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クボタスピアーズ初心者観戦記☆日本選手権準決勝☆vsサントリー〜Orange Armyは《此処》にいる〜

1.この『灯』のために

私は数日前、一年半ぶりに、この場所に『還って』きた。

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赤絨毯の螺旋階段を登った先に、90分間の『愛と夢』が待っている。

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出演人数を減らした舞台、その隙間を埋めるべく鳴り響く手拍子と拍手、客席のあちこちからすすり泣く声が漏れた。

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この劇団の本拠地に程近いJR宝塚駅から約1時間半、大阪環状線外回り、近鉄奈良線とを乗り継いでたどり着いた先にも又、《愛と夢》の詰まった場所がある。

東花園駅。

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駅前から『スクラムロード』なる道を抜けた先に、その《聖地》はある。

東大阪市花園ラグビー場。

ひとは『はなぞの』と呼ぶ。奥に柔らかな山肌を見せるのは生駒山だと聞いた。

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ここで『夢』を追う者たちは皆、滝の様な汗を流し、時に血を流すことも厭わない。

『高校ラグビーの聖地』としても知られるこの場所で、この日一つの大切な試合が行われようとしていた。

5月16日

ジャパンラグビートップリーグプレーオフトーナメント兼日本選手権準決勝

サントリーサンゴリアスvsクボタスピアーズ

この対戦、ラグビーファンなら誰しも『遠征』して興奮と感動を分かち合いたいと思うだろう。

しかし、この日の『はなぞの』観客席にファンはいない。

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赤と青の座席で描かれたHANAZONOの文字がくっきりと浮かび上がる。

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無観客試合。大阪府は今も緊急事態宣言下にある。

今、全てのラグビーファンにとって『はなぞの』は画面の向こうにある。しかし、

サンゴリアスファンは、黄色いタオルを掲げ、

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スピアーズファンはオレンジの『隊服』に身を包み、

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力の限り声援を送るだろう。

ラグビーという『灯』を消さない!80分間、その思いを胸に。

この日、選手達の耳には、その歓声も拍手の響きも届かない。しかし、無人の観客席は、

既に幾千幾万のファンの『愛』で埋め尽くされている。あの日の様に。

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2.前半〜全ては1人の天才から〜

選手入場の音楽が流れた。

この日の花園は、朝からの雨が止んだばかり。

気温21℃、湿度84%、蒸し暑い。

TVは、いつもは映さないロッカールームの中を映していた。両チームともに円陣を組む。

選手入場。

まずはクボタスピアーズ。司令塔フォーリー選手を欠いて、急遽立川キャプテンが10番をつける。わずか1週間前、灼熱の静岡で50分間14人で神戸製鋼を撃破、その勢いを見せられるか。

世界の王様は 俺達を恐れてる 新しいルールは 俺達が 作るんだ (『ロミオとジュリエット』挿入歌『世界の王』より抜粋)

クボタスピアーズ、激変するラグビー界で、新たな王者に名乗りを挙げられるか❗️

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サントリーサンゴリアスが入場、主将の中村選手、W杯戦士流選手、あのバレット選手の姿も見える。控えのメンバーも万全。

前日の準決勝、パナソニックワイルドナイツはトヨタ自動車ヴェルブリッツを相手に快勝していた。サンゴリアスは、このワイルドナイツと昔も今も『王座』をめぐり争ってきた。

サンゴリアス、今季も『王者の風格』を見せつけるか❗️

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音楽が止み再び静寂が訪れた。

試合が始まった。

サンゴリアスは準々決勝中止により2週間のブランクがあった。

疲れているのか、クボタが。あるいはサントリーに1試合なかったことで調整が難しかったか、どう見るかですよね

村上晃一さんの指摘は、ファンも一番気になるところだった。

序盤はスピアーズが攻勢に出た。FW陣はマルコムマークス選手を中心に、サンゴリアスにボール保持を許さない。腕をグリグリボールに差し込んでくる。

ここでテレビは両チームHCの姿を映した。

ミルトン・ヘイグHC 57歳 白い髪に黒のストライプシャツが知的な雰囲気によく似合う。

フラン・ルディケ監督53歳 紺のスーツに身を包む。貫禄十分。眼光は鋭い。

7分、早くもスピアーズはPGを成功させる。

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3-0スピアーズ先制!(以下、スピアーズ、サンゴリアスの順に点数を表記)

