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備忘録(読書感想文『まだ知らない青』④)

【五行目に焦点を当てて】

……の後半です。お読みになっていない方は、こちらも、どうぞ(長いです)。

【あなたなの?私なの?五行目】

厳密には【あなたなの?私なの?作者なの?読み手なの?犬なの?猫なの?五行目】です。

混乱気味な、そんな三首を。

「わるい人じゃあないのよ」
最後にそう結んで
肯定している
その人でなく
自分を

自分を……あー!、気づきませんでした。あー!五行目。よく言います。枕詞でも、結語でも。でも気づかずに、相手の全体像を「悪い」と言っているのではなく、部分的なところを指摘しているつもりで言ってました。

でもでも、人に対して、「やだな」って思うところは、自分の中の「やだな」に、大概該当します。それは前から気づいてました。

だからきっと、そうかもしれない。言うだけ言って「わるい人じゃあないのよ」と自分をかばってたかも。当人には言えないことを、第三者に向かって。

これからも使うとは思うけど(でないとストレス溜めちゃう)この歌の芯は心に留め置きしておこうと思いました。

おまけですが、私の枕詞・結語は他にもあります。「人のことは、言えないけどね」

(閑話休題。「知らんけど」は方言です)。

それにしても、なんでこの歌だけ、ですます調?

一途な
いきものだって
思いたい
あなた以上に
私が

私が……あなた以上に?本当に?五行目。人としてではなく、いきものとして、「あなた」より一途だと?

少しけもの臭がする。でも、ケダモノ臭というほどではない。野生の動物ではないが、犬や猫に代表されるペットの消せないけもの臭。

飼ったことないけど、ペットって、一途だよね。食欲とか、遊んでほしいとか。ご主人様だと思う人には。相手の都合などお構いなしに(知らんけど・笑)。

「愛されたい」は受け身だけれど、ピュアな熱で、能動的に歌ってみると、こうなっちゃうのかも。

「あなた」のけもの臭が「愛する」より「愛されたい」が強くって、同じ性質だったから、ちょっとイラっとしたのかな?(あんまりいい表現ではないなぁ…)

「愛されたい」VS「愛されたい」
でも、戦わずして、認めさせたい。

それとも「あなた」というのは実は五行歌的仮の姿で、本当は、かわいいワンちゃんか、ねこちゃんのことで、作者は、にんげん代表として、一途さを張り合っている……。

そんな訳はない。

マトリョーシカを開くたび
私が出てきて笑んでいた
さいごに
一番ちいさい私が言った
貴方じゃないって

貴方じゃないって……え、えっと、わ、私のこと?五行目。マトリョーシカを開いているのは、作者のはずだ。そしてマトリョーシカも作者の姿をしているんだよね?

だから「一番ちいさい私」も作者なんだよね?

なのに、五行目で「貴方じゃないって」と言われると、え、えええ?わ、私?私なのって、ビビっちゃうのは私だけ?

最初は「本音と建て前」なのかな?と思って読み進めていた。随分と建て前が自分の中心部までしみ込んでいて、自分でも本音が、わからなくなっているんだなって。

で、ボーっと読んでると、急に突き刺してくるのだ。
「貴方じゃないって」。

もしかしたら作者は「貴方じゃないって」とマトリョーシカを開いている行為を続けてきた作者自身を否定することで、永遠に本音を自分の内側に問い続けるループを描こうとしているのか。

それとも、内に内に問い続ける自分に「貴方じゃないって」というアンチテーゼを放ち、外の世界へ目を向けさせようとしているのか。自浄作用のようなものなのか。

そんな解釈をしたところで、なんの役にも立たず。

もはやこれは、
言葉の『飛び出す絵本』。
何回読んでも、突き刺してくる。

貴方じゃないって、貴方じゃないって、貴方じゃないって……。

もしも、私以外で、突き刺された方がいれば、きっとこれは、作者の意図するところではないと思います。それはお伝えするとして。

でも、ドキッとしますよね(笑)。ひたすら同意を求めたりして。

【まぶしいぜ!五行目】

眩しいけれど、優しい気持ちになれる。

そんな二首を。

白菜の漬物が
奇跡的に美味しくできたと
電話口の母
翌朝、宅急便で
「奇跡」が届く

「奇跡」が届く……スイッチオン!五行目。もしも五行目に「奇跡」という言葉がなかったら、ただのありふれた日記に近い短文になっていただろう。でも、『「奇跡」が届く』としたから、逆に、眩しく光る歌になった。

五行目の「奇跡」は電源のスイッチ。

逆回しで光らせていく。

四行目で、「奇跡」は翌朝の宅急便で到着したことが分かったが、それも作者にとっては「奇跡」だったんじゃないだろうか。
果たして、作者は知っていたんだろうか。翌朝に「奇跡」が届くということを。そして朝たまたま作者が、家に居たから、宅急便からそれを受け取れたのではないか。それもまた「奇跡」なのでは。

