蜂八 憲

もの書く虫。創作チーム「超水道」でシナリオなど担当。文庫本のようなビジュアルノベル「デンシノベル」を制作しています。代表作は『佐倉ユウナの上京』シリーズ / 単行本『こうして魔女は生きることにした。』など。お仕事のご依頼 ▶ 8yaken@chosuido.jp

蜂八 憲

もの書く虫。創作チーム「超水道」でシナリオなど担当。文庫本のようなビジュアルノベル「デンシノベル」を制作しています。代表作は『佐倉ユウナの上京』シリーズ / 単行本『こうして魔女は生きることにした。』など。お仕事のご依頼 ▶ 8yaken@chosuido.jp

マガジン

  • 《短編小説集》なにがしかの話

    物語の半分はほろ苦さでできています

  • 《エッセイ集》何時ぞやのこと

    人工甘味料は使用しておりません

  • 《長編小説》Angel Doll

    「超水道」加入以前に書いた作品をお蔵出し。冬の一週間を舞台に描かれる、人と人形のお話。全10話。 ◆文:蜂八 憲 ◆絵・音楽:真島こころ http://flower-prayer.com/

最近の記事

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失恋歌を聴くようになった12年間の話

 僕が幸せなラブソングを聴かなくなったのは、いつからだっけか。  確か、中3の12月。英語の授業で洋楽を紹介された頃のことだ。そこで教師が取り上げたのは、三つの曲だった。ワムの『Last Christmas』とカーペンターズの『I need to be in love』、それからもう一つ──。  飛び跳ねんばかりに陽気で、ポップな曲調。そのくせ、配られたプリントの和訳歌詞には「傷心」だの「別れ」だのと物哀しい単語が散りばめられている。若い女性と思しき声は、教室の古びたカセ

    • 【怪しい談】あついねえ

       ちょうど今頃の、暑い盛りでしたね。  その日、僕は林へ音を録りに行ったんです。  僕たちは普段、ビジュアルノベルと呼ばれる作品を制作しています。ビジュアルノベルとは、簡単にいえば「電子媒体の特長を活かした小説」とでもいいましょうか。文章を主体としつつ、絵や楽曲、画面効果といった演出によって彩られた物語作品をそう呼称します。  僕たちの作品の強みとしては、ビジュアル表現の豊かさもがありますが、音にも結構こだわりを持っておりまして。環境音を実際に録りに行ったり、効果音を自作

      • 高校の先輩が大学で後輩になった日々の話

         大学三年生にもなると、サークルの新歓コンパも慣れたものだ。いつもの居酒屋。お決まりのプラン。そして、お馴染みのイベント──新入生による自己紹介。 「大学生活、サイッコー!!」  トイレから戻ってきた俺を出迎えたのは、とある新入生の雄叫びだった。  タンポポじみた金髪に、スポーツサングラスをかけた男。声も大きけりゃ身体もデカい。遠目に見ても、おそらく2メートル近くあるだろうか。十字架と謎の英文がデカデカとプリントされたTシャツに、くたびれたウォッシュジーンズという出で立

        • 好きな人ともう一度眠るまでの日々の話

           お布団には、夜の12時までに入るべし。  それが、この家でのルールだった。 「佳夜ちゃんは育ちざかりなんだから、これぐらい早く寝なくちゃ」  それが、家主である月子さんの口ぐせだった。でも私に言わせれば──同年代の、中学に入学しようかという少年少女なんて、もっと早くに眠っていると思うのだ。そのルールはむしろ、月子さん自身のためなのだろう。私がこの家に来るまでは、いつも夜の3時すぎに寝ていたらしいから。  ともあれ、私は今日も今日とて、月子さんと一緒に寝る準備をする。お

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        失恋歌を聴くようになった12年間の話

        マガジン

        • 《短編小説集》なにがしかの話
          21本
        • 《エッセイ集》何時ぞやのこと
          6本
        • 《長編小説》Angel Doll
          13本