サンゴリアスは、この後キックを多用するようになる。

芝は水をたっぷり含んでいる様だ。ボールがどうバウンドするか。

サンゴリアスは14番中靏選手が猛然と走り込んできた。立川選手がなんとか外に蹴り出す。

速いということは、強いという事

藤島さんはいう。

サンゴリアス、ゴールラインまで5メートル。

ここからしばらく、両チームは主導権を奪い合いながらこの付近で攻防を続ける。

モールで、スクラムで、力比べが続く。

働き者ですよね

藤島さんが南ア出身のスピアーズ選手達を讃える。

南アフリカでは2メートルでは驚かない。

村上さんと藤島さんが口を揃える南アフリカ出身選手の強さ。南アはオランダにルーツを持つ国民がいる多民族国家。

フィジカルバトルはクボタ有利でしょうね

村上さんは、今日のサンゴリアスBK陣が揃って日本人である事の比較としてそう口にした。

今日サントリー、キック使いますね、早い段階で。

藤島さんは指摘する。

そして『兄さん』の出番が来た。私が勝手に『兄さん』と呼ぶスーパースター。

ボーデン・バレット選手

あらかじめ決めていたのだろうか。流選手はチラリと後ろを見て迷わず『兄さん』にボールを投げた。

ドロップゴール‼️

3-3

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1番右の列、上から3番目の選手が『兄さん』。この位置から決めてきた。

『兄さん』、ドロップゴールって、こんな簡単に入るものなんですか⁉️

矢野さん曰く、日本では初めて、との事。

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モーションがコンパクトで速いですよね

村上さんは指摘する。たしかに、リーグ戦で何度も『兄さん』のキックを撮影したが、今ひとつ『映えない』のだ。でもそれこそが凄さなのか、と実感する。

藤島さん曰く、『兄さん』は子供の頃アイルランドに住んでいて、キックを多用する《ご当地スポーツ》の『ゲーリックフットボール』をしていたらしい。

しかし直後にサンゴリアス、オフサイドのペナルティー。初心者には難関ルールの一つ。いまだよくわからない。サッカーと同じなんだろうか。

 スピアーズはPG見事成功!

6ー3

サンゴリアスはその直後、バレット選手の巧みなパスで中野選手が一気に抜け出す。スピアーズはたまらずボールを自陣で押さえる。サントリーボールのスクラム。ゴールラインまで5メートル。

スピアーズは必死の防御、しかしペナルティー。

『兄さん』のキック成功

6ー6

サントリーがキックを多用するのはクボタのFWを走らせることにもあると思うので

走らせる=疲れさせる、ということ、らしい。

村上さんはそう指摘して、勝負は後半と話した。

再びサンゴリアスは巧みなキックでスピアーズ陣内になだれ込む。

猛烈に走り込むサンゴリアス、トライは免れたもののスピアーズはペナルティー。

『兄さん』のキック成功

6-9

常に7.8割の力でやってる様な、涼しげな

村上さんはキックを終えて静かに笑みを浮かべる『兄さん』をこう表現した。

そういえば、テレビで見たTJペレナラ選手も試合中ずっとスマイルだった。

試合は、開始から30分になろうとしていた。

気がつくと、サンゴリアスがもっぱら敵陣で試合を進めるようになっていた。そして、

この試合唯一のトライ、それも『兄さん』から始まった。

13番にパスする、と一旦見せかけてタイミングをずらし12番にパスしたことで、スピアーズのディフェンスにズレが生じた。(これはNHK解説砂村さんのコメント)江見選手のトライも、スピアーズ選手ともつれながら上手く決めた。

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サントリーは日本人選手の上手さ、層の厚さが際立ってますよね

