんの熱意と努力に思いを馳せ共感する、という気持ち。別の言葉に言い換えれば、やはり
リスペクト
になるでしょうか。
もし万が一、堀川GM兼監督をはじめヤマハ指導陣、選手の皆さんの目に留まることがあっても、その目に耐えうるものを書こう、そう決めてから、noteへの投稿前、投稿後も、推敲と編集を繰り返しました。
チームへのささやかな応援となれていましたら幸いです。
大戸裕矢主将、今季で引退される五郎丸歩選手他ヤマハ発動機ジュビロ選手の皆様、
堀川隆延GM兼監督、大久保直弥HC、長谷川慎ハイパフォーマンスコーチ他ヤマハ発動機ジュビロスタッフの皆様、
トップリーグ最後のシーズン、本当にお疲れ様でした。
新リーグに向けて、《新しいヤマハスタイル》が一日も早く完成に至ることを心からお祈り申し上げます。
ヤマハ発動機ジュビロ 一ファンより
【生観戦したヤマハ戦の観戦記はこちらから💁♀️】
vs NECグリーンロケッツ戦
vsパナソニックワイルドナイツ戦