三行目の「電話口の母」は、翌朝に宅急便で届けるために、多分午後四時までに「奇跡」を持ち込まなければならない筈で、「奇跡」を家の中にある道具(タッパーとか、ジップロックとか)を駆使し、ああでもないこうでもないと包んで、取扱店に行かなければならない訳で。そんないきおいが、とても眩しい。

また、そもそも二行目の「美味しい」という形容詞に「奇跡的」という修飾語を添えるお母様の表現力、テンション、よほど嬉しかったのではないか。また、その言葉を聞き逃さなかった作者の上手な会話のやり取りも光っていたのではないか。

奇跡的に美味しくなった、一行目の「白菜の漬物」。その奇跡的に美味しくなった道のりは、どうだったのだろう。決まりきったことをすれば美味しくなるとは限らない。でも今回は妥協点、合格点を越えて、奇跡的に美味しくなったのだ。白菜の白いのつやつやした光が、こちらの食欲まで見透かす。

めちゃくちゃ照らし出しましたが(笑)

多少のフィクションも入っているかもしれないが(例えば宅急便が着いたのは翌朝ではなかったとか、そんな微妙なフィクション)お母様が奇跡的な白菜の漬物を作ったこと。それが作者にとって面白かったことは間違いないだろう。

だって、こんなに楽しくて眩しいのは、作者の素直さとお母様の天然さの賜物としか思えない。

ごちそうさまでした(笑)

会いたいひとが
会いたいと
言ってくれて
きらきら
お天気雨のきぶん

お天気雨のきぶん……それは楽しみだ。五行目。もともとこの歌は、【いらないんじゃね?いるんじゃね?五行歌】に分類していた。でも、他の二首と重みが違うので、こちら分類した。

なので、この歌も、実質的には、四行目までで、伝わってくるものはある。四行目までなら、一枚のイラストでも描けるんじゃないかなって気さえする(実際描いてみたけど下手くそすぎてアップできない)。

ただ、四行目「きらきら」は、歌の着地としてもそんなに悪くないのだが、五行目を読むと、イラストでは描けない質感を持つ「きらきら」となって、さらに深みが増してくるのだ。

こんな風に思わなかっただろうか。
「なんできらきらなの?わくわくじゃなくて?」……そこよ、そこなんよ。

五行目「お天気雨のきぶん」ときて、読み手は、晴れていることによる、雨のきらめきで(人によっては虹も加えて)、「きらきら」をより具体的に作者のイメージの質感に近づくことができた。

お星さまの「きらきら」でもなくダイヤモンドの「きらきら」でもなく、
雨と晴れが同時に合わされないとお目見えしない、「きらきら」。

会いたいひとに会いたいと言うことは、作者にとって、そんなにハードルが高いことではないのかもしれない。だがそれ故、逆に、会いたい人に会いたいと言われることのほうが、滅多にないことなのかもしれない。

それから、会いたいといってくれた人は、「懐かしいひと」というほど、作者にとって、過去の人でもないのかもしれない。滅多に合うことはないけど、今の作者とつながりがちゃんとあるような人。

また、お星さまやダイヤモンドと違って、この「きらきら」はウェットな質感も内包している。「お涙頂戴」とまでは言わないが、最近の近況だけではなく、ちょっとしたディープな話もできる「会いたいひと」なのだろう。

明るい話もしみじみした話も、きっとできる人なのだろう。

読み手の方まで、きらきらしてくる。
あぁ、よかったね。楽しみだね。


機械的に五行目にこだわったけど、体言止めで、キリリと決まっているものは除外したし、読み返せば「これ、抜けてたわ」と思うものもあるような気もします(もう振り返らないけど)

五行歌を鑑賞したことない人や、この歌集が好きな人の「そうなの!そういうことだったのよ!」という言語化の一助になればいいんだけれど。

っていっても、実際には私だって、最初に読んだ時は「うう…」「うわ~」「がー!」「んくー!!」「きゃは」などの擬音語擬態語ばっかりでした。

その擬音語擬態語の正体に近づこうとするのは、楽しい。一見、大変そうに見えて、実は楽しい。

現実は厳しい。私はまだお仕事が不安定で、これから先、さて、どうしようかなという状態ですが、久しぶりに目の前にあることだけに集中して、体は痛いが(肩こりが……・笑)充実しました。

お礼の手紙代わりにこちらで書くことを快諾して下さった、作者である、歌人、水源純さん、Twitterやnoteの「いいね」や「スキ」を下さった方々。そして、長文なのに、お立ち寄り下さった、様々な方々。ありがとうございました。

また、通常営業の過去の五行歌(最近の歌は、ない。わはは)と写真のコラボに戻りますが、そちらの方も気まぐれにお立ち寄りくださいませ。

それでは。





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