ちょっと変わった田舎暮らし、はじめます。#5お別れ
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4月6日。今日の夜は、フリーになることを先輩に報告の電話をした時に話していた食事の予定がある。
題して『圭ちゃん門出の会』、先輩が考えたらしい。
先輩はちょっとした小ボケが好きで、何かしら名前を付けることがよくある。先輩のデスクに置いてある小さいサボテンにも「うさちゃん」と名前が付けられているぐらいだ。
今日はそんなお茶目な宮野先輩と、面談をしてくれた私の上司の卜部と私で3人だけのお別れ会的な食事へ行く。
お別れ会をするという事は、もちろん家が決まったわけだけど、締め切りより早めに仕事を完結させたり、引継ぎをしたり、仕事の合間を縫って名川町へ行って手続きをしたりと、大忙しだった。
早めに決めようと思っていたのに、決まったのは結局10日前の3月27日だ。まあ、決まってからも引っ越しのために荷物をまとめたり、その荷物を送ったり大忙しだけど。
一人暮らしとは言え、部屋の中の荷物をまとめるのは一苦労で、当然家が決まってからから荷物をまとめている訳だけど、あとは持っている服をまとめたり、食材をどうするかだけなので、今日でなんとか終わりそう。
今日も朝食などを済ませてから、すぐに取り掛かった。
当然だけど、仕事を辞めると決めた時に、引越し前にやることを調べておいた。
引越し1ヶ月前から買い置きをストップすること、1週間前からはできるだけ買い物をしない方が良いこと、他にも気にかけることが多いけど、うちの地域は月曜日と木曜日に燃えるゴミの収集がくるので、ギリギリゴミ出しの課題は心配ないだろう。少し掃除をしながら、荷物をまとめていった。
12時をちょっとすぎた頃、スマホの通知が鳴った。
『夜8時にいつものところで!』の文面からも先輩の上機嫌度合いが見て取れるようなメッセージが届いていた。14時には完全に終えられそうなので、近くのコンビニに行ってお昼を済ませる。
服をまとめていると、たまたま私服も着回しが効くものばかりだったので、畳んでリュックの中に積み重ねて入れれば入った。もともと、明日に自分で持っていく予定だったけど、リュックに全部入るとは思っていなかった。
これなら、移動も少しは楽になる。
荷物をすべてまとめ終えると、ちょうど14時20分になっていた。
「これなら間に合うね。」
まとめ終えた荷物をもって、今日寝泊まりするカプセルホテルに向かうことにした。
「7年間、お世話になりました。」
しばらく暖かい日が続いて、すっかり春になった4月上旬。玄関を出る前に部屋に向かって頭を下げた。名川町ではどんな生活になるかわからない。いろいろな願いも込めて——行ってきます。——
夜8時、先輩と上司主催の3人だけのお別れ会が始まった。ちょっと豪華な食事とお酒が用意されていた。話題は私の移住先の話になった。
「そういえば、どんなとこに決めたの?」
「えっと、ここに決めました。」
手続きのときに撮っておいた家の写真を見せつつ答えた。
「おー!良い感じの家じゃん!」
「どんなまちなの?」
上司の卜部も食いついてきた。
「名川町っていうトカイナカを最近売りにしてる町です。」
「うーん、あんまり聞いたことないとこだね。」
「駅で言うとどのあたりなの?」
宮野先輩も興味津々だった。
「えっと、山手口駅で乗り換えて、日向台って言う駅で降りるんです。」
「日向台、日向台、」
忘れないうちにと、先輩も上司も二人して調べ始めて、なんだか滑稽だった。
「向こうについて、落ち着いたら招待してよ!」
僕も、と卜部も手を上げながら乗ってきた。
「わかりました。落ち着いたら招待します!」
話も盛り上がり、ちょっと豪華な食事をおなか一杯食べて過ごしたお別れ会は日付が変わる寸前まで続いた。
昨日はすごく楽しかった。しばらくは先輩にもあえなくなるけど、寂しさが残らないほど楽しかった。昨日の余韻に浸りながら、カプセルホテルを出る準備を始めた。
今日から、大学に入学した7年前から住んでいた家賃10万円の部屋から、”トカイナカ”をウリにしている名川町の古民家に住むことになる。
名川町は、南部と中部は駅やショッピングモールがある「まちエリア」と、北部の田園風景が広がる「田舎エリア」に分かれている。と言っても、南部から北部にかけて、グラデーションのように田舎風景が増えていく感じだ。
私がこれから住むのは、まちエリアから12~13キロ離れた北部の田舎エリアにある。
名川町で、空き家の管理を任されている中村さんと相談しながら決めたときに、「この家は状態がいいから、最初の改装だけしてしまえば家賃はほぼゼロに近い。」というのも魅力的に感じたので、ここに決めた。
全く知らない土地に一人で住むのはちょっと不安だけど、楽しくなりますように。
チェックアウトして、駅へ向かった。
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最後まで読んでいただいてありがとうございます。
次回からやっと、圭の移住生活が始まります!
お楽しみに!
梔子。
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