ちょっと変わった田舎暮らし、はじめます。#4個別説明
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—ピピピピ…ピピピピ…ピピピピ…—
アラームの音とともに体を起こした。
珍しくアラームよりも早く目が覚めていた。
今日は実際に名川町に行く日だ。
個別説明を申し込んだときに書かれていた流れは、名川町役場のまちづくり部で担当者から説明を受けた後、空き家をいくつか見て回ってから、気に入ったところがあれば条件なども含め相談の上、手続きをして引っ越しに移る。
特に普通の引っ越しと何ら変わりないけど、約7年ぶりの引っ越しともあってちょっと緊張している。7年前は親の付きそいがあったけど、今は一人でやらないといけないから余計だ。
起きてから顔を洗って髪を乾かした。
それから、トーストを焼いている間に電気ケトルでお湯を沸かした。
こうすれば、お湯が沸いて粉末のコーンスープを入れていると、ちょうどよくトーストが焼けるのを知っているからよくやるルーティンワークってやつだ。
移動時間と天気予報を再確認しながら朝食を済ませると、部屋着から着替えた。
「スマホ、財布、ポーチはいつもより小さいやつ、手帳とボールペン、水筒、あとは定期か。」
このぐらいの荷物なら、お出かけ用のボディバッグで事足りる。
「あ、小説ももっていこうかな。最近読む時間なかったし。」
後から入れた小説が、余裕で入るとは。このボディバッグ、なかなかやるな。なんて考えながら身支度を済ませると、鍵をもって玄関へ向かった。
いつもより歩くだろうから、スニーカーを選んで部屋の鍵をかけた後、駅へ向かった。
駅の改札を通り抜けると、いつもとは反対方向の電車に乗り込んだ。
いつもとは違って余裕で座ることができた。
ここから4駅目で乗り換えて、あとは特に何も考えず終点まで乗っていれば名川町に着く。電車でやることもないから、小説を持ってきて正解だった。
電車は終点“日向台”についた。
実際に名川町に来てみると駅前は思っていたほど自然ではないけど、北に行けば自然豊かな地域になる。まさにトカイナカな雰囲気だった。
調べてみると特急で50分も揺られれば乗り換えなしで都会にも出られるし、慣れればだいぶ暮らしやすいところかもしれない。
駅にあるバスのロータリーに向かって、町役場に行けるバスに乗った。
バスの利用者はおじいちゃんおばあちゃんが多かった。
個別説明を申し込んだ時、ちょうど正午の時間に申し込んだのだけれど、15分も早くついてしまった。
町役場の玄関口に、『個別説明の方はこちら』と律儀に看板が立ててあった。その看板の指している矢印の方向へ行くと『地域づくり課』という札のかかった窓口があった。
予約時間まであと13分もあるし、窓口の前で小説を読んで時間をつぶそうとして、栞の挟まったページを開くと。
「あのう。すみません、もしかして個別説明で来られました?」
肌がこんがり焼けた気さくな雰囲気の男性がそこにいた。
「あ、はい。そうですけど…」
「お名前を確認させてもらってもいいですか?」
「亜厂圭です。」
「亜厂さんですね。ちょっと早いんですけど、個別説明を始めますので窓口の方におかけください。」
栞を同じページに挟みなおして鞄にしまった。
私と年が近そうな肌がこんがり焼けたその男性は中村さん。
てっきり市の職員から説明を受けると思っていたけど、中村さんも6年前に名川町に移住してきて今は農業をしているかたわら、移住者向けの空き家の管理を任せられているらしい。
中村さんから個別説明、と言ってもアンケートに記入した回答をもとに話を進めていく感じだった。
名川町の移住者向けサイトで知ったことをアンケートに記入しておいたから、説明の時間も6分ぐらいで終えた後、市の車に乗り込んで、実際に3件の空き家を見に行くことになった。
1件目から3件目にかけて、役場の近くからより田舎になって行く。
1件目と2件目は駅にもアクセスがいい南部と中部にある空き家だった。
よくある一軒家だったけど、少し一人で住むには大きすぎたし、あまり気に入る雰囲気ではなかった。でも、3件目を見たときは驚いた。
ずっとひそかにあこがれていた古民家で、一人で住むにも大きすぎることはない。まさに理想に一致していたから、中村さんと本格的に相談することに決めて、今日はひとまず家に戻ることにした。
最後まで読んでいただいてありがとうございます!
あと少しで、田舎暮らしが始まりますよ~
お楽しみに!
梔子。
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