        記事

          にーちゃんみたいになりたくなかった話

           兄ちゃんが亡くなった。東京のマンション自室で。死因は病死、いわゆる「孤独死」。俺がまだ、中3の頃のことだ。 「……にーちゃんは、東京に行ったりしないよな?」  地元の葬儀でそう尋ねた俺に、彼はゆっくりと頷いた。 「行かないよ」  たぶん、と小さく付け加えたのを、俺の耳は聞き逃さなかったけれど。その自信なさげな面持ちを、見ないようにもしたのだけれど。それでも、俺はにーちゃんのことを信じようとしていたのに。 *** 「俺、ワセダに行きたいと思ってます」  高校最後

          にーちゃんみたいになりたくなかった話

          好きになりそうな人と写真を撮った夜の話

           ES──エントリーシートなんてのは、自室でひとり粛々と書くに限る。大学のラウンジで、それもお喋りな女友達と一緒にやるべきことではないのだろう、たぶん。 「ところでさ、にっしーは今度の日曜って忙しい?」 「いちおう空いてるけど」 「了解、じゃあ『デート』の件はその日にしない?」  予想外の単語が耳に飛び込んできて、俺は危うくESの清書をミスりそうになった。「いやちょい待ち、どういうことなの」手を止めてそう問えば、イチカワは「飲み会での話、忘れたの?」と目を丸くした。瞬間、

          好きになりそうな人と写真を撮った夜の話

          音痴の人魚に歌を教える譚

           ある日の夕暮れ、とある国の北の果て。  大海原を望む断崖のふちに、一人の男が腰掛けておりました。豊かに蓄えられた白髪、顔に走る幾筋もの皺。薄汚れた粗末な衣服もあいまって、遠目に見れば崖縁に引っ掛かった雑巾といった風情です。  男は、眼下の岩場に散る波飛沫をじっと眺めておりましたが──やがて意を決したように、懐から笛を取り出しました。かつては都でも当代随一と謳われた吹き手として、奏でずにはいられなかったのです。  自身が布切れではなく、人間なのだと知らしめるために。まだ

          音痴の人魚に歌を教える譚

          三代目「我が家のカレー」ができるまでのこと

          里帰りにて食ひたきもの帰省したら食べたいものが、2つある。 ひとつは、地元・福岡の豚骨ラーメン。 もうひとつは、実家のカレーだ。 なんなら、実家のカレーを食べるために帰省しているといっても── ……それは流石に過言なのだけれど、楽しみの一つであることは間違いない。 そして僕はちょうど、帰省を明日に控える身なのだ。 帰る理由もあいまって、昔のことを思い出したので記そうと思った。 現時点で三代目となる、僕にとっての「我が家のカレー」について。 初代「我が家のカレー」は

          三代目「我が家のカレー」ができるまでのこと

          帰省の時だけ会う彼女との8年間の話

           ──いつの頃から、帰省が億劫になったのだろう。  大学受験を機に上京して、はや10年近く。俺の記憶が正しければ、就活が始まったあたりで一気に腰が重くなった覚えがある。  決して安くはない、東京・福岡間の往復運賃、そして移動時間。「せっかく帰ってきたっちゃけん」と強制的に催される親戚回り。行く先々で大量に供される、仕出し料理と親戚たちの近況報告。  去年は特に気疲れした。恋人を連れて帰省したからだ。そもそも両親だけに顔見せする予定だったのに、翌日には親戚たちが大挙してウ

          帰省の時だけ会う彼女との8年間の話

          辺境魔女が旅巫女と別れるまでの譚

          「冗談じゃねェや!!」  狭い一室に、男の絶叫がこだました。 「もうすぐ祭りなのに値上げだァ!? ただでさえ高っけえのに!!」  怒声とともに男は値札を指差す。  いわく、そこにはこうあった。 <防腐薬 銀10 改め 銀15>  椅子に座った老魔女は、あばた面を掻きながらうんざりしたように告げた。 「特別価格で5割増しだよ。雨季は気分が滅入るからね、薬の精製にも普段より労力がかかる──何度言ったら分かるんだい」 「去年は2割増しで済んでたじゃねェか!」 「去年は去年、

