ちょっと変わった田舎暮らし、はじめます。#2ピンチ
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今日は土曜日。仕事は休み。非常にまずい。
あれから5日しか経っていないのに、雲行きはさらに怪しくなっている。
何とかなるだろうとか思ってたけど、そう甘くはなかった。
朝職場に入ったら、まず挨拶するのが礼儀というか、ルーティンというか、『おはようございます』が飛び交うのを想像することは誰もが簡単なはず。
でも、私の後に入ってきた人と私が入ったととでは明らかに挨拶の数が少ない。目が合っているのに挨拶を返さない人がいた。さすがに、まずい。
この嫌がらせに気づいてから今日でもう1か月と3週間になる。
肩身が狭くなっているからか、最近朝起きて出社するのも、気持ち的にきつくなってきている。嫌がらせ、というかいじめのことが気がかりで仕事に身が入らない。
先輩の言う通り、ある日突然なんてことも本当にありえそうだ。
「はぁー。これからどうしよう。」
ベッドに座って顔を塞いでいると、あることを思い出した。
さっき通知音がしたのを聞いたので、おもむろに携帯を持ち上げてみると、宮野先輩からだった。
『もし今日時間あるなら、ご飯いかない?』
ちょうどお昼頃に返信したので、夕方6時からの約束になった。
何かあるのだろうかとソワソワしながら夕方6時、先輩とよく行く居酒屋の前で待っていた。
「お待たせ〜、何分ぐらい待ってた?」
「数分なんで全然ですよ!」
「先入っててくれてもよかったのに。」
「いえいえ、じゃあ入りましょうか。」
店内は土曜日なのに空いていたので、4人がけの半個室のテーブルに案内してもらえた。
「あの、何かあったんですか?」
「ん?何が?」
「あぁ、いや休日にご飯のお誘いって今まであんまりなかったから、何かあったのかなって思って。」
「圭ちゃんこそ、何かあったんじゃない?最近、嫌がらせ酷くなってるんでしょ。仕事でミスすることがあったって聞いたよ。」
耳が痛い。
「これからどうするの?本当に無理しないでよ?」
「でも、今の仕事からフリーになるのも不安で。」
そう。いきなりフリーになるのも仕事がなくなってしまう可能性だって、ないわけじゃない。貯金はしているものの、十分とは言えない状況でもある。だからこそ、悩んでしまう。
「確かに不安があるのはわかる。でも、私は圭ちゃんが心配。体が資本なんだから。」
「そうですけど…。」
なんて返していいかわからず、言い淀んだ。
「圭ちゃん、一回上司に相談してみてもいいんじゃない?」
「そう、ですね。考えてみます。」
仕事環境の話は、それで終わって、その後は普通に食事を楽しんだ。
うん、楽しんだ。
相談に乗ってもらったのに、結局頭がごちゃごちゃして、どうしたらいいかもうわからなくなって、半泣きになりながら溜息をつき歩く帰り道。先輩はいつも優しくしてくれる。
「あとちょっと頑張って、仕事をどうするか考えてみないと。」
嫌がらせをどうやり過ごすか考える、と同時に仕事の予定を確認するために手帳を開いたら、小さな紙が一枚ひらひらと足元に落ちた。
それは、この前手帳に挟んでおいたメモだった。
『今住んでいるところから比較的近くて、田舎すぎない田舎で、できるだけ家賃が安いところ』と書いてあるそのメモを見て、ギリギリ抑えていた涙が溢れ始めた。と当時に笑いもこみあげてきた。
改めて見ると、なんともまあ欲張りな条件。子どもが夢を見ながら書いたような条件。でも、これは私にとって”理想”なんだ。
「よしっ。」
一昨日、先輩に相談したばかりだけど、上司に取り合って懇談をすることになった。
懇談の中で洗いざらい話した。嫌がらせが酷くなっていること、仕事を辞めるかずっと悩んでいたこと、その他にもぽつぽつと。
「亜厂ちゃん的にはどうしたい?今の段階ででいいから聞かせてほしい。」
「えっと…その、私、フリーになって田舎で暮らしたいと、思って、ます。」
「フリーになって。」
「はい。」
「田舎暮らしを。」
「はい。」
あれ?まずかったかな。まだ3年だしな。やっぱり急すぎるしあきらめるしか…
「いいんじゃない?正直、田舎暮らしとか憧れてるから羨ましいなぁ。」
そう言ってくれた上司は、とてもいい笑顔だったからちょっと拍子抜けした。
「亜厂ちゃんは頼れる新人って感じが強かったから、いなくなると考えるとちょっと名残惜しいな。」
「えっと、止めないん、ですか?」
「止める必要はないでしょ。人生何があるかわからないんだし、亜厂ちゃんのことだから自分の考えをもっての決断のはずだし。」
涙をこらえるために口をぐっと結んだ。
とまあ、上司からは惜しまれつつも今の職場から離れることに決まった。
まあ、いいように言ってるけど。これからのことは、今まで以上に真剣に考えないといけないな。
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これから毎週水曜日にこのシリーズの続きを投稿していきます!
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次回もお楽しみに!
梔子。
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