クボタスピアーズ初心者観戦記☆プレーオフトーナメント準々決勝☆vs神戸製鋼〜Orange Armyは《夢の花束》を抱え〜
1.前半〜Orange Armyの進軍〜🦄
頭上三枚の旗が風で激しく波打っている。
5月9日 静岡県袋井市
江戸からも京からも27番目の宿場『袋井宿』
歌川広重筆『東海道五十三次』には、長閑な田園地帯として描かれた。右側の立て札に止まっているのはツバメ。広重は、丁度今の時期を描いたようだ。初版出版は1834年。
そして今、2021年。187年後の『袋井』。
『こだま』『友達』を意味する単語を組み合わせた造語《ECOPA》
その名を冠する最大収容人数50000人のスタジアムが建つ。この日は、突き刺すような陽射しの中にあって、絶えず強い風がグラウンドに吹きつけていた。
ジャパンラグビートップリーグ・プレーオフトーナメント準々決勝
神戸製鋼コベルコスティーラーズvsクボタスピアーズ
言わずと知れた関西の雄、神戸製鋼。今年はヒヤッとする試合がいくつかあったものの、ここまで負けなし。順調に駒を進めていた。
対するクボタスピアーズ。着実に力をつけてきた。今季はマルコム・マークス選手の加入もありチーム力はさらにアップ。プレーオフトーナメント2回戦では、ヤマハ発動機ジュビロに快勝、この決戦の場に乗り込んできた。
あくまで挑戦者はスピアーズ。とはいえ、
きっと緊迫した展開になる❗️
多くのファンが迷いなく予想するほど、今季のスピアーズは強くなっていた。
しかし相手はあの『神鋼』。少しの隙も許されない。あの美しく華麗なパスの連携、果たして止め切れるか。
選手が入場してきた。始めにクボタスピアーズ。
この日はセカンドジャージ。コバルトブルーが芝の緑に映える。そして鮮やかなピンクのソックス。
スピアーズ Mother’s DAY
この日は母の日だった。母を知らない人、母を母と呼べない人もいるだろう。ただこの日ばかりは『この世に私を生んでくれた人』に想いを馳せたい。
その鮮やかな足下、【質実剛健】を絵に描いたスピアーズ戦士達にはミスマッチにも見え、かえって微笑ましい。
続いて神戸製鋼が入場してきた。豪華な顔ぶれが並ぶ。ここは単なる通過点、目指す先は頂点、それのみ。
スピアーズはこの高き赤い壁を乗り越えられるか。
試合が始まった。
(ここからは、神戸製鋼を神戸、クボタをスピアーズ、とよぶことにする。)
風は相変わらずグラウンドに立つ旗を横殴りにしていた。
それはわかっていたはずだが、、
開始を告げる笛と共に蹴られたボールは、神戸の選手の腕に収まらなかった。ノックオン。
スピアーズのラインアウト成功率は92.5%、これは全チームの中で2位
実況担当矢野武さんの説明は、スピアーズの好調ぶりを示していた。
緊迫した攻防がしばし続いた後のことだった。
それはバーナード・フォーリー選手からのパスから始まった。ボールを受け取りさらにパス、いやそれはフェイントだった。そのままボールを持ち疾走した立川選手。最後は右側に走り込んでボールを受けたシオネ選手がトライ!
その前、マルコムマークス、レスリングしてましたね、ラックで
解説の藤島大さんは、しっかりボールを確保した『スピアーズの頼れる2番』に注目していた。
スピアーズ先制❗️フォーリー選手のキックも確実に決まった。
0ー7
開始早々の得点、まだ神戸はどこかバタバタしている。
ここで、テレビはスピアーズHCフラン・ルディケさんを映した。53歳・南アフリカ出身・5シーズン目。ブルズを率いてスーパーラグビー2度制覇の名将、との事。どこか豪胆な雰囲気がある。懐の深そうな方だ。
今トップリーグ各チームの研究、分析の精度、上がってますよね
藤島さんが語る。お互い研究し尽くしている、おそらく。
ここでテレビは、神戸製鋼HCデーブ・ディロンさんを映した。46歳、ニュージーランド出身。静かに知的な雰囲気を醸している。
ここで神戸は、ペナルティーキックをヘイデン・パーカー選手が失敗、得点のチャンスを逃す。グラウンド内に吹く風は強く不規則に吹いているようだ。
この直後だった。
スピアーズの選手がスーッと前に抜け出した。そのまま加速してパス、ボールは地面に落ちたが、13番シオネ選手はなんとか拾い上げて11番ホネティ選手にパス、ここから一気に飛び込んだ。トライ!