ワイルドナイツ同様ここが強さの源なのだろう。

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キックは失敗

6ー14  8点差。

スピアーズは久々に敵陣に攻め込む。しかし、

ノット・リリース・ザ・ボール

サンゴリアス中村選手の鼻から血が吹き出している。

前半終了のホーンが鳴った。スクラムでレフリーと選手達の駆け引きが続く。こんなに会話が多いスポーツも珍しい。サンゴリアスはボールを外に出した。

ここで前半終了。

点差は開いてない。しかし、サンゴリアスのある種老獪な戦術は、スピアーズにジワジワと効いているのだろうか、この時点ではまだ分からなかった。

3.後半〜俺たちは此処にいる〜

差が開いてしまうと頑張れない、時間ギリギリまで僅差で、、持って行けるかどうかですね。

後半開始早々ペナルティーを犯したスピアーズを、村上さんは激励する。

最後の20分でゲームを決めたい

サンゴリアス・ヘイグ監督の言葉を矢野さんが紹介した。

その間に『兄さん』はキックを成功させる。

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6ー17 11点差。

スピアーズは、立川キャプテンを中心に攻撃を立て直す。

サントリーのペナルティー、立川キャプテンはショットを選択した。

ファンデンヒーファー選手のキック成功!

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9ー17  8点差!

しかしその直後自陣でスピアーズが痛恨のペナルティー。

サンゴリアスもまたショットを選択。

キック成功。『兄さん』は安定している。実はまだ29歳。現役バリバリのオールブラックスは役者が違う。

9-20 再び11点差。

ここでスピアーズは、SO岸岡智樹選手を投入、立川キャプテンを本来のポジションに戻す。

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コロナ禍に翻弄された2020年度入部組。グラウンドには、早稲田で共に戦ったサンゴリアス中野選手が立っている。そして相手10番は『兄さん』だ!

この時間、この戦況での投入、その責任の重みは計り知れない。とはいえ試合に新人もベテランもない。ただ結果を出すのみ!

村上さん曰く、

ディフェンスを安定させる

ということの様だ。

サンゴリアス中村選手の絶妙なタッチキックで再びサンゴリアスはゴールラインに近づいた。

スピアーズはペナルティー9個目。

またしてもサンゴリアスはショットを選択。藤島さん曰く『兄さん』はキックが上手いだけではなく足も速い。

対戦したトヨタの茂野選手が言うには『彼は足が速くて、いつ勝負してくるか分からないから、そこがまず怖いんだ』と、、

矢野さんの言葉に納得する。相手ディフェンスはどうしても『兄さん』寄りになるのか。

キック成功 9-23

両チーム選手交代も激しくなってきた。スピアーズはこの日FWを通常より1人多く6人で登録していた。

サンゴリアスのキックをスピアーズは取り落とす。転がるボールをすかさず流選手が取ってキック、陣地を回復する。

ゲームをコントロールしてきましたね。
テンポ上げてきましたね

矢野さんと村上さんの掛け合いの如く、サンゴリアスはジリジリとゲームの主導権を握りつつあった。

タッチキックで一度は難を逃れたが、攻め込まれてスピアーズはまたもペナルティー。

サンゴリアスの選択はやはりショット。

『兄さん』のキック成功

9ー26

時間はあと20分!

サンゴリアスのペナルティーで、スピアーズはようやく敵陣に入る。しかし、ボールに絡まれペナルティー。

サンゴリアスはスピードだけでなくパワーでもスピアーズを凌駕し始めた。

サンゴリアスに陣地を挽回されたものの、スピアーズはホネティ選手が突破口となり前進。

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マキシ選手も続く。内側にはホネティー選手

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しかし、『兄さん』がこれを阻止、続けて右に岡田→岸岡とつなぐが立川キャプテンにタイミングは合わなかった。ノックオン。

ここでマルコム・マークス選手が杉本選手と交代した。村上さんは言う。

今はGPSつけてるので『数字』で運動量落ちてるとかわかりますから

選手のユニフォーム背部についているGPSの役割を改めて知る。

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サントリーはスクラムに勝った。

ナイス!慎太郎!

