その治療の先に、回復はあるの?
以前、鍼灸師として悔しいなと思ったことがあります。
その患者さんは、かなりひどく首を痛めて、麻酔科(ペインクリニック)に行って、痛み止めを打ってもらっていました。それと併用で、鍼治療も受けておられたのです。
痛みは「物質」で、「発痛物質」というのですが、
ときに、それがあふれて止まらない状態になることがあります。
そういうとき、麻酔で痛み止めをすることで、発痛物質の生産サイクルがおさまる…ペインクリニックはそういう治療をするところです。
この治療は有効な治療法ではあるのですが、痛めた患部を「治しているわけではありません」
むしろ、身体を治す白血球や赤血球は、痛みがある場所に集まるので、痛みを先に止めると、傷が十分修復されないうちに、自然治癒が中断してしまいます。
痛み止めが効いてると、血球たちはどこに行っていいか傷を見失います。結果、傷が放置されるので、傷がふさがりにくくなるわけです。
手術で傷を縫うことがありますが、あれは、縫ったことで傷がくっつくわけではありません。縫わずにホチキスで止めても一緒のことで、ホチキスで「押さえ」をしている間に、「細胞分裂」が起こって、傷がくっついているのです。
細胞分裂を起こすのは赤血球が細胞に十分な栄養を与えるから。白血球が、壊れた細胞を食べて整地してくれるから、です。それが「自然治癒」なのです。
つまり、外科手術であっても、主役は「自然治癒力」で、手術はただの「手伝い」です。
おかしなもので、人はときに、「痛みを麻酔で止めて」(ごまかして)仕事をしたがることがあります。
でも、いつもいつもそんなことをしていたら、キレイにふさがってない傷が残ることになります。
一時的にはそれで良くても、治りきってない傷が身体に残っているということが、身体にとって良いはずありません。後々困ることが多いです。(年月が記憶を混乱させるので、老年期に入ってから、何故痛いのか分からない、原因不明の痛みに苛まれることになります)
鍼灸治療で、鍼をしたとき、たまに「異様に痛い」ときがあります。
普通の、鍼の痛さではなく、「生傷をえぐられた」ような痛さです。
その異様な痛さこそ、まさに鍼先がそんな古傷をえぐったとき起こる痛さなのです。
だから私は、安易な痛み止めの使用には反対ですし、鍼灸の鍼が痛いということの意義は、自然治癒力を働かせるためだと思います。
(痛いから麻酔をして鍼をしたらいいのに、というご意見をいただくことがありますが、痛いこと自体に価値があるので、今後も鍼治療に麻酔が使われることはないと思います)
痛みを長く我慢しすぎると、脳が痛みを学習する・・・というバグが生じることがあり、ペインクリニックというのはそれを予防する大切な仕事をしておられると思います。
しかし、それは適切な意図で使った場合だけだと思うのです。
痛み=悪
なのではなく、痛みのことを、「必要なもの」なのだという前提にたってないと、自然が作り出した「仕様」から外れ、逆に身体を壊してしまうことになるのは、先ほど書いた通りです。
とくに、ペインクリニックは、「早く、ちゃんと治す」という目的で使ってはいけないものだと思うのです。
麻酔をすれば痛みは消えますが、治しているわけではないので。
私の後悔とは、「あなたの場合、ペインクリニックは違う」と思いながらも、鍼灸師という立場上、患者さんに「この場合、ペインクリニックじゃないんじゃないですか?」と言えなかったことです。
痛いときは、まず痛みを消したいと思うのが人情。
痛みを消してくれるクリニックに行きたいのは理解できますし、間違ってない。
でも、最初期こそ痛み止めを使っても、それで治したことにはならない。
第二段階の「きれいに治す、きちんと治す」治療は、それとは別にやらなくてはならなくて、そういう治療こそ鍼灸の本領なのです。
あの時、そういう風にきちんと説明できていたら…。
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