          辺境魔女が旅巫女と別れるまでの譚

          物語をもう一度書き始めた21歳の時のこと

          「主人公でも脇役でもない。仮に自分がこの物語の世界に迷い込んだとして、話の焦点が自分に当たることは絶対にないんです。……僕が送ってきた大学生活っていうのは、要するにそういう感じなんです」 ***  今月初め、所属している創作チーム「超水道」にてiPhone向けノベルゲームをリリースした。正確に言うと「再リリース」だ。iOS移行に伴う64bit化問題への対応がようやく完了し、めでたくAppStoreで公開できる運びとなった。 「デンシノベル」と銘打っている本作は、数多ある

          物語をもう一度書き始めた21歳の時のこと

          好きな人とAVを鑑賞した夜の話

           ──どうして、こうなってしまったんだろう。  6畳のワンルームに響く、女の甲高い喘ぎ声。肉と肉がぶつかりあう、重くて湿っぽい音。それらの合間を縫うようにして漏れ聞こえる、男の荒い呻き。  テレビ画面のなかで蛇のごとく絡み合う彼らは、「観られる側」としてこの状況をどう思うのだろう? そんな他愛もない問いが脳裏に浮かぶ程度には、室内は溢れんばかりの倦怠感で満ち満ちていた。  ちゃぶ台を囲んで画面を眺める、僕ら3名の男性陣。そして、傍らのベッドに腰掛けている紅一点──イガラ

          好きな人とAVを鑑賞した夜の話

          夜間限定彼女が願い事をした夜の話

           屋上に続くドアの鍵を回すと、ほのかに温かい風が僕らの頬を撫でた。明日からは9月だというのに、まだまだ秋の気配とは程遠い。彼女──ハツカが「ぬるいね」と笑い、僕も「ほんとにね」と頷く。  大学4年生の、夏。  言い換えれば、僕らにとっては学生最後の夏休み。とはいえ、なにか特別なことが起きるわけでもない。もっとも、別に「起きてほしい」とも思っちゃいないのだけれど。   今日も今日とて、いつもどおりだった。  ハツカが昼頃に僕の部屋にやってきて、誕生日プレゼントとして最近

          夜間限定彼女が願い事をした夜の話

          銭湯帰りに女に尾けられた21歳の時のこと

          「心霊体験ってしたことあります?」  ごく稀に、そんな問いを投げかけられることがある。  時期は決まって夏だ。  季節柄、その手のネタが話題に上りやすいということもあるのだろう。 「オバケかどうかは、分からないんですが」  そんなふうに曖昧な前置きをして、そのつど僕は、あの日のことを語る。  2011年ごろ──僕がまだ、大学生だった頃のことだ。 ***  その日、僕はワンルームの自室に友人を招き、二人でWiiのスマブラに興じていた。  遊び始めたのは夕暮れ頃だっ

          銭湯帰りに女に尾けられた21歳の時のこと

          肉団子の霊と同居した日々の話

          「あの、センカワさん──来月末で、退職させて頂きたいです」  仕事終わりに誘われた酒の席で、部下に頭を下げられた。 「次は決まってるのかい?」 「はい、入社時期について先方と交渉中でして……」 「わかった、社長には俺から話を通しておくよ」  俺がそう言い終わると同時に、狙いすましたかのごとく料理が運ばれてきた。こぢんまりとしたテーブルが、瞬く間に賑やかになる。早速とばかりに箸をつけるこちらをよそに、目の前の部下は呆気にとられたように固まっていた。 「……どうかした?」

          肉団子の霊と同居した日々の話

          【絵本】はざまのローザは わすれない

          はじめに本作は、2015年冬のコミックマーケットにて有料頒布した同名の絵本作品を電子化したものです。 昨今の休校措置、および一部地域での外出自粛といった動きを受け、このたびnoteでも無償公開といたしました。 (¥100の価格設定は、蜂八憲および所属サークルである『超水道』を応援してくださる方向けの「投げ銭」用です。当コンテンツおよび掲載リンクは全文無料でご覧になれます。) ささやかなお話ではございますが、お楽しみ頂ければ幸いです。

          ¥100

          【絵本】はざまのローザは わすれない