そして再びフォーリー選手は確実に決める。
0ー14
意外な展開になってきた。
ここから、両チームの相撲を思わせる肉弾戦が始まった。神戸が低く襲いかかる。長身のレタリック選手が屈強なラピース選手を押し倒す。パワーとパワーの勝負。
ここで神戸がペナルティー。
しかし、フォーリー選手のキックは外れていった。
神戸は全てが後手後手に回っているのか。どこか落ち着かない。スピアーズにチャンスは続く、が、スピアーズにスローフォワードの判定、微妙ではある。
戸田さん、最後なんで、アピールするところ作らないと
この解説菊谷さんの言葉は勿論シャレだろう。戸田さんは、トップレベルの試合の笛を吹くのがこの日最後だという。矢野さんは笑っている。共に長い時を過ごされてきた。感慨深いだろう。
スピアーズ陣内、神戸はマイボールスクラム、しかしスピアーズの強い圧にノックオンのミス。
クボタ気合が入っているのが伝わってきます!
矢野さんは叫ぶ。
選手達は少々エキサイトしている。
美しい芝生に、もう点々とスパイクの削り跡が見える。
もうすぐ試合開始から20分。
ここで、スピアーズはゴールライン寸前まで攻め込むが、中島選手がボールに絡む。神戸のタックル、その勢いは凄まじい。
山下選手、縦のタックル凄いですよね
魚雷みたいな
教会の鐘🔔を投げつけたような、そんな感じですよね
とはいえ、神戸は攻められている。ミスが目立つ。
クボタはボールを持ち続けていたが、密集で神戸のペナルティー。
密集の中でまたも何かあったのか、神戸の日和佐選手が思い切り背中をどつかれていた。選手達はかなり熱くなっているようだ。
笛がなったら、爽やか。
戸田レフリーは、流石に両チーム主将にこう注意を促した。
フォーリー選手がキックの準備に入っている。距離はある。しかし見事に成功!
0ー17
フォーリー選手の準備の間、放送席はマルコムマークス選手の攻守にわたる絶大な存在感に話題が及んだ。
1人でも、倒れない。
菊谷さんはそう評していた。今季クボタの防御はより安定している。神戸は思うように前進できない。
スピアーズの鮮やかなピンクの足下が、グラウンドで躍動する。緑の芝に不思議な色彩のコントラストが生まれていた。
しかし、ここで事件が起こった。
スピアーズ陣内、フォーリー選手のタックルが危険なタックルと認定されたのだ。不幸な偶然に見えなくもないが。戸田さんの説明によると
①ダイレクトに顎に当たっている②高さは変わっていない。以上からファールプレーは間違いない。
すごく力が強いか、考えるのでノーマルでみよう、度合いを考えます。
この大事な試合での、重大な判断、レフリーとはなんて大変な仕事なんだろう。
レフリーの判断は決まった。
戸田さんは英語で説明して赤い札を掲げた。
レッドカード‼️
フォーリー選手は退場した。
まだ前半29分。
残り時間全てをスピアーズは14人で戦うことになった。
風は強くなっている。旗が千切れそうに揺れている。
神戸は、ゴールライン近くまで迫ってきた。
スピアーズは必死の防御。味方同士でぶつかったようだ。出血している。
緊急事態に陥ったチームを、主将立川さんが自らプレーで牽引する。左手には緑のテーピング、お母様の名前にちなんで巻いているとのこと。
神戸はこのまま攻め続ける。一度は奪われたボールを再び奪取、左に、右に、ボールは大きく動くが、スピアーズの壁は破れない。
フェーズ14
お互い鬼気迫る攻防、激しく体がぶつかり合っている。
最後ナエアタ選手が右隅に片手で押し込んだ、いや、直前に落としたのか?わからない。
『痺れるねえ、しびれるねえ』
戸田さんが思わず漏らした言葉。
そのせいだろうか。
普段はありえない戸田さんとアシスタントレフリーが超アップでTVに映し出された。
ものすごくカメラが、、戸田さんをアップ、、これもなかなかすごい❗️
矢野さんは堪えきれず爆笑している。
結局TMOとなった。ここで戸田さんは
フィールドデシジョンは、ノックオン。それを覆す理由があるか見ます。
という表現を使った。あくまで、【レフリーの目視が基準】なのだ。しかし、こうハッキリと言葉にしてくださるのは初心者にとてもありがたい。
判定は、やはりノックオン。神戸は重大な得点機を逃してしまう。
クボタボールのスクラム。ハリセンの音が調子を合わせて大きく響くようになってきた。
しかしボールは再び神戸に。
ここからは【いつもの神戸製鋼】、綺麗にパスが渡る。そして、
ヘイデンパーカー選手トライ!