流選手の声はよく響く。矢野さんは言う。

両チーム、一つのチームになっているのわかりますね

村上さんは応える。

上位に来るチームは、そういう一体感もあるし、チームの文化を作っていますよね。サントリーは強い時期が長いので、クボタはそういうところができてきましたね。

しかし、ここでスピアーズはノット・リリース・ザ・ボール。

完全にサントリータイムです

矢野さんの言葉に頷くしかなかった。

時間はあと15分。

キックは失敗 狙うと言ってから1分、というルール、蹴る瞬間にボールが動いてしまった。

クボタにまだ反撃の力は残っているか、そして気力、、

スピアーズはボールを繋いでいく。フェイズ7、.敵陣に入ってきた。しかし、

大外右への長いパスは通らなかった。

ここで、サンゴリアスは齋藤、田村、梶村選手を投入。

みんな、、日本代表クラスというか、、

解説陣も半分苦笑いに近い。

スピアーズは、パスを繋げ再び敵陣に入ってきた。立川キャプテンが、ホネティ選手がはしる!

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サンゴリアスのペナルティー。

ここでテレビは、観客席に座るスピアーズのベンチ外選手を映した。

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今年はスタンド、オレンジの印象強いですよね。

しかし、スピアーズはマイボールのラインアウトでボールを確保できない。サンゴリアスはキックですかさず敵陣に入り、『兄さん』が絶妙な場所にボールを落とす。藤島さん曰く

顔の向きと違うところに蹴りましたね

江見選手トライか、と思われたがその前にサンゴリアスのペナルティーが認められ、その位置、サンゴリアス陣内深い地点に戻り、スピアーズボールで再開となった。岸岡選手がボールを蹴り出す。時間はあと7分。

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いつのまにか、花園には日が差し込んでいた。矢野さんは言う。

鮮やかなオレンジ、そして黄色のジャージ、緑の芝に浮かび上がります!

スピアーズはゴールラインに迫る。

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守るサンゴリアス。

押し込むスピアーズ・マキシ選手!しかし、、

グラウンディングは認められなかった。

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再びスピアーズの5メートルスクラムに。

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岡田選手が飛び込んだかにみえたが、、

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グラウンディングには至らない、という判定。

再びスピアーズボールのスクラム。

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岸岡→立川、そしてホネティ選手へオフロードパス。しかし、

繋がらなかった。ノックオン。しかしその後サンゴリアスにもノックオン。

再びスピアーズボールのスクラム。

時間はあと1分!

スピアーズ岡田選手の顔に何本も芝がへばりついていた。

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観客席から手拍子が聞こえてきた。これは選手達の手拍子❗️選手達はトライに挑む❗️

やっぱり立川!先頭に立ちます!

ここでホーンがなった。

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しかし、スピアーズにノックオン。

ノーサイド。

26ー9 サントリーサンゴリアスの勝利

ここでオレンジ旋風は幕を下ろすことになります。

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『兄さん』と岸岡選手が握手を交わす。

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『兄さん』の後ろには、かつての盟友斉藤選手が待っていた。

立川キャプテンは相手チームを讃える。

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両チームの監督が互いをねぎらう。

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準決勝、決勝は、一つずつですね、階段は

藤島さんはそうスピアーズの健闘をたたえた。

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立川キャプテンの左手にはいつもの緑のテープが巻かれ、額には一筋の芝が見えた。

スピアーズはノートライ。

決勝という扉はやはり重かった。

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しかし、Orange Army達よ、

立ったのは日本選手権準決勝の舞台。チームの歴史に確かな足跡を残した。

その誇りを胸に刻み、来季は決勝の舞台で力の限り叫ぶのだ。

《俺達は『此処』にいる》と。

〜あとがき〜

無観客試合の準決勝。ラグビーの試合で初めて見る光景に、想像以上のショックを受けました。

数日前に訪れた宝塚、コロナ禍がいかにエンタメ界に深い傷を負わせたのか実感していただけに、この無人の試合に望んだ両チームの選手の皆様には言葉もありません。

この観戦記はスピアーズの視点からかきましたが、サンゴリアス選手の皆様への敬意を忘れないように筆を進めました。

最後の言葉は、決勝に挑むサンゴリアスへのエールでもあります。

サントリーサンゴリアスの皆様、23日秩父宮で、心のかぎり叫んでください。

《俺たちは『ここ』にいる》と。

                       *   *   *

【クボタスピアーズ準々決勝の観戦記はこちらに💁‍♀️】

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