自らキックも成功させた。
7ー17
ここでホーンがなった。
前半終了、心に高揚と新たな緊張が湧き上がっていた。
2.後半〜Orange Army 空を駆ける〜🦄
立川選手は左の頬骨あたりを腫らしていた。14人で、あと40分!
攻撃に勝る防御なし、ですね
菊谷さんは、後半のスピアーズについてそうコメントした。
マルコム・マークス選手、ラピース選手は倒れない。この心身共に強靭な選手達が体を張り続け、スピアーズをこの舞台に押し上げてきた。
この試合を見ていると、ラグビーが激しい接触を伴うスポーツであることを改めて実感させられる。
ここで神戸のペナルティー、スピアーズはショットを選択。しかしボールは大きく左に逸れた。
ここで、テレビは退場したフォーリー選手を映した。どこか表情は痛々しい。
ここで神戸は一気に攻め上がるが、立川選手がボールに絡む。矢野さんはこう表現した。
緑色のテープの腕がズボッと突き刺さりました
このスタジアム、色彩が。
藤島さんがつぶやく。
神戸の赤、スピアーズの群青とピンクが芝の緑の上で絶えず行き交っていた。客席には神戸ファンの赤、スピアーズファン達が身を包む《隊服》のオレンジが揺れる。その全てを空の青が覆っていた。
風は相変わらず選手を悩ませていた。スピアーズボールラインアウトだったが、ボールを神戸が奪取、縦に縦に突き刺さる神戸強力FW達。しかし、スピアーズが再び奪いかえす。
力と力。ひたすらぶつかり合う。
放送席は楽しそうだ。
これぞラグビー❗️そんな雰囲気が流れている。
その時、スピアーズ15番はリズム良くスルスルっと間隙を抜け一気に加速していった。これを機に再びスピアーズは攻勢に出る。
しかしまたボールは神戸へ。後半開始から勝負は膠着している。
あと約25分。
スピアーズは岡田選手が入ってきた。今日欠場した井上選手に代わり奮闘した谷口選手と交代する。背番号9の後ろ姿は、大役を果たしてどこかホッとした様子だった。フォーリー選手が笑顔で出迎えた。
スピアーズ陣内のスクラム、勝ったのはスピアーズ。腕を突き上げ、声を上げて喜ぶ選手達。
14人とは思えない活力が満ちている。
リーグ戦最後の二試合、中心選手をシンビンで何度も欠いてる、っていう経験があるかもしれませんね
すごく大きいと思いますね。練習でできないことを、、
放送席は、リーグ戦でのアクシデントがここで吉と出ていることを指摘していた。
この事情もあって、スピアーズは、サントリー、トヨタとの接戦を落としていた。
今思えば、この日のための試練だったのか。
神戸は華麗なパスが最後まで繋がらない。ノックオン。そして、またもスピアーズはスクラムに勝った。神戸はペナルティーを重ねた。
その後、スピアーズはPGを決めた。
喜ぶスピアーズの選手達、その頭上で、《オレンジアーミー》達がハリセンで喜びの音を響かせていた。
7ー20
あと20分!
神戸ボールのスクラム、
ハリセンの音がスタジアムの名の如く大きく響きあう。
ここからだった。神戸はパスを繋ぐ。そして一気に!クルーデン選手から、最後に走り込んだのは主将日和佐選手だった。
キックも成功。
14ー20 6点差
事態はにわかに緊迫してきた。
あと15分!
ボールは激しく動いた。攻守は再三入れ替わる。密集での応酬。たまらず菊谷さんがため息を漏らす。矢野さんは続ける。
観客席も、みんな息を呑んでみています、この攻防!
あと10分!
神戸が走った。スピアーズからこぼれたボールをすかさず奪取、そのまま雪崩を打つように前へ!
最後のキックは長すぎるように見えた。神戸とスピアーズの選手が重なるようにボールに触れている。
戸田さんはすかさずTMOを要求。戸田さんもアシスタントレフリーも【これはトライ】という判定、その前のレイトタックルの確認が必要らしい。
画面上では神戸の山下選手がギリギリ押さえているようにみえた。
他の要素はチェック不要との判断らしい。
神戸製鋼、ここでトライ‼️キックも成功。
21ー20
遂に逆転した。この試合初めてのリード。
あと8分!
トーナメントらしい点数になってきましたね
菊谷さんの声も緊張を帯びてきた。
神戸陣内、ラインアウト
ここで神戸のペナルティー❗️
両チーム選手達が倒れている。この日の袋井市は真夏日。
スピアーズ、ファンデンヒーファー選手はキックの準備を始めた。
PG成功‼️ 21ー23 スピアーズ再び逆転!
あと5分!
スピアーズはボールを保持、繋ぎながら前進していく。
手拍子、タイミングあってきました!
矢野さんの声も大きくなってきた。
ハリセンの音が絶えることなく場内にこだましあう。
スピアーズはボールをキープ、神戸にペナルティー。
あと2分!
テレビは、もう涙を流すスピアーズファンを映し出した。
攻める神戸、守るスピアーズ。
2点リードのクボタ、最後までクボタでいられるか。。次々と突き刺さってくる神戸製鋼。青い壁がボールをキープし続けています。。残りが10秒です❗️初のベスト4.四強が見えてきた。クボタスピアーズ、今、ホーンが聞こえる‼️‼️蹴り出すのはやっぱりキャプテン、立川理道‼️
声をあげて抱き合うスピアーズの選手達。
21ー23 2点差
スピアーズは、勝った。
14人で、最後まで戦い抜いた。
淡々とハイタッチを繰り返すルディケHC。
総立ちで手を叩き続けるオレンジアーミー達。
健闘を讃えあう両チームの主将。まさに激闘だった。
晴れやかなスピアーズ選手達の笑顔、左頰が既に紫を帯びた立川選手が、落ち着いた様子でインタビューを受けていた。
この日は母の日。今スピアーズの選手達が抱えているのは、【夢】という名の花束。
【『お母さん』、産んでくれたお礼に。ありがとう。】
* * *
観客席には、不思議なプラカードを持つファン達がいた。
スピアーズ岸岡智樹選手主宰のラグビーサークル『トモラボ』の会員達が応援に駆けつけていた。
『ト』、それはもちろん『トモキ』の『ト』。『トモラボ』の『ト』。
でもこの日、それだけではなくなった。
『トライ』の『ト』。
『トビラ』の『ト』。
準決勝、相手はサントリーサンゴリアス。
その重い『トビラ』を開いたら、秩父宮で何が待っているのだろう。
まだ見ぬ世界へ駆け出すために。
その《挑戦*トライ》への旅は、もう始まっている。
〜あとがき〜
クボタスピアーズ岸岡智樹選手主宰のラグビーサークル『トモラボ』に入会してから一年が経ちました。それまでほとんど知らなかったクボタスピアーズ。彼の歩みと共にすっかり身近な存在となりました。
初めて書いたスピアーズの観戦記。
準決勝、花園でのオレンジアーミーの躍動を、また言葉に残そうと思います。
クボタスピアーズの選手スタッフの皆様、準決勝進出おめでとうございます。
(テレビ観戦のため、画像はJSportsさんの画像を使用させていただきました🙇♀️)
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